Christophe lindenlaub
と言うことで今回は、Dorlisheim という村にあるChristophe Lindenlaubさんへお邪魔した。 日本にも入っている自然派ワインだ。
アルザスのワイン街道の村へは車がないと行けないと思われている方も多い。けれど実はストラスブールから電車やバスで行ける村も多く、今回訪れた村はストラスブールからローカル線で20分ほどの村だ。
ここの村は人口2600人ほどで、駅前にあるワイナリー地図には17軒のワイナリーがあると表示されていた。
※実際は現在10ちょっとだろうとワイナリーさんが言っていた。
実は数年前にこの村に来て、ここのワイナリーにも入ったのだが、他のお客様がいて、私も電車の時間があってすぐおいとましてしまったので、今回はリベンジ訪問。
今回も思いつきで出掛けてしまい、いつもの如くアポ無し訪問だったが、とてもよく対応してくれた。そして、驚くことに以前の訪問のことも覚えていてくれた。実はその訪問は、恐らくまだ私がこうしてアルザスワイナリー巡りの記事を書く前で、また、まだ漠然とワイナリー訪問を始めたかなり昔の事だ。
自然派ワインについても全く知らず、最初1、2種説明なくワインをテイステイングさせて頂いたのだが、いつものアルザスワインとかなり異なっており、驚いたのを覚えている。
今思えばあれが私の初めての自然派ワインだったのかもしれない。自然派ワインはやはりアルザスワインとはまた異なるカテゴリーな気がするのだが、やはりこういったワイナリーさんからのワインの説明があってこそ、ワインを美味しく飲めるんだと改めて思った。
Christophe Lindenlaubは、ここはこの村で唯一の自然派ワイン生産者。
12ヘクタールのぶどう畑を持ち、1759年からのワイナリーだが、彼の代までは牛も飼っていた農家だったそうだ。自然派ワイン生産は2012年からで、なんと10種類ほどの自然派ワインが揃っており、今では自然派ワインに特化した生産者。
けれど昔からのお客様もいるため、簡単に自然派ワインのみに変更することは味的にも値段的にも難しく、他にも通常ワインも生産している。こちらの通常ワインは値段もかなり安く、Christopheさんのお勧めでもないようで、テイステイングはしなかったのだが、通常ワインは昔ながらのアルザスワインという印象だった。
「昔ながら」というのは、これがアルザスワインの一つの問題でもあるのだが、ひと昔前はアルザスにはドイツを含めて多くのお客が車でワイナリーに直接ワインを買いに来て、大量にワインを買っていた時代だった。なので、値段も安く、大量に販売していた時代があった。
それが最近では若者もそこまでワインを消費しなくなり、大量購入をしていたドイツからのお客も減り、ただワイナリーでお客を待っているだけではワインが売れない時代になってきている。
そのため、ワイナリーから飛び出し、外に出てマーケテイングやセールスに力を入れているワイナリーは販売を伸ばしていくし、世代交代でSNSなどを有効活用しているワイナリーもある程度注目され顧客を掴むことができるだろう。
ということは生産数で薄利多売を目的とするのではなく、ワインそのものの質を上げ、値段もある程度上げて、良いものをちゃんと販売していく必要があるのかもしれない。
また、今こうしてオーガニックワイン、ビオデイナミワイン、そして自然派ワインなども注目されており、通常のワインよりも料金が多少高いこともあるが、これから日本からもこういった個人ワイナリーの個性あるワインが注目され、インポーターさんが新しいワインを探しに来ている気がする。
こちらのワイナリーは自然派ワインらしい味わいで、日本には北海道のインポーターさんが輸入しているそうで、ここ数年前から日本にも入り始めているそうだ。しかしながら、全体の生産本数は50,000本ほど、そのうちの5,000~6,000本ほどが日本に輸出されているそうなので、日本での購入もかなり限られているとも言える。
なによりの特徴はこちらのエチケット。
後ろのエチケットも読めば品種も分かるが、とにかくアート重視で可愛い柄のものが多く、また、詩的ネーミングのワインばかりだ。こういった所にブランディング化、差別化が伺える。
飲みやすいシルバネール(Sylvaner) のMatin fou (直訳はバカな朝だけれど、意訳すると騒がしい朝、みたいな、そんな感じだろうか…)。名前に似合わず、のみやすい口当たりも良いワインだった。
Je suis au jardin (私は庭にいる)の品種はミュスカ。実はこの飲ませて頂いたワインは自然派ワインなのに栓を開けて1か月にもなると言う。
自然派ワインと聞くとも繊細で味も変化しやすいのかと思いきや、以前暑い国に持って行ったワインもあって、かなり暑い所に保管していた事もあるが、自然派ワインでも味も質も変わらなかったそうだ。意外と温度にも耐えれるんだとびっくりしたし、栓を開けて1か月でも飲めることにも驚いた。
Je suis au jardin と同じ品種のmo mintara もmuscat だが、日本用の特別キュベだそう。日本はやっぱり限定ものとか、好きだなあという印象だ。エチケットもインポーターさんが制作されたそうで、もちろんこのワインはフランスでも買えない。アルザスワインなのに日本限定キュヴェ。
「フランスでは買えない、アルザスでも買えないワインなんだよ。」と言うことでボトルだけ見せてもらった。
En Equilibre (バランスよく、という感じの意味)。品種はリースリングだが名前の通り、色んな意味でバランス良いワイン。
そして同じくリースリングだが、こちらはA GRIFFES ACEREESという鋭い爪の意味を持つワイン。名前のごとく酸味が強く、ちょっと辛口な、そんなリースリングだった。
Un Jour Je Serai (ある日私は知るだろう)はなんだか意味深なネーミングだがこちらも品種はリースリング。こちらのリースリングは品種ではなく、逆に土壌を大切にしたワイン。土壌の味が楽しめるワインとも言える。
この三種のリースリングの飲み比べをするだけで、今までのリースリングの固定観念が吹き飛ぶような、そんな3種全く違うワインだった。同じ品種でもこんなに違うワインができるんだと改めて感じた。リースリング好きなら、ぜひこの3種全部試して、リースリングの味に驚いてもらいたい。
このワイナリーにはオレンジワインと俗に言われるワインが3種もある。
まずはこちら。
ELE FANTA CITRON と ELE FANTA ORANGE
2種のオレンジワインなのだが、ネーミングに遊び心がたっぷり入った面白いワインだった。時間をかけて生産されているので、こういった遊び心もワイナリーさんの人柄を感じる。
ELE FANTA =エレファンタ という「象」の意味と、ファンタ=某炭酸飲料のネーミングとかけているのだ。2種あるので、ラベルも象の正面と後ろ姿。なんとも可愛いオレンジワイン2種だった。
2種お試しすると、確かにCITORONの方がリースリングの酸味を感じ、ORANGEの方がまろやかな味わいだ。
こちらMY LITTLE SISTERはゲヴェルツラミネールのマセラシオン。私は個人的に特にオレンジワイン愛好家というわけではないのだが、このオレンジワイン、特にこのゲヴェルツラミネールは今回のお気に入りワインの一つとなった。自然派ワインには珍しく、かなり甘口でそしてそのためアルコール度も16度と高めのワイン。自然派ワインの場合は甘口に仕上げるにはアルコール度も高くなる。
Christopheさんに「このワインには何が合いますか?」と聞くと「ない!」とはっきり答えていた。アルコール度も高く、この甘さは確かに食前酒か食後に飲むのに最適だという感じだ。一気にたくさんは飲めないが、ちょっとした一杯として飲むのにお勧め。
実はこのワインは英語名なので、英語圏の国だと逆に他のフランス語名のエチケットに変更するよう依頼が来るそうだ。英語圏の国でフランスワインとして認識してもらうためにはやっぱりネーミングもフランス語が良いようで、こういう所もマーケティングに重要な要素なのかもしれない。
突撃アポ無し訪問なのに、快く迎えてくれて、こちらのワイナリーで3時間弱のんびり滞在させて頂いてしまった。田舎の村のとても気さくなおじさまのイメージのChritopheさん、その田舎の村の素朴さと彼の優しさがワインにも感じられる、そんなワインが揃っていた。
余談だが、私はワイン初心者だ。実際はワインのプロでもなんでもない。けれど、私みたいな初心者でも気軽に飲めるのがアルザスワインだと思っている。今回の訪問でも、Chritopheさんが色々説明してくれている時に、自然派ワインでも意外とスッキリとすんなり飲みやすいワインがあって「口の中に優しいワインですね。」というワインの表現らしくない表現を使ったら、「その表現、分かりやすくていいね!」と気に入ってくれた。
まろやかな口当たりで、まあるい味がして、ツンと突き出た味や香りなどがなく、口の中でとても「優しい」感じがした。Christopheさんのワインはそんな優しい味わいのワインが多かった。
良いワイナリー巡りができて、やっぱりアルザスの人達は優しい。こう言う交流は本当に心が温まる。10種類ほど自然派ワインを飲ませていただき、一つ一つ丁寧に説明をしてもらったが、「ああ、自然派ワインだなあ。」という印象のワインたちだった。やっぱりワインには生産者の人柄がとても出ていると感じる。
ワインなど、ちょっと敷居の高いものというイメージがある気がするが、ワイナリー巡りをして感じるのは、ワインをワインのボトルだけで飲む場合と、こうしてワイナリーさんと話をしながら、そのワインについて、いろいろ知識を交えながら飲む場合では、味わいもワインに対する想いも変わると思う。
そして、それがワインを楽しむ一つの良さなんだと感じる。いろいろな知識がある方がワインをさらに楽しんで飲めると実感する。それがワインをただ飲むのと、ラベルだけを見て飲むのと、またそのワイナリーやワイン生産関連の情報があって飲むのではその美味しさも楽しさも違ってくる理由かもしれない。味そのものだけではない、こうしたワイナリーさんの顔や情報などそういうちょっとしたことでもワインの楽しみ方が変わるんだと思う。
私にできるのは、こうしてそんな素朴で美味しいワインの奥にあるワイナリーさんのことやワイナリーの良さを伝えて行く事だけだ。味は伝えることができないが、こうして写真だけでは伝えきれないアルザスのワイナリーさんの想う哲学などこれからも伝えていければと思う。