実は同じようなオープンデイが昨年も開催され、とても有意義な1日を過ごせた。日本からも団体で参加した方々もいたそうだ。
ちょっと開催時期とは異なるが、せっかくなのでワイナリーのオープンデイとはどんなものか、そして、この機会にマルセル・ダイスさんのワインやワイナリーを紹介したいと思う。
アルザスワイナリー、マルセル・ダイスとは?
マルセル・ダイスのインポーターさんのサイトによると、『現代アルザスワインの頂点を極めるジャン・ミッシェル・ダイス。アルザスに初めて「テロワール」の概念を持ち込んで大論争を巻き起こし、遂にはAOC法の改正(ラベルに品種名を表記しなくてもよくなったこと等々)を成し遂げた、信念の男」とあり、どんなお方なのかと、とても興味深く、ワイナリーに訪れた。ビオデイナミワインの生産者でもある。
ワイナリーオープンデイ
さすがマルセル・ダイスのオープンデイという感じで、ワイナリーではテイスティングだけではなく、香りについてのセミナーや、ブラインドテイスティングなどなど盛り沢山。本当に有意義な時間を過ごす事ができた。そして何よりもこのワイナリーのワイン生産に対する哲学や想いを教えてもらうことができた。
2日間に渡って開催されたオープンデイには日本人らしき方々もいらしゃり、マシューさん曰く「日本のパテイシエさんの団体25名が来たよ。」とのことだった。
テイスティングだけでなく、多くの魅力的なイベントが盛りだくさん
ワイナリーでは今回なにより魅力的だったのはワインテイステイングだけではなく、ニューロサイエンティストによるワインの香りに関するセミナーや、マルセルダイスワインと料理のマリアージュ、そしてブラインドテイステイングなどの盛り沢山のイベントに参加することで、1日中楽しむことができた。香りのセミナーは、あの有名なWSET資格の英語圏での香りの認識とフランス人の香りの認識の違いや、香りの認知は生まれつきのものか、否か、など、ちょっとアカデミックな、でも分かりやすい説明で興味深いものだった。
マルセルダイスのカーヴ
カーヴは木樽とステンレスが置いてあるが、今後は木樽に以降していくそう。やはり木樽のほうが手入れは大変だが、形状的に長期保存には最適なんだそうだ。また、アルザスワインはヴィンテージ物と言われる、ワインはあまり存在しないようにも思われるのだが、その昔、長期保存ワインはすぐに販売せず、いわゆる家の財産と同じように、家族がお金が必要になる結婚式などの時に売ってお金にしていた、そうだ。実はアルザスワインも長期保存が可能で、ものによっては10年、20年寝かしてから飲むことができるそうだ。
ワイナリーのテイステイング
今回のオープンデイではマルセルダイスの主なワインの試飲の他に、同じグランクリュの年代違いやヴァンダンジュタルデイブやセレクショングランノーブルなども試飲できた。同じグランクリュで年代別というのはあまり飲む機会がないので、この3年違いのテイステイングも、とても有意義なテイステイングだった。ヴィンテージも大事だと言われるが、このテイステイングの違いを感じるのはかなり難しいと思った。
テロワール表記をしているとは言え、やはりヴァンダンジュタルデイブやセレクショングランノーブルはアルザスの規定通りセパージュが表記されていた。
テロワールの大切さを改めて実感できるテイステイングだった。
目からウロコのブラインドテイステイング
ブラインドテイステイングと聞くと、ワインの銘柄が分からないまま、ワインを飲んでその品種を当てていくというものかと思ったのだが、目の前に置かれていたのは黒いワイングラス。ワインの色も分からないようになっており、そして、目隠しをしてワインを感じ取っていく、というものだった。
ジャン・ミシェルさんが案内してくれたのだが、先ずは右手と左手に土壌を知る為に異なる石を渡され、その土がどんな感じかを当てて行く。そして、グラスに注いでもらった2杯のグラスをグラスに手をかざして感じていく。そんな感じでブラインドテイストをして、ジャン・ミシェルさんの大事にするテロワールの概念がよく理解できる、そんなブラインドテイステイングだった。
マルセルダイスワインと食のマリアージュ
そして、もう一つ魅力的だったのはマルセルダイスのワインとフレデリック・エンゲル(FREDERIC ENGEL)による食のマリアージュ。今回はこの3本のワインとそれに合う食べ物を作ってもらったそうだ。
こうして素敵な食と一緒に合わせるワインは、どうワインを飲んでいけば良いのか、というのもなんとなくわかるし、そしてなにより美味しいものが食べられて、至福の時だった。
マルセルダイスのジャン・ミシェルとマチュー
実は以前にもこのワイナリーに仕事で訪れたことがあり、ご子息である後継者のマチューさんには以前もお会いしたことがあった。けれどアルザスの革命児と言われ、アルザスワインを世に知れ渡らせ、革命児とも言われるお父様のジャン・ミッシェルさんにはお会いした事がなかった。そんな中今回のワインオープンデイでジャン・ミシェルさんともお会いできたことは本当に良い機会だった。お二人や、他のスタッフさんからもいろんな話しが聞けて、本当に有意義な時間を過ごすことができ、これは是非多くの方とシェアしたいと思った。
ここで今回の訪問で学んだマルセルダイスのワインの哲学についても、ご紹介していきたいと思う。
マルセルダイスのワイン作り
アルザスに初めて「テロワール」の概念を持ち込んで大論争を巻き起こした、とあるが、お話を聞いて思ったのは、これはもっとシンプルな考えなんだと言うことだった。マチューさんに案内されて、カーヴを見せてもらった時に、マチューさんが最初に行ったことがとても印象的だった。
「土壌(テロワール)を瓶に詰める」
土壌の中にはそれぞれ特徴があり、ぶどうの品種ではなくて、大事なのは土壌なんだということ。そして、自然に従ってワインを生産していくので、圧搾も自分たちの都合ではなく、ぶどうに合わせて圧搾していくので、時間も例えば3時間とか人が決めるのではなく、ぶどうの都合でプレスも決めていく。だからこそ手間ひまかかる仕事なんだと教えてくれた。
マルセルダイスの日本輸入
日本でも有名なマルセルダイスだが、マチューさんと話をしていると、彼曰く日本への輸出は1985年、お母様が一人で「日本でインポーターさんを見つけるまで帰らない」と日本へ旅立ち、彼女はユースホステルなどに泊まりながら、日本でインポーターさん探しをしたそうだ。そんなバイタリティーと苦労があったことすら知らなかったが、こういう努力がきちんとワイン販売展開に結びついているんだと思う。
ただただ美味しい、良いワインを作る革命児ではなく、マルセルダイスのワイン人気の裏には、そういった積極的な行動力や、多くの努力もあったからなんだろう。現に、彼らはただただワイナリーで待っているだけではなく、海外のワイン展示会などにも参加してマーケティングを広げている。
マルセルダイスのワイン生産
手間暇かけて生産されたワインは土壌が大事という点からしても、通常のぶどう生産よりも1ヘクタールの生産量がかなり少ない。例えば、通常のグランクリュは1ヘクタールは55hlなのに対し、マルセルダイスは通常の彼らの呼ぶプルミエクリュと言われるぶどう生産でも1ヘクタールに対して40~50hl、グランクリュでも1ヘクタールに対して20hlのみの生産だ。この数字を見るだけでも、土壌に対して、ぶどうの生産が少ない事が分かる。それだけワインの味に土壌が大切だという事が分かる。
マルセルダイスの販売展開
そんな手間暇かけたマルセルダイスのワインは、もちろん他のアルザスのワイナリーのワインよりもお高めだ。セールス担当の方曰く、「アルザスではワインに10€以上出さない人も多い」んだそうだ。アルザスでは、ワインはもっとお手軽な飲み物で、気軽に買える料金じゃないと売れないのも事実だ。だから、70%が海外での販売展開ということも頷ける。
地元のアルザスワインは意外とお手頃価格で買えてしまうが、土壌の味が引き出されているリユーデイーと呼ばれる土壌のワインや、グランクリュはやっぱり別格の味がするし、ワインの品種の味ではない、正に土壌の味がするのだ。
こういったオープンデイはいろんなワイナリーで開催されているがそれも多種多様。こちらのワイナリーでは多くの催しものが開催され、1日充分に楽しめ、マルセルダイスのワインも堪能でき、そして香りとワインの関係など、多くの事を学べる、ためになる1日だった。もちろん美味しいワインで有名だが、それだけではなく、顧客とのコミュニケーションが取れるこういう場があって、ワインの味だけでなく、ワイナリーのファンになり、さらにそのワイナリーのワインを好きになっていくんだと思う。