いまどきのソーヴィニヨン・ブランは香り控えめ
柳 では、続いてソーヴィニヨン・ブランに移ります。ニュージーランドの「フォリウム」と「ドッグ・ポイント」。どちらもマールボロなので、このふたつからいきましょう。ソーヴィニヨン・ブランに人々が求めるフレーバーってハーブ? それとも柑橘系ですか?
藤巻 教科書的にはピーマンと猫のおしっこがソーヴィニヨン・ブランの典型的な香りとして出てくるけど、人々が実際それを求めているかというと話は別ですよね。僕がフォリウムを選んだ理由が、まさにそこにあって、このワインを造っている岡田岳樹さんはピーマンや猫のおしっこの臭いが好みでないから、できるだけ出ないような造り方をしています。
和田 すべての香りの要素が控えめで、ロワール、とくにサンセール的です。
藤巻 マールボロはとくに香りが強く出やすく、世界的にはそれを求める人たちがいるから売れてるし、造ってるわけだけど、日本人は香水もあまりつけない民族だし、料理も出汁の世界。だから僕的にはフォリウムのようなソーヴィニヨン・ブランこそ、今の日本には必要だと思うんですよ。
扇谷 フォリウムとドッグ・ポイントを比べると、ドッグ・ポイントのほうが典型に近いマールボロのソーヴィニヨン・ブランですね。
和田 ここはクラウディ・ベイの元醸造家と栽培家が独立して始めたワイナリーなんです。
藤巻 むちゃくちゃピーマンが強い年とかありますけど、これはそれほどでもありません。少し樽使ってるでしょ?
和田 使ってますね。
柳 10年ほど前の話ですけど、昨年亡くなられたボルドー大学のドゥニ・デュブルデュー教授が来日された際、ソーヴィニヨン・ブランについてインタビューしたことがあります。教授によれば、上質のソーヴィニヨン・ブランの香りというのは、柑橘類とミネラル、それにほんの少しハーブが混じったものだそうで、オークはこの品種の特徴を壊してしまうというんですよ。それで、ソーヴィニヨン・ブランの小樽発酵を初めてやったのは、教授、あなたではないですかと問い質したら、その通りだが、あれは間違いだったと。己の間違いを素直に認めるのが賢者であるとおっしゃられてました(笑)。
和田 じつは私、ボルドーも考えました。メドックの白に、教授の晩年の変節が感じられるワインが見られますよね。
柳 そういえばもう10年以上口にしてないけど、パヴィヨン・ブラン・デュ・シャトー・マルゴーがずいぶん変わったとか?
藤巻 ちょっと変わった(笑)。
柳 ブラン・ド・ランシュ・バージュは変わりましたよね。
藤巻 あれは大きく変わった。
柳 実際、樽を使ったソーヴィニヨン・ブランの客受けはどうなんですか?
扇谷 うちは樽使ったソーヴィニヨン・ブランをあえて出さないんですよ。個人的にはピュアにソーヴィニヨン・ブランのアロマが出ているワインが好きなので、樽を使ったものは敬遠気味ですね。
和田 お店のポートフォリオとしてすっきり爽やかなワインは欠かせないし、そうすると真っ先に上がってくる品種が、樽を使っていないソーヴィニヨン・ブランになりますよね。
柳 シャルドネと比べると、ソーヴィニヨン・ブランは価格的にお値打ちなものが多いですよね。
藤巻 売りやすいですよ。夏に難しいこと考えず、キンキンに冷やして飲めますよね。シャルドネやリースリングより品揃えも豊富です。
和田 そうした清涼感を求めるアペリティフタイプに対して、フォリウムなんかはむしろお料理と合わせたいですね。ほんのりハーブが感じられるので、今どきの料理にはいいと思います。
藤巻 パクチー使う料理が増えてますからね。
柳 扇谷さんが選ばれたのが「テルラン」のクオルツ。イタリアは扇谷さんに言われるまで思いつかなかった。
扇谷 イタリアのソーヴィニヨン・ブランというと、アルト・アディジェかフリウリ。フリウリでも探してみましたが、やっぱりこれに勝るワインは見つからなくて。
和田 ストラクチャーと飲みごたえがあって、すっきり爽やかなだけのソーヴィニヨン・ブランとは違いますね。
柳 まさにガストロノミーのワイン。これは樽使ってませんか?
扇谷 そうなんですよ。私、樽を使ったソーヴィニヨン・ブランって好みではないのですが、このワインは抑えが効いていて樽っぽさを感じない。
藤巻 柳さんが選んだソーヴィニヨン・ブランも樽使ってますよね?
柳 南アの「シャノン」。セミヨンが11パーセント含まれていて、そのセミヨンを小樽発酵させてます。和田さんが推薦されたシャルドネと同じエルギン産。このワインの偉いところは希望小売で2200円しかしないところ。
和田 このシャノンは、ハーブというよりムスク、ちょっと麝香的な香りがしますね。
扇谷 樽使いが上手ですね。全然オークを感じない。
和田 ソーヴィニヨン・ブランについては、いわゆる典型的なソーヴィニヨン・ブランのほかはまだスタイルが確立してなくて、いろいろな可能性がある状況なのかな。
柳 典型的というと。
扇谷 WSET(注3)的に言うと、典型的ソーヴィニヨン・ブランはニュージーランドなんですよ。もはやロワールではないんですね。
藤巻 あそこまで、この国のこの品種はこの香りと味わいって、はっきりしてる組み合わせはそうないからね。
和田 欧州の人たちってアペリティフにアニスを飲んだりするじゃないですか。だから、マールボロの典型的ソーヴィニヨン・ブランみたいに、強烈な香りでも違和感ないんでしょうね。
藤巻 なるほど、そうか。
柳 一方、日本では強烈すぎる香りはあまりウケがよくない。それが今日、皆さんが選ばれたソーヴィニヨン・ブランをテイスティングしてはっきりしました。
一同 (笑)。
注記
(注3) WSET
Wine & Spirit Education Trustの略。ワインやスピリッツに関わる資格の大手プロバイダーで、そのディプロマ取得はマスター・オヴ・ワインへの登竜門と言われる。
写真前列コルクの右 ドッグ・ポイント・ヴィンヤード ソーヴィニヨン・ブラン 2014/DOG POINT Vineyard Sauvignon Blanc 2014
輸入元:ジェロボーム
写真ドッグ・ポイントの真上 フォリウム・ヴィンヤード リザーヴ・マールボロ・ソーヴィニヨンブラン 2015/Folium Vineyard Reserve Marlborough Sauvignon Blanc 2015
輸入元:nakato
写真ドッグ・ポイントの斜め左 テルラン ソーヴィニヨン・クオルツ 2014/Terlan Sauvignon Quarz 2014
輸入元:ヴィーノフェリーチェ
上記テルランの左隣 シャノン サンクチュアリーピーク・ソーヴィニヨン・ブラン 2014/Shannon Sanctuary Peak Sauvignon Blanc 2014
輸入元:スマイル