
ドゥルト社の社長 パトリック・ジェスタン氏
ドゥルトとは
さて、このヌメロ・アンを産んだドゥルト社は1840年創業で、もともとはボルドーのネゴシアンだ。いまもネゴシアンとして70以上のシャトーと独占契約をしている。さらに、ドゥルトは、1979年にシャトー・ベルグラーヴを買い取って以来、シャトーの運営もやっていて、現在は9つのシャトーを運営している。管理する畑は、なんと500ha。土壌は精緻に分析し、ちいさな区画ごとに、最適な栽培管理方針を選択して、厳しい独自の品質基準で、ブドウを育てているそうだ。醸造にもかかわるし、シャトーの設備にももちろん投資をしている。それから、「リュット・レゾネ」、サステイナブルな農業も積極的におしすすめている。
ヌメロ・アンのようなワインが造れるのは、こんな背景ゆえである。
そしてランチでは、2種類のヌメロ・アンにつづいて、ドゥルトの運営するボルドーのシャトーから、「シャトー・ペイ・ラ・トゥール レゼルヴ・デュ・シャトー 2015」、「シャトー・レイソン 2015」、「シャトー・グラン・バライユ・ラマルゼル・フィジャック 2012」、「シャトー・ラ・ガルド 2012」、「シャトー・ル・ボスク 2012」、「シャトー・ベルグラーヴ 2012」と、次々に6つの赤ワインが登場した。
先陣を切った、シャトー・ペイ・ラ・トゥールはボルドー・スペリウール、シャトー・レイソンはオー・メドックでクリュ・ブルジョワ。いずれも店頭では1本3,000円程度で、メルローが主体。この2種をくらべると、シャトー・ペイ・ラ・トゥール レゼルヴ・デュ・シャトー 2015はアルコールもしっかりと感じ、さっぱりとした味わいと力強さの両方がある。刺激的だ。レイソンのほうが、やや若々しい。ワインだけを楽しみたいときや、サラダにも赤ワインを合わせたいとき、また単に塩の味との相性はレイソンのほうに軍配があがるようにおもう。
ここからは価格が500円刻みであがっていくような感じになり、ワインは徐々にリッチになっていった。
シャトー・グラン・バライユ・ラマルゼル・フィジャックはサンテミリオン。メルロー80%、カベルネ・フラン20%。サンテミリオンの赤ワインの香りはスミレの花に例えられることがあるけれど、このワインにもそういった花の香りがある。濃厚でしっかりとしていながらさわやかさもあって、その懐の広さから、ワインだけを楽しむというよりも、食事とともに楽しむのが向いていそうだ。
シャトー・ラ・ガルドはペサック・レオニャンのシャトー。2012年ヴィンテージは、カベルネ・ソーヴィニヨンとメルローとが大体半々。樽の影響もあるのだろうけれど、熟した果実、リコリスなどとたとえられる味と、ちょっとしたスモーキーさが、まろやかにまざりあっていて、一体感があり、お見事。おいしさを感じる赤ワインだ。
シャトー・ル・ボスク。こちらはサンテステフでクリュ・ブルジョワ。2012年ヴィンテージで、メルロー60%、カベルネ・ソーヴィニヨン40%。香りはスパイシーさがあって、濃厚に熟した果実、樽に由来するであろう、ウッディな香りと味を、特に後味に感じるけれど、酸味がしっかりしているのも印象的。
シャトー・ベルグラーヴはオー・メドックの名門で、価格も5,000円程度になってくることが納得できる高級感がある。やさしく、まろやかで、芳醇である。カベルネ・ソーヴィニヨン65%、メルロー35%というアッサンブラージュだ。
この6種類を味わい、ランチもいよいよ終盤となった。
ボルドーのシャトーを運営してゆくのは、容易なことではない。さまざまな投資、ボルドーのワインとして求められるオーセンティシティと現代性の両立が必要だ。きっと、これらのワインができるまでにも、さまざまな苦労、工夫があったんだろうなぁ。それを知れば、もっとワインは面白くなるにちがいない。料理と一緒に、一日1種類ずつ、ゆっくり楽しみたい……などと、ついつい贅沢な夢をみていると、最初の「ヌメロ・アン ブラン」から数えて9種類目のワインがグラスに注がれた。
もう飲めません、などとはいっていられない。なにせこれは、ドゥルトの頂点、「エサンス・ド・ドゥルト」。その2010年ヴィンテージなのだから。