外食という名の冒険に飛び出そう!

『自分をバージョンアップする外食の教科書』 本郷義浩・著

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行った飲食店は2万軒!

著者は大阪のテレビ局で、25年にわたって料理番組をつくってきたプロデューサーを本職としている。1964年、京都生まれの51歳。取材した飲食店はのべ1万軒以上、プライベートでの食べ歩きも1万軒以上に達しているという。1年365日だから、3食をすべて外食にしても1095軒にしかならない。それを10年続けて、ようやく1万軒という数字が見えてくる。いわば外食の鬼、超人的修行者と表現することもできる。

にもかかわらず、著者はいささかもエラぶることなく、外食が人生にもたらしてくれる効能を平明かつポジティブに説く。これから外食の店を開こうという人のための教科書ではない。そういう人の参考にもなるかもしれないけれど、基本は「外食は自分をバージョンアップする武器になる」というコンセプトを掲げ、具体的な戦略と実践を、自分の経験を元に説くのである。

いわく、「自分を変えるには、いつまでも同僚とばかり安酒を飲んで、愚痴を言い合っている暇はありません。ひとりコンビニ弁当を買って、テレビを見て、風呂に入って寝るだけでは、何も始まりません。(中略)『外食』でリスクをとって冒険してみる。自分をこぢんまりまとめているバリアを破り、一歩踏み出して、身近な秘境の扉を開けてみる」。つまり、外食という名の冒険に出ることによって自分磨きをしよう! と誘うのだ。

というのも、著者自身、華やかなテレビの世界に入ったのに、「人前に出るのが苦手、引込み思案」で「初対面の人とは話が1分ともたない」という自覚があったからだ。そこで一念発起して、銀座の寿司屋にひとりで行ってみることにしたという。

ひとりで、銀座の寿司屋! 

う〜ん、これはたしかに現代の冒険であろう。コワイ。

結果として、鮨屋をめぐる冒険を5回ばかり繰り返したことが、みずからの対人消極性傾向を克服するきっかけになった、と著者は述懐する。「銀座の鮨店はビールと日本酒を飲んでいる限り、いちばん高い店で3万5000円くらいです。確かにいい値段ですが、自分をバージョンアップさせる投資としては安いと思いませんか」という問いかけは、読む者のシミッタレ貧乏根性を解き放ってくれるに違いない。

「『外食』を武器として自分をバージョンアップできたとすれば、その先にあるのは、何でしょうか。何を得られるのでしょうか」。巻末で著者はそう読者に問いかける。答えはごくごく普通ともいえるけれど、とてもたいせつなことだ。日本国憲法第13条にも書いてある。「外食」を「ピアノ」とか「柔道」とか「セックス」とか、あるいは「中食」「自炊」に変えても文意は通じる。

いちばんいけないことはコレである。「ひとりコンビニ弁当を買って、テレビを見て、風呂に入って寝るだけでは、何も始まりません」。

さて、ふらりと銀座の鮨屋に行ってみようかしら……とつぶやいてみたりして。

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