MAISON LISSNER
MAISON LISSNERは、ストラスブールから車で25分ほどのWOLXHEIMという人口1000人足らずの村にある「自然派ワイン」。しかし、こちらのワイナリーさんのサイトを見ても分かるのだが、ここのワインは「自然派ワイン」ではなく【自由で野性的で、ビオ(libres, sauvages et bio)】ワインと書かれている。
こちらのワイナリーは2001年にBRUNOさんが叔父から引き継いだ畑で、その後2008年から今の【自然派】の畑となり、現在のワイン生産を始めたそうだ。9Haの畑で約30000本、約25種のワインを生産している。
日本やパリなどでは、今自然派ワインはとても流行っている印象なのだが、こちらのワインは自然派ではなく、【野性派】。まだ日本には未輸出。
お味もとても特徴的で、全てのワインに最期にほんのり「旨味」を感じる。
【野生派】というと、いったいどんなワインなんだろ、どんな生産をしているのだろうと、とても気になって何度かワイナリーにお邪魔し、こちらのワインについて学ばせてもらっている。と言う事で、こちらのワインについてさらに学ぶべく、今年はこちらのワイナリーさんで、ぶどう収穫もさせてもらっている。
日本にはほぼ全てのアルザス自然派ワインが輸出されているのではないか、と思うのだが、ここの【野生派】ワインは日本には未輸出。いろいろ調べてみたが、こちらのワイナリーが紹介されている日本語の1本の記事を見つけたものの、こちらのワイナリーのワインは全く日本では紹介されていない気がする。
こんなに美味しいアルザス自然派ワインなのに日本にまだ入っていないと言う事も、私にとっては謎だったのだが、ワイン生産にこだわるBRUNOさんは、ちゃんとこのワイン生産や、畑について、そしてこちらのワイン生産の哲学を理解してくれるようなインポーターさんやエージェント、そして顧客にワインを販売したいと言うことだと思う。
現に、ワイナリーに最初にお伺いした時は、数時間滞在させて頂いたにも関わらず、講義のようにワインについていろいろ学ばせて頂いたが、テイステイングしたワインの数は6本、そのうち1本は別のワイナリーさんのワインで、ご自身のワインとの飲み比べ…という変わったテイステイングをさせてもらい、そして、その日は結局1本も買わずに帰って来てしまった。
そして、まだまだワインについて学びきれなかったので、あらためて何度かワイナリーにお伺いし、さらにワインについて学習し、畑も見せてもらい、最終的に今回は収穫にも参加している。
実はこちらのワインは、外出禁止令中に、ストラスブールまでデリバリーでワインを持って来てくれていたので、その間にワインを堪能させて頂いていた。
(詳しくはこちら 「アルザスは白アスパラガスとミュスカの季節」)
ぶどう収穫
収穫の畑は午前と午後で異なることも多い。たとえば、通常、ワイナリーの朝は早く、昨年収穫に行ったZINCKさんではワイナリーに6時45分集合(と言っても全員が集まるのは7時くらいになる。この辺りはフランスらしい)。そして労働時間は月曜~金曜、朝7時から午後4時までとなっていた。
けれど今回ぶどう収穫に行ったワイナリーさんは、いろんな意味で他とは異なるぶどう収穫作業時間、行程だった。Maison Lissnerは、ぶどうの様子や天候によるため、
1週目は火曜日・水曜日、
2週目は木曜日・金曜日、
3週目は月曜日・火曜日・水曜日、
と毎週の予定が送られて来て、それに従って行ける日、行けない日を申告する。ここのワイナリーのぶどう収穫は毎週月曜~金曜というわけでもない。
また、ワイナリーによっては作業も素早く、的確に、どんどんぶどうを収穫していこうという、とても体育会系のところも多いが、LISSNERでは意外としっかり1つ1つのぶどうを見極めながら収穫しているという印象だった。もちろん、慣れればそれでも手早く作業ができるので、LISSNERの息子さん、THEOは作業がとても敏速だ。
収穫前の畑
ここのワイナリーの特徴は、この畑だ。『自然派ワイン』と言うよりも、『野生派ワイン』と言う表現が合っているような、自然のままの畑なのだ。
こちらが収穫前の畑。自然に任せているという言葉がよく分かる畑だ。
どの畑も自然のまま。収穫前には収穫しやすいように、一度トラクターが通る。
収穫方法
通常、収穫は2人一組になって、バケツを持って自分に近い側のぶどうを収穫していく。バケツ係がいて、バケツがいっぱいになると
「バケツ!」
と叫んで、次のバケツをもらう。
収穫されたぶどうが入っているバケツを運ぶバケツ係が1~2人で作業しているのだが、彼らがバケツを空にしてくれて、収穫組は空のバケツをもらいまた収穫を続けていく。
ワイナリーにもよるが、今年は一応ソーシャルデイスタンスの事もあり、通常のようにお向かいに2人1組での収穫ができない場合もある。
(※2020年の収穫では新型コロナウイルスの影響でいろいろ規定がある。収穫の仕方は多少お互いの距離を取って、お向かいの苗木を収穫する、同じ苗木ではない所で仕事をする…などワイナリーにもよるようだ)
苗木は意外と低く、自然派の畑では葉も生い茂っているため、葉の中からぶどうを探すのも多少時間がかかったり、腰をかがめているため腰にもくるし、立ったりしゃがんだりもするので、足にも膝にも結構くる。特に初日のぶどう収穫は体が慣れていないため、かなりキツかった。
畑によっては午前と午後で別の品種の収穫をする場合もあるし、畑が広い時には1日かかって同じ畑で収穫を継続する時もある。今回はその中でもいくつか異なる品種の収穫をご紹介。
クレマンダルザス用の品種、ピノブラン収穫
クレマンダルザス用の品種は、他のワイン生産用の品種よりも1~2週間ほど早めに収穫が始まる。規定された日程というのはその日から収穫が可能ということだが、ワイナリーによっては、その数日後から収穫を始めるワイナリーも多いし、中には規定日よりも早めに収穫を始めるワイナリーもある。この場合は収穫日を申請する必要がある。
収穫しやすいように、一度トラクターが通った後のぶどう畑。あまり時間はかけられないが、収穫したぶどうを見ながら、病気になっているもの(キノコがついているもの)などはできる限り手で取り除いていく。
こちらが収穫されたぶどうたち。
多くのSNSでも今ワイナリーさんが収穫の様子やぶどうの写真などを掲載している。インスタ映えも大事なので、そのぶどうは全て綺麗なものが多い。けれど、あの写真のように綺麗なぶどうばかりじゃない。
キノコ(カビ系)が付いてしまったもの,ハチに食われたもの…けれど逆にこれが農薬などを使っている場合は、虫も寄り付かず、綺麗なぶどうが多いこともあるかもしれない。決して綺麗なぶどうが良いぶどうではない時もあるし、美味しいぶどうは昆虫も分かっているので、虫が多くついているぶどうは美味しいぶどうという証拠でもある。
ピノノワール収穫
こちらがアルザス唯一の赤ワイン品種、ピノノワール。こちらも、この日の収穫はクレマンダルザス用。
ぶどうの収穫は実は収穫量も決まっているが、自然派ワイナリーなどでは、実際この規定よりもうんと少ない収穫量の場合が多い。こちらのワイナリーもかなり少ない収穫量だ。
赤ワインの品種は皮が紫~赤い色なので、葉っぱの中にあっても見つけやすく、収穫しやすい。
赤ワインはマセラシオンが大事なので、ピノノワールはちゃんと皮が赤から紫のものを選ぶ。緑色のものなどは、収穫の間になるべく削除していく。
Grand cru Altenberg de Wolxheimミュスカ
グランクリュは土壌に特徴があり、また日射や土壌の種類など、多くの要素が関係するが、そのため急な丘の上にあるGrand Cruも多い。
収穫は必ず下から上に上がって行き、その逆はしないと言っていた。
アルザスのGrand Cruは全体のたった4%。おまけにミュスカ自体の生産も全体の数%と言われているので、Grand Cruのミュスカはかなり貴重だと言える。
Grand Cruに関しては、ていねいに、獲り残しや無駄などが出ないように、収穫していく。
収穫前には収穫しやすいように一度トラクターが通っているのだが、それでもまだまだ草木が残っていて、収穫時も草木がチクチク痛い時もある。
こちらがミュスカ。
グランクリュは丘の上(山の上)にある事が多いため、とにかく腰にも足にもこたえる。また、特にミュスカは特に低いところにぶどうがある気がした。ワイナリーさんは「これが普通だよ」と言っていた。
そして、このぶどうでは、ハチが穴を開けると中に蟻が潜んでいる事がある。こうした実は省いていかなければならない。消費者には見られない、なんとも地味に大変な作業だ。
ぶどう畑にはハチ、アリ、てんとう虫、カタツムリなど多くの虫に遭遇する。虫が苦手な人には合わない作業だ。美味しい草木には多くの虫がいる。こういう自然派、野生派の畑で作業すると、自然と共存しながら生きていくことの大切さが分かる。
とは言え、ここまで収穫の間に細かく作業するから、美味しいぶどうだけで美味しいワインができるのだと思う。
収穫間の楽しみ
そして、収穫の楽しみはワイナリーのワインも飲める事だ。これもワイナリーによるようだが、収穫の間は仕事中なのでワインは飲めず、収穫後にワインを飲ませてくれるワイナリーなどもある。
こちらのMAISON LISSNERではランチの時にLINNSERさんのワインをいくつか飲ませてもらえる。
こちらがアルザスグランクリュ、ALTENBERG DE WOLXHEIMのミュスカ。
畑を見て、ぶどうを見て、そして最後にそのワインを飲む(前年のもの)。この畑から、この土壌から、このぶどう品種から、このワインができると言うことが分かるのは面白い。ミュスカは、食べても本当にマスカットそのもの味がする。そしてさらに土壌の味わい、旨味を感じられる。
こうして収穫後に自分が収穫した品種、土壌のワインを飲むと、そのありがたさがよく分かる。あれだけ大変な想いをして収穫したぶどうから作られたワインはやはり美味しい。
特に急な斜面での収穫は簡単じゃない。また収穫量も少ないGrand Cruがそれだけ料金も高めになるのも納得だ。
また、ぶどう収穫中の何よりの楽しみは、ワイナリーでのランチだ。今私がいるワイナリーでは、ワイナリーのお父様、BRUNOさんが皆のランチを作ってくれる。
BRUNOさんは、美味しくて、他に見ない(飲めない)珍しいワインを作られるし、ピアノなど音楽も奏でるし、料理も上手いし、そしてデザートのケーキも作られる。なんでもできる、器用な方だ。
そして、まるでレストランのように、ちゃんと前菜、メイン、デザートとお腹いっぱいになるほどご馳走が出てくる。
また、ある日は収穫を一緒にしている方がお庭で穫れたトマトを持って来てくれた。アルザスでは季節によって、庭で採れた果物や野菜がたくさんある、ぶどうだけではなく正に農業国、農業が重要な地域でもある。
こちらがある日のマスの前菜。
料理は魚料理だったり、
ローストビーフなどの肉料理だったり、いろいろだ。
ちゃんとデザートもBRUNOさんの手作り。これはパンペルドユ(フレンチトースト)に桃のコンポート。
そしてもちろんBRUNOさんがお勧めしてくれる食事に合わせたワインも飲めるのが良いところだ。食事に合わせて毎回異なる数種類のワインを飲ませてもらえるので、なんとも贅沢なランチが食べられる。特に自分が好きなワイナリーのワインなら、本当に贅沢な時間だと思う。
収穫の間は、ちゃんと料理に合わせて、BURNOさんがいろいろワインを持ってきてくれるので、ワインとのマリアージュも学ぶことができるのだ。
PINT GRISマセラシオン、オレンジワイン。
そしてアペラシオン コミュナルWolxhwim Riesling。アルザスではアペラシオン コミュナルは13種ある。そのうちの1つ。この村の土壌のリースリング。
と通常のリースリング。2種飲み比べると土壌の大切だとワインの味わいの違いがよく分かる。
どのワインを飲んでも、これほどまでに、後味の最後にほんのり旨味を感じられるワインは他になく、絶対に日本食に合うワインだと思う。そういう意味でも良い意味でここのワインは全てちゃんとワイナリーの自己主張が現れており、他に見ないワインを生産している。アルザスワインとか、自然派ワインと言う括りとはまた別の、オンリーワンのワインばかりが揃っている。
そして、甘口ワインと言われるGewurztraminerのVendange Tardive も、ちゃんと糖度があるのにその中にちゃんと旨味を感じるため,甘口ワインなのに、塩気が混ざっており、そこまで甘くなく感じる。
ワイナリーでこうしてワインと食事のマリアージュまでも楽しめて、和やかなランチ時間が過ごせる。もちろん、フランスらしく、1時間以上、のんびりと、ランチの時間を取る。そしてまた、こちらのワイナリーでは年配の地元の方が多いため、皆の会話がアルザス語の時もあり、何を話しているか分からない、と言う事もあるが、それはそれでアルザスらしく、とても面白い雰囲気だ。
ワイナリーによっては若い人が多いところもあるし、このワイナリーでは、もう20年もここで収穫をしていると言う地元の方や、すでに御隠居生活だが、ぶどう収穫には毎年いらしている方などもいる。そんな皆さんの年齢のこともあるからか、ここのワイナリーでは意外と無理をしないで、穏やかにぶどう収穫をしている気がする。
こちらのワイナリーでは、ワイン生産にはぶどうが大事だと言うことを真に学ばせてもらえた。
ここのワインはカテゴリーとしてはアルザスワインで、自然派ワインなのだが、ある意味そのどちらとも言えないような、他では味わうことのない、ここでしか味わったことがないようなワインたち。その味わいがどこから来るのだろうか、とずっと思っていたのだが、今回畑に行って、ぶどう収穫をして、それが充分理解できた。
実はこの畑は、あの有名なアルザス自然派ワイナリー生産者のChritian Binnerさんに先日お会いした時に、「BRUNOのような畑には(自然過ぎて)できない」と言っていたほどの、野生派の畑なのだ。
ワインの勉強をすると「手積みも機械も変わらない」なんて言われることもあるが、絶対そんなことはなく、手摘みと機械での作業には味の違いもきちん差が出るのではないだろうか、と実感できる収穫作業だった。
腐った部分は切って捨て、ハチが刺した実も切り取って行く。ここまでするのはかなり苦労する。それに、ぶどうの葉が一切、切り取られていないので、偶にぶどうを葉の中から探し出すのも一苦労だったり、葉が邪魔をして収穫も時間が掛かる。こうした手作業がきちんとワインの味にも繁栄されているのだ。
丁寧にここまでの作業をするからこそ美味しいワインができるのだと思う。美味しいぶどうからは美味しいワインができる。ワイン生産に関しては、「品種にもよるが、最低でも7、8時間かけてゆっくりプレス」し、そしてワイン生産に関しては「なにもしない」と言うが「なにもしない」とは放っておくと言う事ではなく、見守るということであり、事前にこうした細かい作業があってこそ、あとは「ぶどう任せ」になるんだと思う。
どのワインを飲んでもここのワイナリーの特徴である、品種の味だけでは無い、後味にほのかな塩気とも言える、旨味が感じられる。けれどその味わいは決して自己主張し過ぎてはいない。最後にほんのり感じられる旨味が、なんとも日本人には心地よい気がするし、日本食にも合うと思う。他に類を見ないワインと言うワインたちだ。
ヴァンナチュール、自然派ワインが日本でも流行っているようだが、その上を行く、というか、その枠に囚われていない、畑そのものが「自然過ぎる」ワイナリー。
こちらのワイナリーに関するお問合せ、アルザスワイナリーへの訪問、おすすめアルザスワイン、日本で買えるアルザスワイン、特にインポーターさんの今後日本に未入荷のアルザスワイナリーの開拓など、お問合せ頂ければ対応できるのでご興味のある方はぜひお問合せ頂ければと思う。
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