コメント今昔
一連の旅を通して石田が学んだことのひとつは、テイスティング後のコメントの解釈や認識の変化だ。
「たとえばブルゴーニュ・ワインの香りについて表現するとき、ゼラニウムの花にたとえることがあります。20年前は生産者もこの言葉を積極的に使っていましたが、現在はネガティブな表現だと思われているそうです」。
かつてはボルドーのカベルネ・フランのスパイシーさを示す「ピーマンの香りがする」といった表現も、完熟する前のブドウを使った証拠であるため、今ではネガティブな用語になっている。
「テイスティングコメントはフランス語をベースに発達してきたものですから、やはり現地に赴き、ワインの最前線で働くような人に意見を聞かないと、2015年の正しいニュアンスはわかりません」。
日本ソムリエ協会の技術研究部超を務め、後進の指導にあたっている石田氏だが、そんな彼でも世界の各地でトップクラスのソムリエたちとテイスティングするときには緊張するという。
「どんな表現であれ、最終的には自分んが探り当てた香りからワインの産地やブドウ品種などを特定しなければ意味はありません。この点、一流のソムリエたちはすぐに本質を掴み、一直線に正解に向かっていく。もちろん私自身もそう心がけているものの、強い相手とぶつかりあうことで学べるものは多いと思いますね」。
グループ アラン・デュカスのレストランのひとつ、パリ「オ・リヨネ」にてテイスティングする石田(右)と、ジェラール・マルジョン。マルジョンは1993年世界最優秀ソムリエのフィリップ・フォールブラックのトレーナーも務めた名伯楽。些細な違いを思える考え方や言葉の選び方を仔細に指摘する。
石田のためにマルジョンが開けた貴重なワインの数々。ブラインドテイスティングのため、アルミでボトルを覆っている。
試飲には「オ・リヨネ」の若きスタッフたちも参加。彼らにとってはまたとない機会だろう。