検証11 数の子
ネタ解説
親を差し置いて高級食材の地位に君臨する、ニシンの卵。一般に流通するのは、味付けや塩蔵のタイプ。残念ながら、ワインと合わせにくい食材の代表格といわれている。その理由は、数の子が多く含む過酸化脂質とワインの鉄分が反応し、生臭さを助長するから。以下、ディープな議論から活路を見いだせるか?
危険度マックス!
ワインとの可能性はあるか?
柳 僕の経験値からして危険度マックスなやつ。数の子ってワインと合わせるとどう転んでも不協和音側に落ちるタブーの代表選手だよね。マッチングとかの問題じゃなくて、異次元での不快感が口中に広がる。この理不尽さ、泣き寝入りする以外に救済案ってあるんでしょうか?
太田 極端だなぁ、何かトラウマでもあるんですか? 確かに数の子の生臭さが増幅したり、ワインの苦みが強調されたりと地雷だらけですからね。困ったときの「寿司ワイン」はどうでしたか?
国分グループ本社
オロヤ
オロヤ 寿司ワイン2015
●生産国/地域:スペイン
●品種:アイレン、マカベオ、モスカテル
●価格:1,100円
【鈴木文彦 推薦コメント】
ネタはもちろん、わさびや醤油、ショウガまで寿司を研究し尽くして開発された、エポックメーキングなワイン。かなりテストを重ねて造られているようなので、期待値大です。家庭でも気軽に試すことができる手ごろな価格であることも重視して選びました。
検証担当:富田葉子
富田 それが、やっぱり看板に偽りなしで凄いんです。まず生臭さが出ない! このワインの甘酸っぱさのタイプが、ガリに近いんです。ならばもう無敵。ガリをつまみながら飲むっていうのも……渋過ぎますか?
鈴木 ネタから酢飯、ショウガ、わさび、醤油などすべての要素と合うように、かなり研究し尽くして開発したそうです。
富田 しかも1,100円って価格も頑張っていますねぇ!
鈴木 そもそも、ワインと合わせた時に数の子がそこまで生臭くなる理由って何でしょう?
太田 数の子に含まれる過酸化脂質とワインの鉄分が反応するからです。数の子って塩をしっかり使うから全体の水分量が減り、過酸化脂質の割合が高くなるんです。鉄棒と手のひらの汗の皮脂が合わさった強烈な感じがわかりやすいかな?
鈴木 それと似た現象が口中で起きるなら、間違いなく大惨事です。
松木 まずは、鉄分が少ないワインを選ぶのがポイントになります。
松木 長期熟成を経たヴィンテージ・シャンパーニュがキャビアとの相性の良さでロシア皇帝に愛されてきたという話は有名ですよね。澱とともに寝かせたシュールリーの甲州も理論上はありだと思いますが、柳さんいかがでしたか?
柳 手放しで絶賛するほどには至らないものの、確かに合います。
太田 甲州はもともと鉄分が少なく棚仕立てで栽培し、地面から離れた位置に果実を付けるので土埃(酸化鉄を含む)が付着しにくいとか、滓が鉄分を吸着して含有量を減少させるなど諸説あります。あとは味わいの点です。シェリーの旨み成分アミノ酸が数の子と同調するから、余韻にさらなるコクと厚みが生まれる。
富田 甲州のシュールリータイプ、シャンパーニュなどは、微生物の自己消化(オートリーゼ)により、旨味成分や還元物質が増加します。この時にできるエチルメルカプタンやジエチルジスルフィドは微量でも強力な消臭効果がある。マンサニーリャも熟成中にフロールの死骸が樽の底へたまり、シュールリー状態になっていますから同様です。
鈴木 なるほど、臭さの先を掘り下げると、こんなに深いのかとただただ、感服。ある意味、マリアージュの最奥と言えると思いました!