オーストラリアの強みは食材が豊富なこと
オーストラリアは移民の国ですから、彼らが作る料理には、当然、自分たちのバックグラウンドが反映されます。イタリア系のシェフなら、自分たちが家庭で食べていたイタリア料理をオーストラリアの食材を使って表現しますし、中国系のシェフは北京ダックをメインで出したりします。それからあちらのシェフたちは躊躇いがない。貪欲に学ぶ姿勢の人たちが多いですね。
シドニー・モーニング・ヘラルドが毎年発行しているレストランガイドでは、レストランをハット数で評価しています。その日曜版にはレストラン批評のコラムがあって、影響力が大きい。それもシェフたちのモチベーションを高めています。
それからトレンドに敏感なのもオーストラリアの料理界の特徴ですね。今年はタイ料理が来てるとメディアが騒ぐと、みんなタイ風の料理をメニューに加え出す。その反対に引くのも早いですよ。例えば、去年流行った茄子を今年も使ってたりしたら、遅れてるって言われてしまいます。一種のファッションなんですね。
オーストラリアの強みは食材が豊かなこと。コペンハーゲンの「Noma」がシドニーに来たのも、新たな食材探しのためですよね。
オーストラリアの食材の中では、やはり牛肉がはずせません。主要な畜産国では唯一BSEが発生しなかった国で、トレーサビリティも発達しています。以前は牧草牛ばかり注目されてましたが、日本向けに出していた穀物牛が、日本食ブームに押される形で国内でも広まるようになりました。赤身には赤身の美味しさがありますが、やはりある程度脂肪があったほうが肉に柔らかみが出ますから。ワギュウもそうですね。以前は、サシの入った肉なんてオーストラリアの人は見向きもしなかったのに、最近は人気です。オージーのワギュウは、脂があってもさっぱりしていて、くどくないんですよ。
ラムもニュージーランドより大きくて、料理人としては使いやすい。肉って大きい塊を焼いたほうが美味しいですよね。それに最近はプレサレのような、潮風にさらされた草を食んで育ったラムが、タスマニアで飼育されています。
海のものではロブスターにウチワエビ。それからオーストラリアの代表的な魚だとバラマンディがあります。皮目がすごく美味しい魚ですね。真鯛、キングフィッシュと呼ばれるヒラマサ、カジキにマグロ、シドニーロックという有名なオイスターもあります。
オーストラリア料理って、あってないようなものですからね。私はニュージーランドに住んでいた時に「ソルト」のルーク・マンガンと出会いました。長年、彼と一緒に仕事をしてきて、日本でオーストラリア料理を作るということは何かと考えたとき、オーストラリアの食材を使いつつ、自分のアイデンティティを皿の中に吹き込むことだと悟りました。
今はまだ、オーストラリアにもこんなに美味しい肉があることを知ってもらいたくて、メインはシンプルに炭火焼きにしていますが、近いうちに自分の個性をより打ち出した料理を作りたいですね。

オコナー パスチャーフェッド アンガスXヘレフォード種 サーロイン/栄養価の高いイネ科植物を飼料として育てた牛。牧草牛なのに穀物牛のような身質。マレーリヴァーのピンクソルト、タスマニアの粒マスタード、イングリッシュマスタード、自家製ベーベキューソース、チュミチュリをお好みで。
鯵の軽いスモーク 茄子の味噌焼き ピンクグレープフルーツ/シェフが日本人のアイデンティティを表現したひと皿。シトラスでマリネした真鯵を炭で焼き、瞬間スモーク。その下に茄子の味噌焼きを敷き、上にピンクグレープフルーツをトッピング。器のふたを取ると、煙が舞い上がるパフォーマンス付き。
パブロバ2016/バレーダンサーのアンナ・パヴロヴァに因み、ニュージーランドで生まれたデザート(オーストラリア発祥説もあり)。ふつうはメレンゲの上に生クリームやフルーツをトッピング。またふつうのメレンゲと異なるのはお酢を加えてさっぱりとした味わいに。福田シェフのパブロバも酸味が利いている。