いまどきのリースリングは辛口がトレンド
柳 では、最後にリースリングです。オーストリアの「プラーガー」は、藤巻さんと和田さんでだぶりました。
藤巻 オーストリアというとグリューナー・フェルトリーナーが代表的だけど、やっぱりこの国の偉大な品種はリースリング。とくにカンプタルやヴァッハウはそうです。蔵でテイスティングするときもグリューナーが先で、リースリングが後。それだけリースリングのほうが強いということ。それから、ブラインドテイスティングでリースリングを判別するポイントのひとつとしてペトロール香があり、この香りがしてこそリースリングと主張する人もいる一方、あれは栽培や醸造の過失と指摘する人がいる。実際、ペトロール香の原因物質がわかって、それを抑えた造りが潮流になっているので、今日はペトロール香のしないリースリングを「今どき」として選ばせてもらいました。
柳 これ(プラーガー)はしないね、ほんとに。
藤巻 オーストリアのリースリングはペトロール香のしないものがほとんど。ペトロール香の原因のひとつが直射日光で、ドイツはできるだけ房に日光を当てようとして除葉するけど、オーストリアはしないんですよ。
柳 僕はニュージーランドの「クスダワイン」のリースリングを選びました。楠田浩之さんというと、ピノ・ノワールとシラーの評価がめちゃくちゃ高いんですが、リースリングも素晴らしい。2014年は残糖が1.1グラムしかないんですよ。
藤巻 扇谷さんはニューヨーク、フィンガーレイクス?
扇谷 はい。ジャンシス・ロビンソン(注4)がリースリングの過小評価を嘆いていて、ニューヨークのリースリングがこれからブレークするんじゃないかと書いてるんですよね。
和田 これはほかのふたつと比べると、少し残糖が感じられますね。
扇谷 この「アンソニー・ロード」は違いますが、フィンガーレイクスにはドイツ移民が多く住んでいて、旧来からあるドイツワインのスタイルを踏襲している造り手が多いですね。少し甘めに感じられますけど、これでもドライ・リースリングなんです。
写真奥の細長い緑色のボトル プラーガー リースリング・シュタインリーグル・フェーダーシュピール 2015/Prager Riesling Steinriegel Federspiel 2015
輸入元:エイ・ダブリュー・エイ
写真プラーガーの左隣 アンソニー・ロード アート・シリーズ・ドライ・リースリング 2012/Anthony Road Art Series Riesling 2012
輸入元:GO-TO WINE
写真前列左端 クスダワイン マーティンボロー・リースリング 2014/Kusudawine Martinborough Riesling 2014
輸入元:アサヒヤワインセラー
柳 今回、皆さんに選んでいただいたのは見事に辛口のみでした。甘口はリースリングでもトレンドからはずれる?
藤巻 料理に合わせづらいのが一番の理由かな。持ち寄りのワイン会でも半甘口のリースリングが1本あったりすると、どこで出そうかと悩むもの。
柳 それからリースリング王国ドイツが一本もありませんでした。
藤巻 誰かしら持ってくると思ったんだよね(笑)。ドイツもゲオルグ・ブロイヤーのベルク・シュロスベルクとか、辛口でいいリースリングがいっぱいある。
和田 僕は甘口、辛口にかかわらずリースリングは食事に合わせづらいと思ってるんです。香りの主張も強いじゃないですか。エゴイストな品種ですよね。
一同 エゴイスト(笑)!
扇谷 残糖が少しあるものなら、出汁系の料理に合うと思うんですけど。
和田 日本料理は砂糖や味醂を使うので一見合うような気がしますが、リースリングの酸が調和を乱すことがときどきありませんか?
藤巻 たしかにリースリングの潮流は辛口なんだけど、さっきのシャルドネと同じでみんなが辛口ばかり造っちゃったら、それはそれでつまらない。シュペートレーゼ(注5)くらい甘みのあるリースリングを、仕事が終わったあと、料理なしにワイン単体で飲むと抜群に美味しいよ。
和田 ヒーリングワインですね。
柳 白ワインの主要3品種についてそれぞれトレンドはあるけれど、そればかり追うのは危険。多様性を失うリスクと表裏一体ということがわかりました。今日はありがとうございました。
注記
(注4) ジャンシス・ロビンソン
世界で最も影響力のある英国人ワインジャーナリスト。マスター・オヴ・ワインのひとり。
(注5) シュペートレーゼ
ドイツのワイン法における等級のひとつ。補糖の許されないQmP(肩書き付き上級ワイン)の中では2番目の等級。
参加者プロフィール
藤巻 暁
東急百貨店 渋谷本店「THE WINE」ソムリエ アカデミー・デュ・ヴァン講師
レストラン勤務を経て現職。旨いくてリーズナブルなワインを探し続けていたらあっという間に30年が過ぎ、今もなお飽く探究心を絶やすことなく何かを探し続ける。ワインを様々な角度から楽しもうと、常にアンテナをはり世界のワイン産地を巡るも、オーストラリアではインフルエンザにかかり、アルゼンチンでは肉を食べ過ぎ、いつも七転び八起き、今に至る人。
扇谷まどか
ワインとはかけ離れた航空業界から転身し、何の知識もないままワインの輸入会社を設立してから丸10年。シャンパーニュをこよなく愛し、輸入のほとんどが小規模生産者のシャンパーニュ。また、六本木でシャンパン&ワインバー、シャンパン・スタジオ、シャンパン・ビストロの3店舗を展開し、超多忙な毎日を送っている。その傍ら、各種さらなる上級ワイン関連資格取得に向け日々勉強中。