量から個性へ
「かつてフランス人は、食事より水より、ワインを多く飲んでいた」
そう語るのは現在、ラングドックワイン委員会の会長をつとめるグザヴィエ・ド・ヴォロンタ。ラングドックのワイナリー「シャトー・レ・パレ」のオーナーでもある。一族の経営で、前オーナーは父親だ。
「50年ほど前、炭鉱や工場の労働者は毎日何リットルもワインを飲んだ。いま、そんなに飲む人はいない。労働は機械化、効率化し、健康の問題や飲酒運転の厳罰化という理由もあるかもしれない、世の中の変化で、ワインは必需品から嗜好品へと変わった。」
フランスワイン全生産量の1/3を産出するラングドックで、7世代にわたってワインをつくるド・ヴォロンタならではの話だろう。低価格なテーブルワインで量の下支えをする時代は終わった。
ラングドックのワイン造りの歴史は、さかのぼること2500年。スパークリングワインの生産もシャンパーニュより早い。その産地が「この40年、劇的に変化している。あたらしいAOCが毎年のようにできている。」
質、産地の個性が問われるようになった時代を反映して、いまやAOCは36あり、かつてのテーブルワインのポジションを担うIGPは19ある。ほとんどなかった輸出向けワインも、生産量の4割以上に。今後さらなる増加が予想される。これから10年、15年とかけて、ラングドックワインは知名度を高め、階層化が進み、再構築されてゆくだろう。ボルドーやブルゴーニュが歩んだ道を数十年で駆け抜けているのだ。
だからラングドックはダイナミックで、若い産地でもある。
ワイン造りをここで始める人も多い。国外からの参入希望者はボルドーに次いで多く、例えば、中国、イギリス、ベルギー、ロシアから挑戦者がやってくる。
年間320日晴天というのはそれだけでも魅力的な環境だし、必要な水分は地層に含まれているから不足の心配はない。海と山に挟まれた世界最大を誇る広大な土地は、土壌も気候も変化に富み、単一品種のワインから、アッサンブラージュ、白、赤、スパークリング、あらゆるワインが造れる可能性がある。
「ラングドックは栽培品種も多い。フランスでは最多の234品種が公的に認められる土地だ。世界のワイン生産量の95%は十数品種のブドウが占めているのに」
量産ワイン用ブドウの代表品種だったカリニャンを、ラングドックならではの品種と解釈し、高品質ワインを生む凄腕もいる。
「うちは100ヘクタール中1.5ヘクタールは毎年植え替える。品種を選ぶには、天候や景気のほか、将来の流行を読む必要もある。オヤジはなんて品種を植えたんだ、と子供に嘆かれないようにしないとね」とはド・ヴォロンタ。
「時代の変化のおかげで、ワイン造りによる表現の幅が広がったんだ。」
瞳に情熱が輝く。
ラングドックテイスティング動画:https://www.youtube.com/playlist?list=PLQnHnBk4yUk9P9EBuMU04ARGNonN_K6-J