未来のクリコ夫人に
この215年ほどのあいだ、ヴーヴ・クリコの中核には、クリコ夫人ことバルブ=ニコル・ポンサルダンがいる。
創業者の息子、フランソワ・クリコが1805年に亡くなると、シャンパーニュ メゾンの経営を27歳で引き継いだフランソワ・クリコの妻、バルブ=ニコル・ポンサルダン。女性経営者が評価されない時代に、経営者としての優れたビジネスの手腕によってヴーヴ・クリコ・ポンサルダン社を成長させた。彼女はまた、今日ではシャンパーニュで普通になっている、いくつかの技術の発明家でもある。
1866年にクリコ夫人が亡くなった後も、ヴーヴ・クリコは、クリコ夫人を仰ぎ、偉大なる夫人であれば、どう決断し、どう振る舞うか問い続けている。そしてヴーヴ・クリコはいまや、おなじくモエ ヘネシーディアジオ グループに属するモエ・エ・シャンドンとともに、シャンパーニュをリードする2大メゾンのひとつだ。
ヴーヴ・クリコは、そんな事情から、クリコ夫人のように、ビジネスの世界で戦う女性を応援している。1972年、ビジネスウーマン アワードという賞を生み出したのは、そのあらわれひとつ。これまで、世界27カ国にて350人以上の女性に賞を贈ってきた。
昨年と今年、連続して日本の女性にこのビジネスウーマン アワードが贈られている。2018年の受賞者が、長谷川 祐子さん。そして今年、2019年の受賞者が大石佳能子さんだ。また、今後の活躍がさらに期待される「ニュージェネレーション アワード」は、それぞれ、御手洗 瑞子さんと平野未来さんに贈られた。
ヴーヴ・クリコは、さらに、今年6月に「女性起業家精神の国際的指標」なるものを発表し、女性起業家へのさらなるコミットメントを表明した。日本のほか、フランス、イギリス、南アフリカ、香港の5カ国で、1万171人をターゲットに女性と起業について調査したデータを、世界的に活躍する18名の”ロールメイカー”によって分析したもの。今後、調査対象国はさらに増えてゆく。
詳細については、以下から確認できるけれど、
ヴーヴ クリコが初の国際女性起業家精神の指標を発表 | Veuve Clicquot
長大な情報なのでごく簡単にどんなものかを説明すると、日本であれば、起業したいという女性は22%、20代では33%いるにもかかわらず、実際の女性起業家は調査対象全体の9%しかいない。対して男性は21%いる。そしてそれは、失敗のリスクを恐れている、家族に迷惑かけるかもなど、自信がもてないこと、躊躇に原因がある、といったようなデータと見立てとが載っている。
このほど、アワードにあたって来日したヴーヴ・クリコのインターナショナル マーケティング&コミュニケーション ディレクター キャロル・ビルデさんによれば
「日本の女性起業家には、そういった心理的バリアがあり、女性起業家の85%が、女性起業家のネットワークが必要だと考えています。インスピレーションをもらえる仲間、前例となる事例がほしいと思っています。そして、92%の起業家が、起業した女性には勇気づけられると言います。では「あなたが女性起業家として思い浮かぶ人といえば?」と質問すると、17%の方しか、誰と、名前をあげられないんです。フランスでは、これが12%ともっと低いのですが……」
そこに一石を投じようという意図が、ビジネスウーマン アワードにはある。
「単に、モデルとなる人、憧れるだけの遠い存在だけでは、弱いと思っています。一過性のものではなく、もっと、そばでメンターとなる女性、刺激を与えてくれる女性が必要なのだと私たちは考えます。そして、私たちはこういう存在となる女性をロールモデルという言葉から転じてロールメイカーと呼んでいます」
おなじく、今回このアワードにあたって来日した、ヴーヴ・クリコ・ポンサルダン社の代表取締役 CEO ジャン=マルク・ギャロさんによれば
「私たちは、ビジネスウーマン アワードの受賞者がロールメイカーとなってくれることを期待しているのです」
では、実際にアワードを獲得した女性起業家にはどんな未来がまっているのか?
「まずは今回がそうであったように、こうして授賞式をひらき、勇敢にして大胆な女性の偉業を多くの方に知ってもらうことには意味があると考えています。それが、将来の女性起業家の背中を押すことになるかもしれない。そして、これまで27カ国以上でアワードを開催して350人ほどのアワード受賞者がいるのですが、受賞者たちのコミュニティに参加していただきたい。お互いに意見を交換したり、刺激しあっていっていただきたい。これがセカンドステップです。そして、これはこれからもっと私たちも頑張らなくてはいけないことですが、彼女たちがメンター、ロールメイカーとして、さらに多くの女性の背中を押す存在となっていってもらいたい。そのために私たちが何をするかは、すでに計画しています」
では、日本で2年連続ビジネスウーマン アワードを開催している理由は?
「日本は大事なマーケットだから。それはもちろんなのですが、ヴーヴ・クリコのシャンパーニュが初めて日本に来てから、すでに100年以上が経っています。私たちは日本が好きなんです。最近LINEアカウントもつくったんですよ! もっと多くの方とコミュニケーションを取りたいんです」
とヒルデさんは言った。
200年以上続くブランド
「それぞれの国に、それぞれ特徴があります。私たちは多くのマーケットにおいて異邦人です。そのなかで日本は、シャンパーニュのことを深く理解してくださる方がいる場所です。私たちはシャンパーニュ地方のランスを代表する、つまりそれはシャンパーニュを代表するメゾンです。私たちには、シャンパーニュの価値を世界に知ってもらう使命もある。そのシャンパーニュのヴーヴ・クリコですから。シャンパーニュが理解され、評価される日本での活動が持つ意味は大きいのです」
とギャロさんは付け加える。
「それに、これも私たちはもっと追求すべきこととおもっているのですが、日本食とヴーヴ・クリコは合いますよね。私としては寿司にヴーヴ・クリコはマストです」
日本は、シャンパーニュの輸出先として、アメリカ、イギリスに次ぐ世界第3位の市場だ。ヴーヴ・クリコにとっては、実は、これが第2位の市場となる。しかし、規模はたしかにビジネスにとって大切なものとはいえ、ヴーヴ・クリコはかならずしもそれを強調しない。
ヴーヴ・クリコが理想とする消費者像とはどんなものですか? と問うとビルデさんもギャロさんも、まずこう言う。
「私たちのことを深く理解してくださる方です」
「そういう方のために、私たちは品質に妥協せず、また、オブジェクトとしてもエクセレントな商品を生み出しています」
そこで、ビルデさんに、ブランドのアイデンティティを一言で言うなら? と質問してみると
「もしも一言で言うのなら、太陽。ヴーヴ・クリコのイエロー、光、喜び、オプティミズム。精神のあり方として、困難に立ち向かうことを恐れない人です。私たちは、挑戦する姿勢を崩したことはありません」
それが、もっともよくあらわれているのは、彼らが何かをするとき、ほぼ必ず口にする「もしもクリコ夫人が生きていても、いまのヴーヴ・クリコと、同じ選択をしたはずだ」という言葉だ。
「パラドックス、と感じるかもしれませんが……」
とギャロさんは続けた
「クリコ夫人に問うことと、革新はおなじことなのです。クリコ夫人は最高のシャンパーニュを生み出すために、挑戦し続けることを恐れはしませんでした。物質主義的にではなく、良いものの価値を理解し、クリエイティブであり続け、予測できない人生を楽しもうとする人、何かを築き上げたとしても、そこで満足して挑戦をやめてしまわない人。そういう人に愛されるシャンパーニュでありたい。革新を続けることこそが、ヴーヴ・クリコがクリコ夫人から受け継いだ伝統。ヴーヴ・クリコのDNAです」
男性であっても、そういう人物でありたいものです、とおもわず感想を口にすると
「もちろん、男性であっても女性であっても、なのですが、我々の調査結果からすれば、女性には、自信を持てず、挑戦を諦めてしまう人がまだ、男性よりも多いようです。そういう心理的バリアがあるのであれば、私たちはそれを取り除きたい。それが、日本で、そして世界のさまざまな国で、ビジネスウーマン アワードを開催している理由です」
では、日本の女性にメッセージをお願いします。
「200年前、クリコ夫人はフランスで偉業をなし、いまの私たちがあります。自信をもち、大胆であれ! 夢に向かって進め!」
ヴーヴ・クリコとともに。と筆者が付け加えさせていただきます。