時が経つほど美味になる、わけではない
ワインの熟成を線で描くと、波だ。
内なるパワーが時を見て華開き、そしてまたしばし静寂のタームへ。時間が経てば経つほど美味になる、そんなシンプルな直線には決して成りえない。そこで、収穫年を記載するシャンパーニュにおいては、造り手が飲み頃の波を読み、リリースの瞬間を決断する。とくにドン ペリニヨンは、残糖具合を調整して甘口から辛口まで多々展開することなく、ストイックなほど時間軸の上だけで垂直な自己実現を達成するシャンパーニュ・メゾンである。
ドン ペリニヨンの醸造を統括するリシャール・ジェフロワ氏曰く
たとえば、ドン ペリニヨンがプレニチュードの頭文字をとり、熟成別にリリースする「P」シリーズ。今年リリースを迎える「P2」は2000年だが、来年「P2」2001年がリリースされるわけではない。
最も避けるべきは繰り返しである
だが、醸造技術の進んだ現代、もしやプレニチュードは造り手の計算通りに進化していける?
「シェフ・ド・カーヴたちは、何もかもを自分の管理下に置いて『私が見越していた通りの熟成を経ている』と語りたがります(笑)。私はそこまでのコントロールに興味はなく、たとえば80%の土台はしっかりと形成しつつ、あえて20%には余地を残したい」
「その部分で私自身がいい意味でのサプライズを受ければ、それは皆さんにも楽しんでいただけるサプライズになる。同じ味わいの繰り返しは、最も避けるべきなのです」
どれほどハイレベルでも、ひとたびルーティンになると途端に退屈になる。だから、リスクを負いつつ新たに創造していくパワーを常に注ぎ込む。それがドン ペリニヨンのポリシーであり、古くから高い知名度を誇りながらもモダンな存在であり続ける理由である。
「そしてシャンパーニュが深みを増し神髄へと近づいていく熟成過程で、P1、P2、それぞれの瞬間、シャンパーニュ自身がより大きな声で語りかけてきます。そこで初めて、私たちはこのシャンパーニュを新たにご紹介する時期が到来したと分かるのです」。
ジェフロワ氏は、ヴィンテージにまつわる一連のタスクを“ヴィンテージ・ゲーム”と呼ぶのだとか。ゲームの覇者であるジェフロワ氏に続き、私たちも別の角度からゲームの参加者となりたいものだ。
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