創業者ファブリッツィオ・ビアンキ
トスカーナらしい丘陵と古城が描かれた、非常にレトロなタッチ。このキャンティのワインラベルは、造り手であるカステッロ・ディ・モンサントがあえて60年近く変更しないまま使用し続けてきた。こだわりの象徴であるラベル・デザインから察するに、「きっと中身のワインも古めかしい味だろう」と身構えてしまうが、今の時流にフィットするエレガントな味わいに、誰もがいい意味で拍子抜けする。
ただ、誤解なきよう。
ここ数年のトレンドを追うように、慌ててエレガントな造りに変えたのではない。ひと足先を進んでいたカステッロ・ディ・モンサントのスタイルに、現代人のセンスがようやく追いついただけだ。
力強い赤ワインが求められていた1980年代終盤から、キャンティの畑ではカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロへの植え替えが進み、国際的なニーズに沿うよう努力した生産者が増えた。
1962年にカステッロ・ディ・モンサントを創業したファブリッツィオ・ビアンキには先見の明があった。70年代にはすでにカベルネ・ソーヴィニヨンを植えていた。しかし、カベルネはカベルネで、その品種らしさを大切にするワインを造り、一方でキャンティはカベルネとはまったく異なる別個の存在感を貫かせる。もし、キャンティ自体を果実味が強く、パワフルな味に造り変えれば、1990年代には売上が爆発的に伸びていたかもしれない。
けれど、キャンティの主要品種であるサンジョヴェーゼは、強すぎないタンニン、豊かな酸が特長的なブドウだ。「食事に合わせやすく、エレガントでフレンドリー」な味わいに造り上げるのがキャンティの本質、 とファブリッチオは看破していたのだ。
今やキャンティ全体の伝統になった
「82歳となったファブリッツィオが僕とワインを飲みながら話してくれる内容は、すべてが遺産的な価値のあることなんです。以前に交流があった今は亡きイタリアワイン批評家のルイジ・ヴェロネッリや、バルバレスコの立役者であるアンジェロ・ガヤなどの名前もポンポン出てきて楽しいですよ」
と語るのは、カステッロ・ディ・モンサントのエクスポート・マネージャー、ガブリエレ・コロンボだ。
「固有品種のサンジョヴェーゼに注目し、区画ごとの醸造、ステンレスの開放桶導入、栗の樽の使用など、キャンティでいち早く手掛けたのはファブリッツィオ。彼の改革と功績が、今やキャンティ全体の伝統になっています。彼はパイオニアで、レジェンドなんです」
輸出部門を担うガブリエレに現在どの国の市場を意識しているか尋ねてみると、こんな答が返ってきた。
「どこか特定の国を狙うとか、逆にイタリア国内に注力するとか、そういうことではないですね。強いて言うなら、うちのワインの質を理解していただける市場というだけで」
CASTELLO DI MONSANTO
カステッロ・ディ・モンサント 「キャンティ・クラッシコ・リゼルヴァ 2015」
小樽で18カ月熟成されるリゼルヴァ。ストラクチャーがより堅固となり、肉料理にはうってつけだ。「イタリアなら、名物のステーキであるビステッカ・ア・ラ・フィオレンティーナを血の滴るレア状態で。和食なら、少々甘 辛い豚肉の生姜焼き。調理のとき少しだけワインを入れると、さらにワインと馴染みやすい味になるのでオススメです」とガブリエレ。希望小売価格:4,700円
カステッロ・ディ・モンサント 「キャンティ・クラッシコ・リゼルヴァ イル・ポッジョ 2013」
セラーには60年にわたり、毎年のワインを気候情報とともに保管するライブラリー・ワインが充実。サンジョヴェーゼは酸のおかげでストラクチャーがしっかりとし、長期熟成に耐えうることを自前で実証してきた。現行 ヴィンテージが2013年なのは、すでに飲める状態までセラーでキープしていることの証。タンニンはすでにヴェルヴェットのようだが、さらに寝かせてもまた美味になるはず。希望小売価格:11,000円
カステッロ・ディ・モンサント 「ネモ 2013」
「ネモとは、ピクサー映画の魚の名前ではなく(笑)、有名なラテン語のフレーズにちなんだものですよ」とガブリエレ。優れた人物のよさは身近な人たちに伝わりにくいものだという意味の‘Nemo Propheta in Patria(預言者郷里に容れられず)’から来ている。近隣の生産者より一足早い70年代に植えたカベルネ・ソーヴィニヨンを100%使用。