三方ハッピーの広告戦略
イギリスの豪華ヨット「サンシーカー」の日本の総輸入代理権を取得して、東京・千代田区一番町にある英国大使館で発表会を開いたのは、いまから10年前の2006年のこと。05年のMGローバーの破綻からわずか1年、オートトレーディング(現LUFTホールディングス)は毎月2000万円の返済をしつつの新規事業参入だった。
どうしてカネもないのに、そんなことができたのかといえば、輸入代理権というのは基本的にタダだからだ。わが社が輸入権を獲得したあかつきには、これだけの販売数を実現し、ブランディングにも力を注ぐ。そのための活動と投資について具体的にプレゼンしてオッケーであれば、相手はそれに乗ってくる。自動車にしても、そういう仕組みになっているからカネはかからない。
「サンシーカー(Sunseeker)」は、イギリスの高性能スポーツカー、アストン・マーティンを船にしたような、超高級で超速い、5人乗りのセダンというより2人乗りのクーペみたいな、実用性よりもカッコよさを優先したラグジュアリー・ヨットだ。それこそ007映画で悪役が乗っていそうな・・・。平均価格は5億円ぐらいで、船好きの間の知名度はあったけれど、新艇のインポーターは日本にはまだなかった。直訳すれば、「太陽を手に入れようとする人」という船なのだから、名前からして僕にピッタリである。
僕は船の免許を、じつは40フィート弱の大きな船を買った後、船が来ちゃったので92年頃に取ったのだけど、船の世界を知るにつれ、「サンシーカー」は憧れの的になった。
その憧れの船の輸入権をとると、国内のヨットやボートの専門誌に広告をガンガン出した。わが社には金はなかったけれど、ローバーの在庫が山ほどあった。
つまり広告料金をローバーやMGの新車で支払った。本家がつぶれたとはいえ、イギリス製高級車だから1台提供すると500万円分の出稿ができた。船の会社で広告を出すところは稀だったから、誌面の広告ページは空いている。雑誌社のほうも、一銭も入らないより、おしゃれなイギリスの新車をもらったほうがありがたい。わが社も在庫が数台とはいえ、はけてありがたい。船好きの読者としても、船のアストン・マーティンの広告を見るのはけっしてイヤではないだろうから、三方一両も損をしない。みんなハッピーな戦略だった。
この物々交換広告作戦もあって、見込み顧客を何人か集め、イギリス南岸の港湾都市プールにあるサンシーカーの本社に連れて行った。実際に船を見てもらって、その上で顧客と相談しながら1艇つくりあげる。船というのはスーツでいうビスポークの注文生産が基本で、順調にいけば日本には今頃、素敵なサンシーカーが何艇もあって、それらを保守メインテナンスする会社が立ち上がってはずだ。
いよいよマネーになる、と思っていた矢先、突然、日本で不動産投資をしている日本在住のイギリス人のおにいさんが現れて、われわれの輸入権をもっていってしまった。イギリス人同士で話がトントン拍子に進んだらしい。われわれも顧客を連れて行くところまではいって、日本マーケットの潜在力が伝わっていたから、やり手投資家のイギリス人のおにいさんがファンドを募って潤沢な資金を用意したとなれば、サンシーカー本社としても乗り換えたくなったのは致し方ない。
僕のしくじりは、本社に出向いて、ちゃんと「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」をしていなかったことだ。1艇も売れていなくても、3カ月に一度は本社詣でをして、そうすべきだった。「ほうれんそう」していなかったから、本社と信頼関係が築けなかったのだ。
でも、サンシーカーもしくじった。われわれを切ったせいで、あれから10年たつのに、サンシーカーは日本で1艇も売れていない。ナンバラさんに任せておけばよかったのに・・・。
【しくじり南原社長の金言】
「ほうれんそう」を忘れるな!
この記事を書いた人
- 名古屋〜東京〜沖縄をめまぐるしく移動しながら、いくつものプロジェクトを同時進行させる超人ビジネスマン。「冷徹の虎」の異名をもつ。最終目標は世界制覇だ!
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