いまどきのシャルドネは酸味が勝負
柳 今日は白ワインの主要3品種について、最前線にいらっしゃる皆さんに”今どき”の潮流が感じられるワインを選んでいただき、大いに語り合いたいと思います。まずは王道中の王道、シャルドネから始めますが、藤巻さんのご推薦のは、オーストラリアのアデレード・ヒルズですね。
藤巻 「BKワインズ」のワン・ボール・シャルドネです。造り手のブレンダン・キースは、いろいろなクローンを試したり、卵形のコンクリートタンクや通気性のあるプラスチックタンクを熟成に使ったり、実験的な試みをする変わり者で、酸化防止剤の添加量も必要最小限。だから自然派に括られがちなんですが、きれいに仕上がってるんでしょ?
和田 ほんとに、酸もしっかりしていて、タイト感がありますね。
柳 扇谷さんがブルゴーニュ。
扇谷 「オー・ピエ・デュ・モン・ショーヴ」という、女性当主のドメーヌのものですが、ブルゴーニュの一般的な228リットル樽ではなくその10倍、2280リットルの樽を特別に作らせて、醸造しています。これはただのブルゴーニュACなんですけど、とてもそうは思えないクオリティだと思いまして。
藤巻 昔は収穫を遅らせて、いかにブドウの熟度を高めるかを競い合ってたけど、今は反対に収穫を早めて、酸をいかに残すかが勝負になってきてますね。ただ単に収穫を早めただけだとミッドパレットがもの足りなくなるから、そこのバランスは大事だと思うけど。
柳 このワインはブルゴーニュACなのに、十分にブドウの熟度が感じられますね。和田さんが選ばれたのは、南アフリカですか。
和田 はい、海寄りに位置して標高も高いエルギンの「リチャード・カーショー」です。
扇谷 これは酸味がとても強くて、塩味も感じられます。エルギンってもともとリンゴの産地ですよね。そのせいか、青リンゴの風味をいつも強く受けるんですが(笑)。
和田 これを造っているのがマスター・オブ・ワイン(注1)なんですよ。それだけにマーケットをよく見た造り方をしていますね。新樽も使ってますけどオークは控えめで、マロラクティック発酵(注2)をしていないので、酸が若干強すぎるかもしれません。
柳 和田さんが次点で選ばれたシャルドネも編集部に届いているので、そちらも開けちゃいましょう。
和田 これも南アのエルギン産です。「ポール・クルーヴァー」のエステート・シャルドネで、ここは上のクラスのシャルドネがこってこてなんです(笑)。
柳 これもかなり塩味を感じますね。やはり海風の影響でしょうか。
藤巻 そうでしょう。北海道の奥尻島のワインもしょっぱい、しょっぱい。
和田 英語でよくサリニティと表現しますけど、ポジティヴにとらえてよろしいんでしょうかね?(笑) 料理と合わせるうえでは、この塩味もありかなって気がしますが。
扇谷 ええ、料理の進む味わいだと思います。この酸味と塩味のコンビネーションなら……。
柳 僕は悩んだ末に、カリフォルニアを選びました。サシ・ムーアマンが造る「サンディ」です。彼が来日した時にブラインドでテイスティングして、てっきりブルゴーニュと思い込み、見事にはずれ。
扇谷 これも塩味を感じますね。
藤巻 サンタ・バーバラでしょ。やっぱり海の近く。ボディも締まってて、従来のサンタ・バーバラらしくない。なんだか硬い水を飲んでるような感じ。
扇谷 こういうスタイルのシャルドネって、ちょっと前までカリフォルニアでは見られなかったですよね。
藤巻 なかった、なかった。
写真前列右端 ポール・クルーバー シャルドネ 2016/Paul Cluver Chardonnay 2016
輸入元:マスダ
写真サンディの左隣 オー・ピエ・ド・モン・ショーヴ ブルゴーニュ・シャルドネ 2014/Au Pied Du Mont Chauve Bourgogne Chardonnay 2014
輸入元:ヴァンクロス
写真前列右から2本目 リチャード・カーショウ エルギン・シャルドネ クローナル・セレクション 2015/Richard Kershaw Elgin Chardonnay Clonal Selection 2015
輸入元:モトックス
写真奥の右から3本目 BKワインズ ワンボール・シャルドネ 2015/BK Wines One Ball Chardonnay 2015
輸入元:kpオーチャード
柳 それにしても、シャルドネは5種類どれもみなオークのニュアンスが控えめで、酸味がきれいに残り、ボディに締まりのあるタイプでした。
藤巻 90年代は醸造テクニックが前面に出た、主張の強い、濃いめのワインが多くて、僕なんかもそういうワインを喜んで飲んでた時期がありました。とくにカリフォルニアのシャルドネなんて、バター、バニラ、それに焦がしたローストの香りですよ。ところが今は世の中の流れが変わってきている。
柳 何が理由ですかね?
藤巻 ひとつには食事との関連性。だんだん軽くなってきてるじゃないですか。フランス料理でもバターやクリームをほとんど使わず、素材重視。すると従来あったこってり系のシャルドネが合わせづらい。
和田 かつて一世を風靡したコングスガードのシャルドネとか、そのような濃厚なシャルドネに合わせる料理が、今はまったくイメージ湧きません。
柳 消費者目線で見て、和田さんはどのようなシャルドネがお好みなんですか?
和田 DRCのモンラッシェのように、いわゆる伝統的な造りのワインも、あれはあれで好きですよ。ただ非日常の世界です。日常は今の軽めの料理と合わせるので、シャルドネなら濃厚ではなく、オークもあまり効いていないもの。マロしていないシャルドネも増えてきてますね。
扇谷 これはシャンパーニュの造り手から聞いた話ですけど、以前はマロしていたのに今はしていないと言うんですよ。シャルドネのスタイルの変化は、地球温暖化の影響も大きい気がしますね。
和田 90年代とは別の意味で、造り込まれ感がありませんか? 南ア、ニュージーランド、カリフォルニアのセントラルコースト、どこも似通ったスタイルで。
柳 ニューワールドでもこうしたスタイルのシャルドネが造れるようになったのかという驚きはありますが、逆にどこもかしこも同じスタイルを目指してしまうと、それはそれで面白味がない。
藤巻 そうそう、産地のティピシティというか、特性が失われつつある。お店には昔ながらのキスラーのファンが見えたりしますけど、そういう濃いめのシャルドネが好みのお客様に売る商材がなくて困るんですよ。
一同 (笑)。
注記
(注1) マスター・オヴ・ワイン
英国マスター・オヴ・ワイン協会が実施する超難関の試験に合格した者にのみ与えられる、ワインの最高権威としての称号。認定されると、名前の後ろにMWと表記する栄誉が得られる。
(注2) マロラクティック発酵
ワインに含まれるリンゴ酸を、乳酸菌の働きで乳酸に変えること。酸味を和らげると同時にワインを安定させ、バターやクリームのようなフレーバーを生むこともある。略してマロ、あるいはMLFと呼ぶことも。