
シュッド・ウエストは、ボルドーとラングドック=ルションの間に位置する
隠れたワインの名産地
ボルドーの南側、山々と大西洋に囲まれた起伏に富むこの地域は、実は、隠れたワインの名産地なのだ。アペラシオンの数がとても多く、EUが規定した食品やワインの格付け表記で最上位のAOP(特定の産地で生産される上級ワイン)が29、2番目のIGPは14を数える。
ガロンヌ川上流域からピレネー山脈北麓にかけて、広い範囲にワイン生産地が点在しており、ブドウ品種も多彩。個性的なワインが数多く造られている。
フランス有数の美食の地
この地域は、美食の地でもある。食品のクオリティの指標でもあるAOPやIGPが欧州で最も多く存在するのがこの地方なのだ。トリュフやフォアグラは、この地域の名産だ。鴨のコンフィやカッスレー(豆と肉の煮込み)などのフレンチの定番とも言える名物料理もここで生まれた。
この地を旅した人に、訪れたワイナリーの社員食堂で「フォアグラのワイン漬け」を食べたという話を、とても羨ましく聞いたことがある。従業員向けの格安価格なのに、とても洗練された仕上がりで、美味しかったそうだ。
シュッド・ウエストワインが注目を集める理由
シュッド・ウエストワインが、日本で注目されてきている理由は、その気軽さと多様性。ソムリエの石田博さんが、その解説をしてくれた。
「2007年からずっと拡大し続けていたワイン市場が、11年ぶりに縮小しました。減少の理由は、飲食店での消費量が減ったこと。この背景には、内食化(外食せずに家庭で食べる。ランチも弁当持参)というトレンドが間違いなくあると思います。
では、飲食店はどうすればいいのかというと、私はハコ(店舗)に合ったワイン選びがポイントだと言っています。今までは、ボルドーやブルゴーニュなどの有名なワインを置いておけばよかった。今は、それではダメで、店の特徴に合わせた差別化が必要なのです」
ワイン市場の成熟化という側面もあるだろう。ワインを飲む機会が増え、ワインの知識が少しついてくると、やはり定番ではない、少し珍しいものに触手を伸ばすのが常だ。
「これからのワインセレクトには、発見やストーリーといったいったことがキーワードになってきます。土着品種、あるいは個性的なブレンドのワインに注目が集まるようになるのではないでしょうか? 家庭では体験できない、飲食店ならではのペアリングもこれからますます求められるようになるのではないかと思います」
ワイン好きの素人の人たちのワインセラーを覗くと、そこにはプロ顔負けの品揃えがある。そんな人たちに、飲んでみたいと思わせるワインを、レストランは用意しなければいけないのだ。だからこそ、発見やストーリーといったキーワードが出てくるのだろう。まだ知らない品種や、感動のストーリーがあるワインを用意し、お客を驚かせ、楽しませることが求められるのだ。
「そう考えると、シュッド・ウエストワインに行き着く。何しろ、アペラシオンが多いから、ブドウ品種もブレンドの仕方も、さまざまな個性を見つけることができる。土着品種も非常に多く、つまり発見があるのです。価格も手頃なものが多いのもいい」
なるほど、それが今、シュッド・ウエストワインが注目を集めている理由というわけだ。考えてみると、内食傾向というトレンドにも合っている。発見やストーリーといったキーワードは、家飲み用のワイン選びでも、重要なキーワードだ。人々は、ブランドよりも自分の好みにあった、リーズナブルな価格のワインを求めている。成熟市場では、複雑すぎずに、親しみやすく、しかし良質なものであることが大切だ。これ、まさにシュッド・ウエストワインではないかと思う。
シュッド・ウエストワイン委員会は、「コンヴィヴィアル」なワインをキャッチフレーズにしている。みんなで一緒に飲み、食べ、和気あいあいと楽しむことをフランス語でコンヴィヴィアルと言う。確かに、仲間同士の飲み会や、ホームパーティなどに、シュッド・ウエストワインは最適な選択肢のひとつだと思う。