品質の高さに注目が集まる花巻ワイン
リースリング・リオンという日本固有のブドウ品種をご存知だろうか? リースリングと甲州を掛け合わせて作られた日本産のブドウ品種だ。このブドウ、山梨県で開発され、サントリーの主導のもとに各地で栽培を進めたのだが、現在、リースリング・リオンを使ったワインを生産しているのは、岩手県だけと言ってもいい。他の地域ではうまく栽培できなかったそうだ。開発をした山梨県でさえ、生産していない。
特に花巻では、とても品質の良いリースリング・リオンが育つ。いや、リースリング・リオンだけではない。メルローやシャルドネ、ツヴァイゲルトレーベなど、多彩なブドウが栽培され、そのすべてが高品質だ。特にツヴァイゲルトレーベは、ジャパンワインチャレンジ2016で国内最高賞を受賞するなど、その品質の高さに定評がある。
花巻ワインが、ひと際ユニークな個性を持つ理由
花巻が、なぜ個性のある美味しいワインを生み出し続けることができるのか? 他ではできないブドウを栽培することができるのか? その疑問を解決するために、大迫(おおはさま)ワインまつりが開催された日に合わせて、花巻を訪れた。
花巻は、奥羽山脈と北上高地に挟まれた北上盆地のの中にあり、夏暑く、冬寒い典型的な内陸性気候。雨量も少なく、ブドウ作りには適している。特に花巻ワインの生産地の中心とも言える大迫は、ボルドーの気候に似ていると言われ、昭和22年から、当時の岩手県知事、國分謙吉氏が音頭をとってブドウ栽培とワイン生産を始めている。
もう一つ、花巻には、他にない特徴がある。「土」だ。ここには、国内でも有数の古い地層が広がっている。日本列島の形成が始まったのが約5千600万年前の新生代と言われているが、驚くなかれ、それよりも古い5億年前の地質までもが分布していると言う。古生代の堆積性の変成岩、新生代の火成岩などが地中にあり、土壌には石灰質が多く含まれる。弱アルカリ性の土壌が、冷涼な気候と相まって、ミネラル感とキレのある個性豊かなワインを作り出すブドウが栽培されるのだ。
「高品質」を生み出すもう一つの理由
さらに、今回花巻に行ってわかったことがある。それは「人」が高品質の大きな鍵を握っているということ。
花巻の代表的なワイナリーである「エーデルワイン」を訪ねた時に聞いた話。使っているブドウは、すべて地元の契約農家が栽培したものだそうで、農家ごとにそのブドウを使ったワインを造っているというのだ。「うちのブドウ」で作ったワインを、各農家はそれぞれ近所の人や知人に振る舞い、その品質の高さを自慢するのだそうだ。だから、それぞれの農家は、競い合いながら非常にていねいに育てる。それぞれの畑は20アール、30アールの小規模なものばかりなので、隅々まで目が届く。品質のいいブドウができる理由は、そんなところにもある
そしてエーデルワインも、農家の誇りをかけたブドウを、ていねいにていねいに醸す。農家の頑張りに応えるためにも、醸造過程での失敗は許されない。
エーデルワインの藤舘昌弘社長によると、昔は「エーデルワインは、渋くて酸っぱくてうまぐね!」と言われていたという。それを変えたのは、社員の頑張りだとも。会社に泊まり込んでまで、醸造法の研究・改良を進めた努力、農家の人たちに日々進化する栽培技術や理論を根気よく教えてきた努力、それぞれの担当者たちの小さな頑張りの積み重ねが、今に繋がったというのだ。
エーデルワインの地元大迫町では、醸造用ぶどう農家がエコファーマーの認定(土づくりと化学肥料・農薬の低減を一体的に行う農業者の認定制度)を受け、安心・安全で良質のぶどう栽培に努めている。エーデルワインの栽培指導担当者や関係機関と共に定期的に栽培指導会を開催し、今も栽培技術の向上をはかっている。
そして、住民たちもまた、ワイン造りを応援している。毎年、秋に開催される大迫ワインまつりは、今年実に48回目を迎えた。しかも年々、来場者も増え、活況になってきている。地元の人たちに、長年愛され続けてきたからこそだろう。最近は、遠方からのお客も増え、ワインは花巻名物の一つになった。
栽培農家とワインメーカー、そして近隣住民を含めた「人」の力こそが、花巻ワインの品質を支えているのだ。他にはない特徴を持つ「土と気候」、そして、ワイン造りの関わる「人」たちの情熱とプライドが、唯一無二のワインを作り上げたのだ。
これからも、花巻ワインの進化は止まらないだろう。世界が、花巻に注目する理由がよくわかる。しばらくは目が離せそうにない