6人のワイナリー関係者に聞きました。
「あなたのワインとベストなひと皿を教えてください」
もともと要塞であった堅牢な建物が、1400年代から修道院に転用。一度閉鎖されたものの、1845年にはスイスのムリからヴェネディクト派の修道士がグリエス(ボルツァーノ)へやってきて再建された歴史を持つのがムリ・グリだ。ワイン造りに関しては、ボルツァーノでのラグレインの品質向上を使命としている。
「35年前までラグレインの80%はロゼ。今は、80%が赤ワイン。80年代の終わりから、赤ワイン向きの品種だと見直されてきましたが、きちんと成熟させないとタンニンが固くなります」と語るのは、ムリ・グリのセールス・マーケティング・アシスタントを務めるカトリン・ヴェルツさん。
そのラグレインの2011年物と合わせるのは、仔牛肉のステーキだ。暑かった夏の気候のおかげでブドウは濃い紫色で、ワインはとても豊かなタンニンを湛える。とはいえミディアム・ボディなので、やや淡泊な仔牛肉が馴染む。
「ワイン造りって、芸術と職人技を両立させる仕事ですよね」と尊敬の念をこめるカトリン自身は、ワインと料理を両立させる素敵なペアリングを完成させた。
母なる大地を意味する「アモス」と名付けられたアーティスト・ラベルのボトルを手にし、「このワインはピノ・ビアンコ主体でグレープフルーツのような香り。ほかのワインにも言えるけれど、アルト・アディジェらしさはフレッシュ&エレガントだと思う」と、ハラルト・クロンストさん。
「赤のスキアーバは皮の薄い品種で、タンニンが少ない。だから、魚や白身肉の料理と合わせることが多い。日本人にもウケがいいのはスキアーバじゃないかな。ロゼほどカジュアルじゃないし、ピノ・ノワールよりはシーンを選ばず飲みやすい」
とはいえ、さすがにラグレインはフレッシュ&エレガント枠から外れるのでは?
「“シラーのいとこ”と表現してもいいくらいスパイシーですみれの香りがして、これもエレガントでしょ。ただ、とくにアルト・アディジェでは珍しい粘土質土壌で収穫したものはフルーティさが弱まる。ボディは複雑になる分、長期熟成の可能性は高まるんだけれど」
彼がラグレインに合わせたのは、仔牛すね肉や豚のスペアリブなど噛みごたえのある料理。まだ若さの残るラグレインが、スルスルと喉から腹へ染みわたっていく様は心地よい。
生まれも育ちもボルツァーノ、最終学歴はボルツァーノ大学と筋金入りのボルツァーノっ子であるフロリアン・ブリグルさん。
「家にセラーと土地があって、人だけいないって状態だったので、『じゃ、復活させよう』って。無謀だったけど、なんとかやってこれた」
1970年代の廉価ワイン低迷時、アルト・アディジェの総畑面積は1万2000ha。現在は5400haだ。それを高品質少量生産の結果として、「浄化できたとも言える」とポジティブにとらえている。
ピノ・グリージョのワインは生産2年目に入った。テロワールからくるミネラルがきちんと伝わるスタイルで、「自分が好きなワイン。市場的にも成功している」と手ごたえを感じている。
「エレガントでクリーンなワインを目指すけど、余韻もちゃんと残るワインでなければ。不毛なワインはダメだよね」
シャルドネ、ピノ・ビアンコ、ソーヴィニヨン・ブランの混醸にも挑戦、しばらくは新発売するワインが目白押しの予定だ。
04
Falkenstein(ファルケンシュタイン)
フランツ・プラツナーさん
ファルケンシュタイン
ヴァイスブルグンダー 2015
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チーズフォンデュ入りのトルテッリ・パスタ
白ワインのエスプーマとほうれん草クリーム添
オーストリアとスイスの国境にほど近いバルベノスタ地区のワイナリーからやってきたフランツ・プラツナーさん。
毎日パワーある風が吹き続け、年間の平均降雨量は350ml。
「イタリアでもっとも乾燥したエリア。15世紀に開発された灌漑がなければ、草も生えない。でも、白ワイン生産には最適なエリアなんだ」とフランツは語る。
りんごの樹が80%は占めていた畑も、今や100%ブドウに転換。リースリング、ソーヴィニヨン・ブラン、ゲヴュルツトラミナー、ミュラートゥルガウを育てているが、一番重きを置いているのはピノ・ビアンコだ。
「10年、15年経っても品質が衰えないのが、うちのワインの利点。ピノ・ビアンコも醸造時にアカシアの樽を使用し、長期熟成タイプを目指している」
2人の娘には好きなことをやれと言い続けてきたら、長女がエノロジストに。「ワイン造りで彼女が新しいことをやろうとしたとき、それが可能になるよう私はサポートするだけ」と、ほどよい距離感でやさしく見守る佳き父でもある。
ティーンエイジャー時代はワイン造りに見向きもしない反抗期を経つつ、ワイン好きの友人に恵まれ、結果すんなりワイナリー5代目に収まったというフロリアン・ゴイヤーさん。
彼はラグレインのワインを抱えて登場した。
「この品種は、樹齢が高くなるほど如実にいいブドウとなる。うちの畑は樹齢50~60年。2014年は夏に雨が多くて困難な年と言われるけれど、9月は快晴に。収穫期は平均で10月中旬から末にかけてだから、いいワインを造ろうと思えば造れたってこと」と熱いトークを展開してくれた。
そしてボトルは、濃厚な牛ほほ肉料理の横にポンと置く。
「セージやタイムを添えた野生の鹿でもいい。これがスキアーバ種なら、前菜向きかな。ジェノベーゼ・ペーストのパスタと合わせても」
スキアーバ種のほうがペアリングの幅は広いと認めるが、「果皮が薄く、ピノ・ノワールより敏感で病気になりやすい。セラーでの作業も手間がかかって大変」。将来ピノ・ネロのワインも造りたいが、今は適した畑を見つけるのに苦戦中とか。
06
Abbazia di Novacella(アバツィア・ディ・ノヴァチェッラ)
ウルバン・フォン・クレベルスベルクさん
アバツィア・ディ・ノヴァチェッラ
プレポージトゥス モスカート・ローザ 2015
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チョコレート・ケーキ
1142年創立のアバツィア・ディ・ノヴァチェッラは、修道院が運営するワイナリー。ヴェネチアで農学を学んだウルバン・フォン・クレベルスベルクは、27歳のときに修道士と面談し、握手だけの契約で30年エノロジストとして働いてきた。書類での証明保全が必須のヨーロッパでは異例の契約方法だ。
そんな彼が食卓に持ち込んだのは、甘口赤ワインのモスカート・ローザ。
「ローザという名の通り、バラの花を感じる味わい。チョコレートと合わせるワインを探すのは難しいけれど、コレは合う!」と断言する。
若い時分は奥方へバラとチョコレートをプレゼントしていたというウルバン、「歳をとってしばらくチョコだけプレゼントしてたけど、このワインのなかにバラを見つけて解決した。
『本当に私のことを愛してるなら、シャンパーニュでなくモスカート・ローザで』ってフレーズとか、いい感じだよねぇ」
最後のデザートタイムは、イタリア男らしい甘い愛の言葉でシメられた。ああ、ごちそうさま!