第3回は、ウズラのロティにフルーティなブドウのソースを添えた料理がテーマ。西麻布「ラ・カーヴ・ド・ノア」でマリアージュを検証します。
この料理は、バターで丁寧にアロゼしてしっとりシンプルなローストに仕上げたウズラと、そのジュに赤ワインでコンポートした巨峰を加えたソースで構成されています。
ワインを選ぶ際には、メイン素材のウズラが白身で脂質の少ない淡白な肉質であること、ソースは粘性が控えめで、ウズラのジュとともにブドウの甘酸っぱさが際立ち、味わいのいいアクセントだという点が重要です。
脂質や粘性が控えめなので、主菜としてはやや軽め。だからワインも濃縮度や明確なタンニンは必要なく、軽やかでかつソースなどの風味と合う複雑性が必要です。
まず白は、アルザスの自然派生産者、マルク・テンペのツェレンベルグのリースリング2011。アルザス産は若干の残糖や豊かな果実感による甘いニュアンスがあり、年ごとに表現力が大きく違うのが特徴です。特に料理の重さに合わせ、その甘いニュアンスの強さを合わせるのがポイント。
今回のリースリングは辛口ですが、ソースの甘さにバランスよく対応するほどよい甘さがあります。そのため料理に負けず、ワインの風味を口中に保てるのです。
さらに少量の酸化防止剤の使用で生まれるポジティブな酸化的ニュアンスが、肉をロティした時の焦げた風味とも呼応。今回はこの焦げたニュアンスとワインの合わせ方も、ワンランク上のマリアージュづくりに必要な要素です。
次はシャンパーニュ。アンリ・ジローフュ・ド・シェーヌ マルチヴィンテージです。樽発酵・熟成、瓶内長期熟成、そしてピノ・ノワール比率の高さがフレーバーに明確なイースト感やスパイス感を出し、ロースト感とよく合います。
またきめの細かい泡を持つ繊細さと力強さを兼ね備えたタッチなので、この料理との総合的な味わいのストラクチャーもよく似ています。高めの温度で、白ワイングラスのような大きさのグラスでいただくと、よりテクスチャーとフレーバーの同調率が上がります。
最後は赤、ブルゴーニュからボノー・デュ・マルトレイ コルトン 1996です。タンニンは少なくて十分。ブルゴーニュのピノ・ノワール、さらに熟成していても96年のように骨格がしっかりして料理の強さと対応できるものを選びました。
コルトンのグランクリュは塩味が顕著に感じられるので、こちらも繊細さと力強さの共存したスタイルです。特に南西の斜面を持っているこの生産者は味わいのスタイルが大人しいタイプなので、脂質の軽い料理とよく合います。熟成によって生まれる風味はロティの風味との相性も抜群。余韻長く双方の風味を楽しむことができます。
今回の3銘柄
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ドメーヌ・マルク・テンペリースリング ツェレンベルグ2011
生産国 : フランス
地域 : アルザスアルザスの有名自然派生産者のひとり。リンゴの蜜の風味に、シナモンのようなポジティブな酸化のニュアンス、辛口だがほんのりした甘い風味を持つ。
マリアージュ結果 ① ② ③ ④ ⑤ -
アンリ・ジローフュ・ド・シェーヌ マルチヴィンテージ
生産国 : フランス
地域 : シャンパニュ12カ月の樽内での発酵と熟成、6年の瓶内熟成、70%のピノ・ノワールの使用により、ワインは骨格と繊細を兼ね備え、スパイシーで蜜のような風味を備えている。
マリアージュ結果 ① ② ③ ④ ⑤ -
ボノー・デュ・マルトレイ コルトン 1996
生産国 : フランス
地域 : ブルゴーニュコルトンとコルトン・シャルルマーニュだけをつくる、この地の代表的生産者。
西側の斜面の畑も所有しており、ワインは常にミネラリーで果実感も穏やか。時と共にその真価が発揮される。マリアージュ結果 ① ② ③ ④ ⑤
大越メソッド 基本アプローチ5カ条
- ① 五味を合わせる
- 五味とは、酸味、甘味、塩味、苦味、うま味のこと。料理とワインの2つの要素の中でバランスよく五味が整う時に、双方の風味が味わい深く感じられる。
- ② 味わいの同調
- ワインと料理の五味の中でも特に酸味、甘味、うま味を同調させる。互いのボリューム感や強さに合わせて同じ風味同士を同調させ、一体感を出して味を引き立てる。
- ③ 味わいの中和
- 五味や刺激(渋味、辛味)の中でやや強い個性に対し、対の関係にある味わいを合わせて個性を緩和させ、中和することで、風味を心地よく残す。
- ④ フレーバーを合わせる
- とても重要で、頻繁に使用される考え方。ワインと料理の双方が持つフレーバーや香りを合わせて一体感を生み出すことで、いずれも長い余韻、風味を楽しめる。
- ⑤ テクスチャーを合わせる
- やわらかいワインにやわらかい料理、暖かい料理に冷やしすぎていないワインなど、温度や食感などでテクスチャーを整えると、マリアージュ効果がさらに上がる。