ラグジュアリー・スポーツ・セダンの2代目
ポルシェの4ドア・サルーン、パナメーラの新型の発表会がさる6月28日(火)、ベルリンで開かれた。2009年の初代誕生から丸7年を経て、この4ドアのポルシェはすっかり認知された。少なくともクルマ好きの間では。なにしろ15万台が生産され、「ラグジュアリー・スポーツ・セダン」という新しいセグメントをつくったとポルシェは自画自賛する。メルセデス、BMW、ジャガー、マゼラーティ、ベントレー等々、贅沢な高性能セダンは数々あったけれど、たしかにそれらはどれも、いわゆるセダンらしいカタチをしたセダンだった。
パナメーラは違う。
もともとのアイディアがどこからきたのかは不明ながら、歴史的に見れば、1984年にフェリー・ポルシェの75歳の誕生日プレゼント用としてワンオフでつくられた928の4ドアがよく知られている。なにしろ創業者に贈られたクルマだ。従業員全員、いや世界中のポルシェファンの頭にあっただろう。
2代目パナメーラは初代の正常進化型といえる。異常進化のポルシェがあったのか? と突っ込まれると言葉につまる(と自分で突っ込んでみました)。ポルシェは初期のコンセプトを大切に守り、ブラッシュアップすることで、よりすぐれたポルシェを生み出してきた。根っこは356であり、その後継たる911である。いっそう911そっくりに生まれ変わった2代目パナメーラは、一目でポルシェであること、パナメーラであることがわかると同時に、新しくなった、という印象を与えることにも成功している。これこそ新型パナメーラの開発者が望んだことだった。
アルミニウム軽量技術を用いたシャシーは完全に新しい。2950㎜のホイールベースは初代より30㎜長くなっている。わずか30㎜のことながら、プロポーションをよりGTカーっぽく見せることに成功している。キモになるのは、前輪の位置だ。真横から見て、前輪とフロント・ドアの開閉ヒンジの縦のラインが離れれば離れるほど、したがってオーバーハングが短くなるほど、フロント・ミドシップ、もしくはフロント・ミドに近い方式で搭載する後輪駆動の高性能スポーツカーであることを視覚的に訴えることができる。
ウィンドウ・グラフィックが911と相似形になったことも利いているだろう。猫背だった先代のリアのルーフラインを改め、よりピュアなクーペらしい軽快さを醸し出している。
パワートレインはとりあえず3種類が用意される。すなわち、4ℓV8ターボと3ℓV6ターボ、それに日本には入ってこないディーゼルである。日本市場に限って申し上げれば、パワートレンはとりあえず2種類。ギアボックスは8速化された新しいPDKが組み合わせられる。
V8ツイン・ターボは最高出力550psと最大トルク770Nmを発揮、旗艦「パナメーラ・ターボ」を0-100km/h3.6秒で加速させ、最高速度306km/hに到達させる。4ドア・サルーンでありながら、新型パナメーラはニュルブルクリンク北コースを、なんと997型GT3と同タイムで駆け抜ける。まさに世界最速のサルーンの1台なのだ。さらにハイブリッドも2種、出番を待っている。
インテリアも当然一新されている。21世紀のラグジュアリー・サルーンにふさわしく、液晶画面を大々的に導入し、コネクティヴィティを重視したという。その一方で、ドライバーの目の前には大型タコメーターが鎮座する。
インターネット時代のこんにち、ポルシェ・ジャパンのサイトを見ると、新型パナメーラに完全に切り替わっている。現時点では昨日発表されたばかりなのに! 3ℓターボのパナメーラ4Sが1591万円、4ℓターボのパナメーラ・ターボが2327万円と日本での価格も発表済みだ。いずれも全輪駆動を採用する。
ベルリンでの発表会の様子を日本にいながらにして眺めることもまたたやすい。ま、録画がネットで見られるだけですけど、新型パナメーラのキャッチコピーはかなりよいのではないでしょうか。
初代パナメーラが登場する以前、4ドアのポルシェ、しかもフロント・エンジンの4人乗りセダンなんて、ポルシェじゃない。クレイジーだ! ︎そんな声が圧倒的だった。少なくとも多くの人が成功を疑っていた。それでもポルシェはパナメーラを発売した。
現ポルシェ社の社長のプレゼンテーション終了後、スクリーンに映像が流れ、ナレーションがこう語りかける。「自分でクルマをつくる? マッドネス! 後ろにエンジンがある? マッドネス! 世界的オイル危機のさなかにターボを出す? マッドネス! (中略)彼らがマッドネスと呼ぶものを、わたしたちは勇気と呼ぶ。勇気が4人乗りのスポーツカーを産んだ。——新型パナメーラ。勇気はすべてを変える」
広告代理店の仕掛けであろうとはいえ、ポルシェの歴史が「勇気」の歴史であったことに異論をはさむ人はいまい。「勇気」こそ世界中の男の子の憧れだ。もちろん大人になってからも。