あらい・はるひこ
1958年東京生まれ。家は祖父、父と継がれる酒販店の「和泉屋」。中、高、大学は剣道一筋でアルコールには全く興味なし。急遽、家業を継ぐことになり、インターネット販売の草創期から参入。1999年から2004年まで楽天市場のワイン部門で第1位を獲得、一晩で1,650万円を売り上げたことも。2006年からスペインワインの自社輸入を開始。現在に至る。
酸がしっかり感じられ、冷涼感があり、緻密でエレガント
そもそも同社代表のハルさんこと新井治彦さんが、スペインワインに目覚めたきっかけは?
「僕は25年間ずっとブルゴーニュワインを追いかけてきました。ヴォギュエのミュジニーなんて何本売ったかわからないくらい。ところが、ブルゴーニュワインがとてつもなく高くなってしまい、それに変わりうるワインを探していたら、スペインと出会ったんです」
90年代末から2000年代に、いわゆるスーパースパニッシュのムーヴメントを迎えたスペインだが、現在世界中から注目されているワインは、それら濃厚なタイプとは一線を画すと新井さんはいう。
「酸がしっかり感じられ、冷涼感があり、緻密でエレガント。エル・ブジ(ミシュラン三つ星を獲得したレストラン)のフェラン・アドリアの影響が大きかったのでしょうね。スペイン料理が世界一洗練されたものになり、ワインもそれに合わせて進化しました。2006年にプリオラートに行った時はワインがあまりに濃すぎて、二度とここには来まいと思いましたが、『テロワール・アル・リミット』の登場で目が覚めましたよ」
それでは主要なブドウ品種ごとに、今が旬のスペインワインを聞くことにしよう。まずはスペインを代表する品種のテンプラニーリョから。
「王道でリオハになるけど、冷涼感を追い求めるとリオハ・アラベサの北部。『テンテヌブロ』のロベルト・オリバンは祖父の時代の造りを踏襲して、アヘンクージョなんて誰も知らない品種が入ってたりする」
では、ガルナッチャなら?
「ガルナッチャはスペイン全土で栽培されているけれど、ジャミーになりやすい品種で、エレガントなワインを見つけるのが難しい。この5年くらい噂になっているのがグレドス山脈のガルナッチャ。花崗岩土壌やスレート土壌から素晴らしくエレガントなワインができています」
新井さん、お気に入りの品種は?
「メンシアですね。僕がスペインワインを本格的に始めるきっかけになった品種。でもよい造り手を選ばないと、美味しいメンシアには出会えない。おすすめの造り手はもちろんラウル・ペレス。ピノ・ノワールにシラーをブレンドしたようなニュアンスがいいですね。冷涼感があって、タンニンはとてもシルキー」
カタルーニャのチャレッロは日本食とばっちり
白品種についてもうかがおう。
「スペインの白というと、以前はルエダのベルデホがまず挙がったけど、僕はあまり好きじゃない。ソーヴィニヨン・ブランと何が違うのかわからない。やはり個性的なのはガリシアのアルバリーニョ。造りに支配されるシャルドネとは対極の、テロワールを反映する品種だから。
それからもうひとつ挙げるなら、カタルーニャのチャレッロ。酸が高く、アルコール低めで、日本食とばっちり。チャレラー(チャレッロ好きの人)は今後ますます増えると思うな」

アルバリーニョ3本。左の「コス・ペス」はロドリゴ・メンデスとラウル・ペレスのコンビによる、花崗岩質土壌のリアス・バイシャスで、ブドウは足踏みで破砕。真ん中も同じく、ロドリゴ・メンデスのボデガ、ファルハス・デル・サルネスでラウル・ペレスのコンサルティングのもと造られるリアス・バイシャス「レイラーナ・ジェノベーバ」。樹齢200年のアルバリーニョをフードルで醸造。右はカステル・デンクスが醸造する「心自閑(心おのずから静かなり)」。カタルーニャのコステル・デル・セグレ産。
新井さんが今一番注目している白品種、チャレッロをアンセストラル製法で造ったスパークリングワイン「アンセストラル チャレッロ カル・ティカス 2017」。造り手はカル・ティカスのジョアン・ルビオ。澱抜きをしていないため酵母による濁りが見られるが、低アルコールの癒される味わい。