ボトルを開ければ、世界中どこへでも旅立てる。ワインを飲みながら、見知らぬ土地に思いを馳せるのは楽しみのひとつだ。でも、悠久の時を超えて旅することができるワインは、マデイラしかない。
そう、「旅」と「時間」は、マデイラのキーワード。大航海時代に偶然の産物として生まれたマデイラは、「旅するワイン」(ヴィータ・ダ・ローダ)と呼ばれ、シェークスピアから初代アメリカ大統領まで、多くの知識人に愛されてきた。辛口から甘口まで味わいも幅広いが、マデイラ最大の魅力は、時間が育んだワインだけが持つ奥深い余韻だ。太陽の力で樽ごとゆっくりと時間をかけて酸化熟成させるため、半永久的にそのフレッシュな酸といきいきしたテクスチャーを保つことができる。江戸時代や明治時代のオールドヴィンテージ・マデイラを口にすると、世紀を経てもなお若々しくチャーミング。たかだか数十年しか生きていない自分なんてまだまだひよっこだと思えてくる。
もうひとつ、特筆すべきは和食との相性だ。たとえば、天ぷら。スパークリングや切れのある白ワインを選びがちだが、一度でもマデイラとのペアリングを体験するともう戻れない。「ワインの敵はマデイラの友」という言葉もある。ワイン選びに迷ったら、ぜひマデイラを試してみたい。
そんなマデイラの魅力を伝えるワインバー「マデイラ エントラーダ」が昨秋、バーの聖地・銀座にオープンした。バックバーにずらりと並ぶヴィンテージボトルは圧巻だ。ヴィンテージマデイラのラインナップでは世界最大級を誇り、古くは江戸時代のヴィンテージから、すべてグラスで楽しむことができる。
熟成年度や品種、生産者の違いを比較できるテイスティングセットで飲み比べるもよし、ポルトガル料理や和食とのペアリングを楽しむもよし。あるいは「バースイヤーヴィンテージ」で、自分の生き様を見つめ直すもよし。エントラーダ(扉)を開けば、そこはマデイラ。銀座の真ん中で、めくるめく時間旅行を楽しんでみたい。