ワイン熟成に使われたオーク樽を、ウイスキー熟成に転用するのは極々当たり前。ヨーロッパからワインを詰めて運搬された樽を、スコットランドやアイルランドのウイスキー業者が再利用してきた長い歴史に裏付けられているからだ。
「なら、逆にウイスキー熟成用の樽をワイン熟成に使ったらどうなる?」とジェイコブス・クリークのスタッフ同士が遊び心で提案したのが、新企画スタートのきっかけに。
ラム酒の熟成樽も試し、スコッチとアイリッシュそれぞれのウイスキー樽を試し、樽内部の焼き具合による味わい変化を比較。結局、このスタッフたちのふとした思いつきが商品化するまで、2年の開発期間を費やした。
「最初に言っておくと、ウイスキーという酒に由来するニュアンスは、このワインから感じ取れません。でも、ワインの果実味を表現するのにウイスキー樽はとても優れているんです」と、チーフワインメーカーのベン・ブライアントさんは語る。
「ワイン樽よりウイスキー樽のほうが木目は荒く、樽板の繋ぎ目も多いため、マイクロ・オキシジネーション(微量の酸素に触れることによる酸化熟成)効果が得られます。樽内部の焼き具合も強く、わずか数か月のウイスキー樽熟成で、ワインに様々なニュアンスがプラスされます」。
より豊潤に、ソフトに、スムーズに、と試作を繰り返しつつ、ブライアントさんが何よりも欲しかったのは複雑味や凝縮感を含めた総合的なバランス。そして、すべてを一旦はワイン樽で熟成させた後、なめらかな舌触りを持たせるアイリッシュ・ウイスキー樽をカベルネ・ソーヴィニヨンに、存在感を強めるスコティッシュ・ウイスキー樽をシラーズに、と二度目の熟成樽は使い分ける決断を下した。
特殊な熟成を経たワインで、しかもカジュアルな価格帯に強いジェイコブス・クリークにとっては高級レンジへの新たな挑戦。ブライアントさんに勝算はあったのか?
「いや、消費者にウケない可能性があるから怖かったですよ(笑)。良いワインを造っている手ごたえはあったし、醸造家はウケを意識しなくてもいいんでしょうけど」。
とはいえ、先行販売したアメリカやカナダでは、今まで廉価なジェイコブス・クリークを愛飲していた人にも大好評。「樽熟成を2回」と聞けば、さぞかし樽に由来した風味が染み渡っているのだろうと身構えるかもしれないが、実際は果実味、タンニン、樽の要素が円を描くようなバランスを見せる。ビギナーから通までを魅了するスタイルを、ブライアントさんは見事に完成させていた。