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ワインナビゲーター岩瀬大二のチリワイン再発見の旅

「オーガニック」「クールクライメイト」「セパージュ」「ツーリズム」の4つのキーワードでつづる

5つの取材メモ〜チリの地理からガストロミーまで〜

書きもらしたチリとチリワインに関するあれこれをまとめてみた。

1.地理

西に太平洋、東は高峰が連なるアンデス山脈。南北は4329km、対して東西は平均175㎞と、海岸線に沿ってとても細長い国。

北部は砂漠地帯で南部は極寒地域ということで、ワインの産地は首都サンチアゴを中心とした中央部。

日照時間が多く、特に収穫時期に雨がほとんど降らないという格好の気象条件。これに加えて、湾岸部では朝晩の冷え込み、日中の寒暖差も後押しをする。四季も感じられ、冬はスキーも楽しめ、春の訪れとともに花々も咲き誇る。

中央部のワイン産地を大きく分けると、北のコキンボ地方、中央のアコンカグア地方とセントラル・ヴァレー地方、南のサウス・ヴァレー地方となる以前は、東西を輪切りにするよう形でエリア分けがされていたが、その中でもアンデス山脈に近い場所から、冷涼な沿岸部まで幅広い環境が混在し、より狭い範囲の渓谷単位でも個性が変わり、栽培されるブドウ品種もそれぞれ特徴があるため、ワイン生産の最北端であるエルキ・ヴァレー、リマリ・ヴァレーから最南端のマジェコ・ヴァレーまで細分化されている。

さらに現在では東西に分けていくという考え方も。この考え方で大きく分けると、東からアンデス山麓の「アルトアンデス」、中央の平坦地帯「セントラル・ヴァレー」、海岸山脈の東側「インテリオール」、沿岸地帯「コースタル」と4つの地域となる。

地理的なメリットとしては、北の砂漠、南の氷、西の太平洋、東のアンデスと隔絶された環境、またおおむね乾燥している気象状況と、徹底した植物の検疫が功を奏し、ブドウ栽培の大敵であるフィロキセラ、ベト病が存在しない。そのためオーガニック栽培に適した土地でもあることから近年、オーガニック、ビオディナミに舵を切る生産者も増えている。

2.品種

パイスを使った高品質スパークリングワインに挑むのは最大手「ミゲル・トーレス」。親しみやすさとピュアさを生かしつつ、洗練を感じさせる。 

厳密な意味では地品種はなく、基本的には国際品種が栽培される。

ヨーロッパで壊滅的な打撃を与えたフィロキセラの発生の前に持ち込まれたボルドー系が主軸で、世界的にはカベルネ・ソーヴィニヨンとソーヴィニヨン・ブランの評価が先行していたが、近年はチリの土壌、風土に合わせて新しく主流になりそうな品種も多い。

また古くから栽培され大衆化していた「パイス」の再評価、まだ生産量としては少ないが大小のワイナリーが注目する「カリニャン」へのアプローチ、「モスカテル・デ・アレハンドリア」の高品質化など注目したい動きがある。

代表的な白品種
ソーヴィニヨン・ブラン/シャルドネ/モスカテル・デ・アレハンドリア/セミヨン/ヴィオニエ/ソーヴィニヨン・ヴェール/トロンテス/リースリング/ペドロ・ヒメネス/ゲヴュルツトラミネール

代表的な赤品種
カベルネ・ソーヴィニヨン/メルロ/カルメネール/シラー/パイス/ティントレラス/ピノ・ノワール/マルベック/カベルネ・フラン/プティ・ヴェルド/カリニャン
※共に年間生産量順

3.評価

チリワインの評価を高める戦いを先頭に立って続けてきた総帥チャドウィックさんは、芯はピシッとしているが、フレンドリー、そしてなによりも気品あふれる人物。チリのプレステージワインを体現しているかのよう。

世界的にも大衆的ワインというイメージもあったが、2004年、「ヴィーニャ・エラスリス」と「ヴィーニャ・セーニャ」の当主エドワルド・チャドウィック氏が仕掛けた「ベルリン・テイスティング」により、プレステージクラスのワインとしての評価を高めてきた。

ベルリン・テイスティングは、1976年にカリフォルニア・ワインの評価を高めたパリ・テイスティング(パリの審判事件)のチリ版。

当時のトップクラスと評価の高かったフランス、イタリアのワインとブラインドで行われた評価で、1位に「ヴィーニャ・エラスリス ヴィニエド・チャドウィック2000」、2位に「セーニャ2001」が選出され、世界を驚かせた。

以降、コンチャ・イ・トロの「ドン・メルチョー」、コノスルの「シレンシア」など、数々のプレステージワインが世界的な評価を受けている。今後、日本においてもこうした上級チリを味わえる機会も増えるだろう。一方で、大衆路線的なワインの人気も持続。スパークリングワインなど新しい挑戦でも注目が集まっている。

プレステージクラスワインを多数有する「エラスリス」の次の挑戦は、より海岸に近い「アコンカグア・コスタ」エリアでの栽培。「Las Pizarras」ピノ・ノワールとシャルドネはじわじわと感動が広がる集中力からの親しみやすさ。計850ケースという希少ワインだが味わうべきアイテム。

4.醸造

コンクリート・エッグはチリにおいては定番化の様相。「ヴェラモンテ」にて。

「コノスル」で瓶詰めを待つワインたち。大量の樽が並ぶ光景は圧巻。

光学システムを導入したブドウ選別機をはじめ、最新鋭の機器を導入したヴィックの醸造施設。モダンかつスペイシー。建築好きにもおススメしたい。

「ラポストール」は醸造施設も作品か。フードル(大樽)が美しくレイアウトされる。

オーガニック栽培の流れでのクリーン、サスティナブルな環境は、大手ワイナリーを中心に醸造施設においても展開されている。またモダンワイナリーともいえる近代的で洗練され、かつ合理的に設計された醸造施設は、世界を見渡しても先進モデルといえるだろう。

醸造、熟成においては、ステンレスタンク、オープントップのステンレスタンク、フレンチ&アメリカン・オーク、フードル(大樽)、コンクリートタンクなどを巧みに組み合わせるワインメイカーも多いが、高い評価を受けるワイナリーは、ブドウ本来の良さを生かすために樽からのエフェクトについてはあまり派手にかけることはないようだ。

特筆すべきは「コンクリート・エッグ」。今回訪問したオーガニックを標榜するワイナリーのほとんどが導入。熟成段階で、自然な対流が生まれ、常に澱とコンタクトされる状態にすることを狙っている。

5.ガストロノミー

ワイン好きの旅となると、食ははずせない。チリワインを楽しむためにも大切な要素だろう。

チリは伝統料理がしっかり残っている一方で、都市部やモダンワイナリーでは洗練された料理とサービスも堪能できる。序盤に登場する定番料理は「セビーチェ」。魚介類と野菜や柑橘、ニンニク、青唐辛子にライムやレモン、コリアンダーなどをマリネした、酸味と爽快感を味わえる料理だが、なにせチリは魚介も野菜も果物も新鮮かつ、滋味もしっかりしていてうまい。この一皿はその恵みをさりげなく爽やかに堪能できる。合わせるならソーヴィニヨン・ブランかシャルドネ。セミヨンブレンドもいいし、強めのスパイスならオフドライのモスカテル・デ・アレハンドラも面白い。各ワイナリーでテイスティングする際に、どの白ワインが合うかを考えながらというのも楽しい。

おもてなし料理でもあり日常食でもあるのが「エンパナーダ」。チリ版ピロシキか、パン餃子か、というスナック的一皿。中の肉餡の味付けも、皮の部分もボリューム感やレシピも微妙に違い、飽きずに食べられる。

また、バーベキュー好き、肉好きでもあり、旺盛によく食べる。牛ならカベルネ・ソーヴィニヨンやカルメネール、羊を使ったモダンな一皿ならクールクライメイトのシラーやピノ・ノワールとともに素晴らしい時間を過ごせるだろう。

その前後には野菜たっぷりのサラダにオーガニックのオリーブオイル、そしてこれも名物のチリ産のミネラル感たっぷりの塩。これだけでも満足感たっぷりだ。

「モンテス」の敷地内に南米で人気のシェフがレストランをオープン。甘口ワインをソースにした牛肉のカルパッチョは、濃い目のシャルドネもいける。

シンプルな味付けが肉のうまみと甘みを引き出す。カルメネールと合わせて楽しんだステーキ。「カサ・シルバ」のゲストハウスのレストランにて。

この旅、最後のランチは「サンタ・エマ」ワイナリーのエンパナーダ。全部持って帰りたいぐらいのお気に入りだった。

「エミリアーナ」のランチはこのファームで収穫された新鮮野菜のサラダ。オリーブオイルももちろん自家製。シンプルだが感動的な一皿。疲れがじんわりと抜けていく。

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