クルール・デ・ゼルとテール・ナチュール
WINE-WHAT!?でも報じているように、本年1月24日に都内で開いた「ワイン事業方針発表会」で、2018年のアサヒビールは「アルパカ」や「リラ」などのデイリーワインを通してエントリー層を広げると共に、新価値提案商品を投入してエントリー層をミドルクラス、ファインクラスへと誘う活動=「トレーディングアップ」を展開する、という戦略を明らかにした。
では、さてその新価値提案商品とは? ということで、1月24日の発表会には間に合わなかった新商品が、この日、同社の福北耕一マーケティング第四部長からお披露目された。
その1は、オーガニックワインのさらなる充実である。
オーガニックワインとは、「農薬や化学肥料に頼らず、自然の恵みを生かし、ブドウ本来のポテンシャルを引き出すことを目指して造られたワイン」と同社では定義。日本における輸入オーガニック市場は、食の安心・安全志向の高まりなどを背景に、2013年から2016年の4年間で毎年平均106%伸長しており、今後も需要が高まると同社では予測する。
アサヒビールにはこれまで、オーガニックワインというと「ミッシェル・リンチ・オーガニック」の赤・白の2アイテムしかなかった。つまり、オーガニックワインの商品強化は喫緊の課題だった。今年に入ってすでに3アイテムを発表、今回新たに5アイテムを追加した。全部足すと10アイテム、一気に5倍のオーガニックワイン揃えとなった。
で、最初に紹介されたのが、フランスの「メゾン・デュ・シュド」のオーガニックワイン「クルール・デ・ゼル」と「テール・ナチュール」のそれぞれ赤・白、計4アイテムである。
フランス語で“翼の色彩”という意味の「クルール・デ・ゼル」は、単一ブドウ品種が最大特徴で、赤はカベルネ・ソーヴィニヨン、白はシャルドネのみでつくられている。
一方の「テール・ナチュール」は、フランス語で“自然の大地”という意味で、赤はシラー60%、グルナッシュ40%、白はシャルドネ60%、グルナッシュ・ブラン35%、ソーヴィニヨン・ブラン5%と、南フランスを代表するブドウ品種をブレンドし、名前のごとく、土地の個性を表現している。
どちらのラベルにも蝶が描かれているのは、“自然と共存する”という思いを込めているという。EUで定められた基準を満たしたオーガニックワインに表示が認められている“ユーロリーフ”が目印にもなっている。
オーガニックワインというとお高いと思われがちだけれど、参考小売価格1250円と日常的に飲んでもらえる価格設定にしている。発売は4月10日(火)。しばらくお待ちください。
アルタノ・オーガニック・レッド
さらにポルトガルのグラハム社の「アルタノ・オーガニック・レッド」と同「ホワイト」を、3月27日(火)から発売する。
グラハム社はプレミアムポートワインの生産者として知られる、1820年創業の名門で、アサヒビールでは現在、同社のポートワインを8アイテム取り扱っている。その縁もあって(だろう)、同社がつくっているスティルワイン「アルタノ」を新たにラインアップに加える。
「アルタノ」は、ポルトガルの固有のブドウ品種を使用、新鮮な果実味とバランスのよい味わいが特長で、 「アルタノ・オーガニック・レッド」は、鮮やかなガーネット色、華やかな香りに、花や熟した赤い果実のようなアロマが重なったフルーティーな赤ワインだという。「オーガニック・レッド」の名前の通り、EUのオーガニック認証を得ている。
ちなみに、「アルタノ」とは、ラベルにデザインされているコノハズク(小さなフクロウの仲間)等の鳥たちが、暖かい夏の午後にドウロ川沿岸を滑空する際に利用する“暖かい風”を意味している。
参考小売価格1900円と、1000円台にとどめているのもポイントだ。
今回発表した「アルタノ」のオーガニック・レッドに、「クルール・デ・ゼル」と「テール・ナチュール」の赤白4アイテム、それに従来からアサヒビールが扱っている「ミッシェル・リンチ・オーガニック」の赤白2アイテム、さらに前回発表済みの3アイテムによって、全部で10アイテムのオーガニックワインが揃う。昨年比、オーガニックワインだけで5倍のアイテムが店頭に並ぶことになる。
アサヒビールは、これらの各種輸入オーガニックワインに、「ユーロリーフ」のマークと、そのマークの意味「ヨーロッパで認証されたオーガニックワイン」を大書したネックリンガーをつけて、ブランド横断的に店頭に並べることで販促を展開するという。
間違いなく、2018年はオーガニックワイン・ブームがより一般に広まることになるだろう。
これらEUが認めたオーガニックワイン。オーガニックであることと味の関係は? と福北部長にたずねると、「有機だからといって味が変わるわけではない。有機野菜や有機タマゴを求める人の気持ちと同じ。化学肥料や殺虫剤を使っていないので、健康的なブドウができるというひともいます」という公平な答が返ってきた。
カルタン・ピノ・ネロとラグライン
その1がオーガニックワインの充実だとしたら、その2は、プレミアムワインの充実である。
まず、イタリア、カルタン社のラインナップに「ピノ・ネロ」と「ラグライン」の2アイテムが加わった。
カルタン社は1906年創業の、アルト・アディジェ地方のワイン生産者協同組合の中核企業。イタリア北部、オーストリアとの国境近くのアルト・アディジェ地方は、夏は地中海からの暖かい風で気温が35度近くまで上昇するけれど、夜はアルプス山脈からの冷たい風で冷え込む。昼夜の寒暖差が大きい。
アルト・アディジェ地方のワインはイタリア全体の総生産量のわずか約1%でしかないけれど、D.O.C.(原産地呼称)の比率が98%にも及ぶため、少量のプレミアムワインを産み出す産地として知られている。
アサヒビールは現在「カルタン」の白ワイン4アイテム(ピノ・グリージョ、シャルドネ、ゲヴュルツトラミナー、ソーヴィニヨン・ブラン)を販売しており、2016年には「サクラアワード」と「ジャパン・ワイン・チャレンジ」に出品した4アイテムがすべて受賞するなど高い評価を受けている。
アルト・アディジェというと白ワインのイメージがあるけれど、アサヒビールが提示した2014年度のデータによると、赤ワイン用のブドウの栽培面積が54%で、白ワイン用は46%にとどまっている。
今回「カルタン」に新たアルト・アディジェ地方を代表する赤ワイン2アイテム、ピノ・ネロと、この地方固有のブドウ品種のラグラインを加え、これまでの白と合わせて、赤・白のセットで提案をすることにより、さらなる需要の拡大を目指す。やっぱり紅白揃っていた方が、日本人の琴線に触れる、ということでしょうか。参考小売価格はともに2450円。
なお、「ピノ・ネロ」は「ピノ・ノワール」のイタリアでの名称で、ドイツ語だと「ブラウブルグンダー」と呼ぶ。
ロケット・カーズ
最後に紹介されたのが、ポルトガル産のプレミアムワイン「ロケット・カーズ・シスト」と「ロケット・カーズ」の2アイテムで、こちらも3月27日(火)から新発売となる。
「ロケット・カーズ」は、フランス・ボルドー地区に拠点をおくJMカーズ社と、ポルトガルのキンタ・ド・クラスト社とのコラボレーションにより2002年に立ち上げられたプロジェクトから誕生したプレミアムワイン。ポートワインで知られるポルトガルのドウロ地方で栽培される固有のぶどう品種を使用し、その特性を活かし、かつ本場ボルドーの技術力によって造られている。
「ロケット・カーズ・シスト」は、最高レベルの品質のワインが造られた年だけにリリースされる希少アイテムで、今回は2013年ヴィンテージを数量限定で発売する。濃厚な色合いで、花のようなアロマとベリー系果実のような風味、シルクのようななめらかな口あたりのエレガントなワイン、とされる。記者の個人的印象を記せば、最初に甘いのがドカンときて、それから渋みが広がる。メリハリのくっきりした味わい、である。
「ロケット・カーズ」は、深みのある色調で、ブラックベリーやカシスのような香り、力強く凝縮感がありながらバランスのとれた味わい、だそう(こちらは試飲していません)。
なお、ブランド名は、キンタ・ド・クラスタ社のジョージ・ロケット氏と、JMカーズ社のジャン・ミッシェル・カーズ氏の名前に由来する。ジャン・ミッシェル・カーズ氏は、ボルドーのスーパーセカンド、シャトー・ランシュ・バージュをはじめとする数々のワイナリーを経営し、発展させた人物である。
こちらは、上質で洗練されたポルトガル産プレミアムワインとして、主に飲食店を中心に提案していく。
以上、アサヒビールの新発売アイテム、全部で10アイテムご紹介しました。