サプライズに満ちたペアリング
初めて北海道に行った時、ほっけに感動し、ジンギスカンに驚き、イカやホタテの新鮮さに圧倒された。
北海道は美味しい。
豊かな自然に恵まれ、海の幸も山の幸も豊富だ。今日の主役はそんな北海道の郷土料理だ。相手役となるのは世界のワイン。
選んだのは、海外での受賞経験も豊富な、世界が認める日本人ソムリエ、梁世柱、建部洋平の二人だ。
舞台は銀座・十勝屋。北海道の食材を使った料理をメインとするダイニングバー。北海道ワインを中心に、ワインの品揃えも豊富だ。
その十勝屋で開催された、北海道料理に世界のワインを合わせるというイベントに参加した。十勝屋では、こうしたユニークなイベントをよく開催している。メーカーズディナーなどワインイベントも多いので、ワイン好きには嬉しい。
しかし、今回のイベント、ソムリエの梁、建部両氏は、かなり苦労したのではないだろうか。何しろ、同じ国のワインは2度使ってはいけないという無茶な縛りがあった。この日のコースは、デザート含めて9種類の料理が用意されていた。つまり、9か国のワインが準備されていた。
ペアリングでは、テロワールの考え方は重要だ。地元の食材には地元の食材が合うから。食材の産地とよく似た気候風土のテロワールを考えるのは、ソムリエたちの常套手段でもある。
しかし、今回は違うテロワールの相性を考えなければならない。離れた土地をくっつける実験と言ってもいい。実際、梁氏と武部氏が選んだペアリングはサプライズに満ちていた。
たとえば、北海道ではジャガバターに塩辛を添えるのが定番だ。その料理が3品めに登場した。塩辛に合うワインなんてあるのだろうか。ソムリエ泣かせのメニューだと思った。
魚介系には白という選択は、おそらく難しい。生臭さを助長してしまう可能性が高い。かといって赤は塩辛の旨味と喧嘩してしまいそうだ。
何を合わせるのだろうと思っていたら、なるほどオレンジワイン。イタリア・トスカーナのアルトゥーラ アンソナコ。旨味の豊かなオレンジワインだ。
少し甘めに仕上げた塩辛とよく合う。
オレンジワインは、軽めの肉料理に合わせることが多い。魚介系とは珍しいのではないだろうか。しかし、トスカーナのジリオ島という海に囲まれた島で造られたこのオレンジワインは、やはり魚介との相性もいい。参加者のほとんどが、意外なほどの相性の良さに驚いていた。
この次のメニュー、4品めにはさらに驚かされた。メニュー名は昆布水。そう、出汁である。利尻昆布で取った出汁。完成された料理ではない。いわば調味料である。調味料とワインのペアリングなど可能なのだろうか?
合わせたのは、トルコ・カッパドキアのケテン ゲムレク。ゲルヴェリ ウド・ヒルシュ ケテン ゲムレク キュッブ。この赤みを帯びたオレンジワインは出汁の繊細な味に合うのか。
しかし一口飲むと、その不安はすっきりといっていいほどに解消する。タンニンが強くコクのあるワインだが、ボリュームは軽いので、昆布水の旨味を消すことはなく、負けることもなかった。
まさに絶妙のペアリングだ。
ちゃんちゃん焼きにアメリカのサンジョベーゼ、ジンギスカンにジョージアのロゼ、豚丼にオーストラリアのゲベルツトラミネール、そしてデザートのジェラートにシードルと、その後もサプライズは続き、大満足。発見と感動の1日となった。