Tokyu Department Store (東急百貨店)のオススメ
ワイン歴、年齢層、購入目的が多種多様な客の訪れるデパートを舞台に、ブルゴーニュワインの深さや楽しさをアピールする藤巻暁さんは、WINE-WHAT!?本誌でもおなじみのソムリエのひとり。
『多くのワイン初心者は、最初にブルゴーニュのワインを飲むと『薄くて酸っぱい!』と感じるでしょう。『ボルドーなら渋みも果実味もあって濃厚。なんでみんな、ブルゴーニュがイイって言うんだろう?』って。
でも、ボルドーを飲んでいって、渋みや果実味の裏に隠された酸味に舌が馴れてきたころ、あの酸っぱかったはずのブルゴーニュを飲んでみてください。『……皆がイイっていうの、分かる気がする』と理解できる日がやってきます。
そうしてブルゴーニュの世界に入り、ハマる人たちを私はたくさん見てきました。
ただ、ブルゴーニュのファンは増えつつあるのに、天候不順が続き収穫量が減ったり、為替変動の影響を受けたりして、とくに2010年以降は需要が供給に追いついていません。ワインの数が少なくなったのに、欲しい人が増えれば当然、価格は高くなります。
となると、ブルゴーニュ・ファンはこれまでと違った買い方をしなければならない。たとえば、今まではグラン・クリュを買っていたが、次からプルミエ・クリュに下げるとか。畑のグレードを下げたくないなら、人気の高くない生産者の銘柄に変える。生産者も変えたくないなら、人気のないヴィンテージで探す。購入本数を減らす……などなど、工夫が必要になってくるわけです。
または「今までワインに費やす金額を毎月5万円と決めていたけど、10万円にアップする!」とか(笑)。
同じピノ・ノワールで別の産地、ニューワールドのものを試す人も出てくるでしょう。ただ、日照量が多すぎて困るほどのエリアは、急にブドウの糖度が上がり、酸が落ちる前にあわてて収穫する。種が完全に熟していない状態から造られたワインは、『甘いけど、なんか苦い』となります。ずっとブルゴーニュを飲んできた人がすぐ馴れる味ではありません。もしニューワールド産を違和感なく楽しめる人でも、いつかはまたブルゴーニュにふと立ち返る。そうして『でも、やっぱりブルゴーニュは高いし……』と迷ったところで、ようやく多くの人が気付き始めるのです。
『ブルゴーニュには、有名アペラシオンばかりでなく、ほかに様々なアペラシオンがあったのでは?』と。
有名アペラシオンに比べ、マイナーなアペラシオンは急に劣悪な土地、土壌になると思いますか? 個人的に、そうは思っていません。確かに土壌も大切な要素だけれど、風や傾斜の向き、水はけ、太陽の当たり方……といった条件のほうがワインの違いに繋がるはずです。とすると、土壌の違いだけでどこまでワインに大きな差が生まれるのか? マイナーなアペラシオンに絞ってワインを探したら、もっと面白いものが出てくるはずでは??
すでに知っているおいしいワインを飲むのもいいですが、知らなかったおいしいワインを発見すれば、新たな感動が得られますよ。ボルドーは1シャトー1銘柄が基本。ブルゴーニュは1生産者で違う産地のワインを幾つか造っています。そこで、気になる生産者のマイナー・アペラシオンから挑戦していくのも、ブルゴーニュ・ラバーの心をくすぐりますよね。あくまで、追求型のワイン通向けの話ではありますが。
あとは、ヴィンテージにも注目を。たとえば2014年はエレガント、2015年はリッチになりやすいですよ。
そんなことを念頭に、まだあまり知られていないけれど、これから来そうな、なにより美味しいブルゴーニュを4本選んでみました」
銘醸地に負けまいと 努力と工夫を重ねる生産者たち
1 Chanterêves
Monthelie 2014
シャントレーヴ
モンテリー 2014
品種:ピノ・ノワール100%
価格:4,000円
ヴォルネイの西隣にある、わりと知名度が低いモンテリー産です。少し軽めな赤の産地、といった印象を持っている人もいるはずです。シャントレーヴもその印象通りの味わいで、けして主張し過ぎることはありません。
かといって、軽すぎも薄すぎもしない。
日本人の醸造家、栗山朋子さんご本人にもお伝えしたことがありますが、彼女の人柄がそのまま出ているような、安定した品質のワインです。
2 Chateau de Santenay
Santenay Premier Cru, Lacomme 2012
シャトー・ド・サントネイ
サントネイ・プルミエ・クリュ ラコム 2012
品種:ピノ・ノワール100%
価格:3,900円
歴史のある産地だけれど注目されてこなかったサントネイ産。アタックは柔らかいけれど、飲むと腰があってしっかりしている感じのワインが多く、ルロワのネゴシアンものも造られていたりします。造り手は、100へクタールの畑を持って、規模が大きい。
日本では、「小さい生産者がより優れている」と信じられているけれど、この生産者は味が大ざっぱではないし、一定の畑面積を持っているからこそ品質が安定していて、安心して人に薦めやすいんです。
3 Domaine Vincent Dureuil-Janthial
Rully, Chênes 2015
ドメーヌ・ヴァンサン・デュリュイユ=ジャンティアル
リュリイ シェネ 2015
品種:シャルドネ100%
価格:5,000円
サントネイからさらに南へ進んだエリアのリュリイ。ここからコート・シャロネーズです。目利きが選ぶノース・バークレイのバレル・セレクションというものがあるんですが、この生産者のワインが選ばれたことで、彼は若くして一躍コート・シャロネーズの有名人に。ワイン自体は、白桃の香りが最初に来る、果実味に満ち溢れたオイリーでまろやかな味わいです。
「マイナーでも飲みごたえのあるワインはあるぞ」と言える好例。
4 Domaine Marc Jambon et Fils
Mâcon Pierreclos, Cuvée Fût de Chêne 2015
ドメーヌ・マルク・ジャンボン・エ・フィス
シャルドネ マコン ピエールクロ キュヴェ フュ・ド・シェーヌ 2015
品種:シャルドネ100%
価格:2,700円
マコンは、昔からワインを飲んでいる人のなかでは安酒のイメージでした。ブルゴーニュの南に位置していて、シャルドネがリッチに熟した感じの印象が強い。モンラッシェやコルトン・シャルルマーニュに比べると値段が大きく安いけれど、若い生産者はモンラッシェ近辺の畑なんて買えないから、南でワインを造ろうとこちらに来るのは自然な流れでしょう。
近年はとてつもなく高額なワインも登場し、ユニークな生産者が集まり始めています。マルク・ジャンボンは、そのなかでいいと思える生産者のひとり。ワインは、モンラッシェ系のカチッと引き締まったスタイルとは違い、もう少し緩くふくよかな感じです。
マイナーなエリアは、マイナーだけに土地代が高騰していません。知名度が高すぎない今なら、値段が安いまま飲めるワインはまだまだあります。知名度も値段も将来は高くなるだろうけれども、時間差があるから、いち早く探せば、いち早く安く飲めます!