日本でワインが女性主導なのはなぜ?
フランスやイタリアでは男の飲み物であるワインが、なぜ日本では女性が主導的役割を担っているのか? 「日本酒女子」なる言葉もチラホラ見かける昨今だけれど、その実態はともかくとして、そんな言葉が生まれた背景についても本書を読めば理解できる。
それはつまり、日本酒がワイン化しているからなのだ!
ギョギョギョッ! と一瞬驚くけれど、いわれてみれば確かにそうである。日本酒といえば、昭和のおとうさんたちはだいたい晩酌に燗で飲んでいた。昭和のおかあさんは夕餉を出すことに専念し、おとうさんと一緒に食事をしなかった。あるいは、料理に合わせて酒を変える、という発想も日本料理にはなかった。かの吉田健一も「樽で来た極上の菊正宗で飲み始め、食べ始めたならば、終りまでその菊正宗で行くのでなければ折角の気分が壊される」と『酒肴酒』という随筆集に書いている、と著者は紹介している。
平成の御世となり、日本酒はいまや白ワインのように冷やしてワイングラスに注いで味わうスタイルも珍しくなくなっている。
それだけ、つくり手を含めた日本の食文化、ライフスタイルがワインと西洋料理を私たちが受容しつつある。その変化の最中に私たちはいる。ワインの受容は需用につながり、需用とはすなわち消費である。消費あるところに供給が生まれる。「受容」と「消費」をキイワードにして、日本の食卓文化について大学で研究する著者は、かかる状況にある以上、日本産のブドウでつくられる日本ワインは必ずやもっと盛んになる、と予言する。
というような具合に、ワインについて、歴史的、地理学的、社会学的にとらえ直した、ワイン初心者はもちろん、もしかしたら上級者にも目からウロコのあれこれが満載である。本書は、2015年に著者が長野県にある玉村豊男のワイナリー「アルカンヴィーニュ」で行った講座がもとになっている。学問レベルの内容が語りで書かれているので読みやすい。
聞き手は、ワインづくりを志望するチャレンジャーたちだ。著者自身が大のワイン好きということもあって、日本ワインのつくり手たちへの愛情あふれる応援歌にもなっている。
日本の気候では、いいワインはできないと思われている。でも、そうではない!
フランスでなぜ美味しいワインができるのか? それはテロワールが生み出しているわけではない、と著者の福田育弘はいう。じつはこれは福田が共同翻訳した「フランスワイン文化史全書」で、歴史地理学者のロジェ・ディオンが書いていることだそうで、福田もまたこの本を読んで目からウロコだったという。
フランスではワイン用ぶどう栽培に適した地中海沿岸でなく、むしろ気候の厳しい北の土地でいいワインができている。なぜか? それは長年にわたって人間がいいワインを造ろうとして土地と格闘しながら努力を続けてきたからだ。
いいワインをつくりたい、という情熱がいいワインを生み出す……。
著者の福田育弘は、文学の研究を目的に1985年から88年までパリに3年間留学し、このときにワインとフランスの食文化にすっかり魅了されてしまったという。ワイン・ラバーは象牙の塔にも住んでいる。これこそ日本におけるワイン文化の受容を示す一端であるかも……。日本ワインに期待したくなる本です。