ロゼワインで造るロゼシャンパーニュ
南仏プロヴァンス地方にシャトー・ミラヴァルを所有し、プレミアムなロゼワインを世に送り出すハリウッドスターのブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー。ふたりが次に手がけるのはなんとシャンパーニュ。メニル・シュール・オジェに「フルール・ド・ミラヴァル」の名でメゾンを立ち上げ、ロゼ専門のシャンパーニュを醸造する。
プロヴァンスでは、シャトー・ド・ボーカステルのペラン家がふたりの強力なパートナーとしてワイン造りをサポートしているが、シャンパーニュでも超一流のパートナーがふたりを支える。
シャンパーニュ・ピエール・ペテルスのロドルフ・ペテルスだ。ペテルス家はコート・デ・ブラン地区のメニル・シュール・オジェに代々続くブドウ農家で、1919年には早くも、自家ブドウ園で収穫されたブドウのみ使いシャンパーニュを醸造し始めたレコルタン・マニピュランの先駆け。
ロドルフの叔父には、グランメゾンのヴーヴ・クリコで長年シェフ・ド・カーヴを務めたレジェンドのジャック・ペテルスがいる。
このプロジェクトの発端はある伝説に基づくという。
シャトー・ミラヴァルの城主だったフルール・ド・ミラヴァル伯爵夫人はシャンパーニュはロゼのみを嗜み、とくに熟成したシャルドネが醸し出すグリルしたヘーゼルナッツのアロマと、そこにブレンドされるピノ・ノワールの生き生きとしたフルーティさを好んだとされる。そこで、ジョリー&ピットのシャンパーニュもこの伝説に倣うべく、5年も前から秘密裏に進められ、昨年ついに姿を現した。これがその「フルール・ド・ミラヴァル」である。
単にシャンパーニュ好きセレブのお遊びでないことは、醸造を手がけるのがロドルフ・ペテルスということからして明白だが、造りの内容を知れば知るほど、これがスペシャルなシャンパーニュであることがわかってくる。
まず全体の75パーセントを占めるシャルドネはクラマンからメニル・シュール・オジェに至るコート・デ・ブラン産。ベースイヤーは2016年だが、それに大樽で熟成させたソレラ方式のリザーヴワイン(※)が加えられる。最も古いワインは2007年まで遡るという。
このシャルドネから造られた白ワインに、通常であれば赤ワインを加えるところだが、フルール・ド・ミラヴァルはそこが違う。ピノ・ノワールをセニエ(※)したロゼワインをブレンドするのだ。その原料となるピノ・ノワールも、重くパワフルになりがちなモンターニュ・ド・ランス産ではなく、繊細で上品なコート・デ・ブラン南部のヴェルテュ産を選ぶこだわりよう。ロゼワインのブレンドにより赤い果実のニュアンスが軽やかに加わり、このシャンパーニュがプロヴァンスのミラヴァルと共通のDNAを有することを表現している。
3年の瓶内熟成を経て、2020 年6月にデゴルジュマン。ドザージュはエクストラ・ブリュット相当の1リットルあたり4.5グラムに抑えられた。
グラスに注ぐと、まさにオニオンスキンという表現がぴったりの淡い色調。その中をきめ細かな気泡が舞い上がる。香りは赤スグリやサクランボなどコリコリッとした赤い果実に、ブラッドオレンジを思わせる柑橘香。それに熟成由来のマジパンのフレーバーがほんのりと加わる。口中ではピュアな酸に塩味を帯びたミネラルが感じられ、果実味がクリーミーに全体を包み込む。じつに上品でエレガントなロゼ・シャンパーニュだ。
ファーストリリースの生産本数はたったの2万本だから、ふたりのファンやセレブ仲間の間で瞬殺だろう。だが本音を言うと、シリアスなシャンパーニュ・ラヴァーにこそ味わっていただきたい逸品だと思う。