2016年12月某日、青山のリーデルショップにて、オーストラリアワイン、ペンフォールズとリーデルグラスのコラボ試飲会が行われ、参加してきました。
ペンフォールズの現在のラインアップは、ICON & LUXERY(アイコン&ラグジュアリー)、BIN(ビン)、MAX’S(マックス)、KOONUNGA(クヌンガ)の4種類。この日はその4種類をティスティング。
世界に誇るオーストラリアワインの代名詞ともいえるペンフォールズ。その歴史は1844年、イギリス人医師クリストファー・ローソン博士がアデレード近郊マギルに医療を目的としたワイン造りを始めたことに遡ります。
この日、このセミナーのために来場したペンフォールズのアジア地域アンバサダーを務めるユアン・プロクター氏によりその歴史、そして現在にいたる軌跡を語っていただきました。
ペンフォールズのアジア地域アンバサダーを務めるユアン・プロクター氏によって進行。
ペンフォールズに参画する以前からソムリエとしてレストランに従事、その経験からリーデルグラスにも精通するユアン氏。手腕を買われ、ペンフォールズのワイナリーレストランリオープン時には、すべてのグラスをリーデルで揃え、現在も使用しているそうです。
この日の試飲ワインは4種類。
左からクヌンガ・ヒル オータムリースリング2015、マックス・シャルドネ2015、マックス・シラーズ2014、BIN389 2013
それぞれのワインの魅力にフォーカスするグラスは、リーデル ヴェリタス シリーズを使用します。
予想に反する軽さに、グラスをテーブルから持ちあげる手が拍子抜けしたほど(笑)
最新鋭のテクノロジーを駆使したマシンメイド。リーデル史上最軽量クリスタル製グラス。目に美しく、手に取った感触はとても軽くて繊細。
それでは、さっそく左の白ワインから試飲しましょう。
クヌンガ・ヒル オータム・リースリング 2015。
左)クヌンガ・ヒル オータムリースリング2015 右)マックス・シャルドネ2015
リースリングは、ドイツ人がオーストラリアへ入植の際に持ってきた最初のぶどう品種と言われています。
南オーストラリアのリースリングは、ドライ(辛口)なことが特徴です。豊かな太陽に恵まれることでブドウがよく熟し、それがヨーロッパのものに比べるとアルコール度が若干高くなる理由のひとつです。口当たりに感じる甘みは生産者によって異なることがあり、オーストラリアワインのリースリングにある傾向です。
毎年変わる気候や生産者の個性によって融通が利いている、という点がヨーロッパとの大きな違いと言えるでしょう。実際このクンヌガ・ヒル、オータム・リースリングはフローラルアロマでライトボディ、ドライながら甘みも感じられるタイプです。
ここで、ペンフォールズのラインアップのひとつ、クヌンガ・ヒルについて少し説明しましょう。
ペンフォールズの所有しているバロッサ・ヴァレー内の栽培地から由来した名前であり、ペンフォールズを知る登竜門と言えるシリーズでもあります。初リリースは1976年、当時ビールを好む消費者の嗜好に沿うようなスタイルに仕上げられたそうです。
続くティスティングアイテムも白ワイン、マックス・シャルドネ 2015。
使用されたグラスはヴィオニエ/シャルドネ。樽を使用した白ワインに向いたグラスとされている
このワインに用意されたのはヴィオニエ/シャルドネグラス。ユアン氏、このグラスを使用するにあたり、ちょっと迷ったそうです。
というのも、オーストラリアにおいてシャルドネを使ったワイン造りには、この10年で大きなシフトチェンジが行われ、かつては特徴的であった樽使いや、トロピカルな味わいは控えめになり、より辛口でモダンなつくりとなりつつあります。
実際にティスティングしてみると、香りには、マッチを擦ったようなスモーキーさが。この香りは樽由来であることが一般的ですが、マックス・シャルドネは自然につくった結果だと言います。
80-90年代主流だったバターやオーキーなリッチさ、トロピカルフルーツの特徴は影をひそめ、現在のシャルドネは柑橘系フルーツ、グレープフルーツの皮のような苦味を思わせるニュアンスが特徴に。
また、醸造のみならず、ぶどうの収穫を早めることにより、ボディはライト-ミディアムに、フルーツみはトロピカルから柑橘系へと、より酸が爽やかでキリっとしたものとなりました。
かつてはオイリーなテクスチャーが味わいにしっかりと感じられましたが、現在のマックス・シャルドネのように“酸がキレイなので何杯でも飲みたくなる”味わいへと進化したのです。
こちらでティスティングしたシャルドネのシリーズ、マックスについて説明を加えましょう。
その名前は1948年初代チーフワインメーカーに就任したバロッサ出身マックス・シューバート氏に由来します。
1931年、当時16歳だった青年はペンフォールズに入社、1950年ヨーロッパにわたり、スペインにてシェリー造りを学ぶ間、ヨーロッパのワインに興味を持ち、ボルドーなどへ赴くことで、オーストラリアにおいて長期熟成のワイン造りをすることに意欲を湧かせました。アデレードに戻り、目標としていたボルドーワインにインスパイアされ、1951年につくり上げたワイン、グランジ。
後に1955年ヴィンテージが、“20世紀における最も偉大なワイン12本のひとつ”と称賛され、世界に名を馳せるワインへの礎を築いたのでした。
ティスティングに戻りましょう。
マックス・シラーズ 2014。
目の前にあるふたつのグラスには、同じワインが・・・。左)ニューワールド・シラーズ 右)オールドワールド・シラー
初代チーフワインメーカーのマックスはシラーズがこの地において最も適し、安定して供給できる品種であると確信したといいます。シラーズの特徴である、色調、果実味、タンニンを引き出し、ワインとしたものは長期熟成も期待できる、まさにマックスが思い描いていたものとなったのです。
さあ、テイスティングをしてみましょう、と・・・、目の前にふたつのグラスが並べられていますが、実はこのグラスの中身は同じマックス・シラーズ 2014。
違いはグラスの種類。左)ニューワールド・シラーズ、右)オールドワールド・シラー。
左のニューワールド・シラーズの形状、ボール部分(グラスの円み)は穏やかで、ストレートに長い印象。ティスティングするとピュアなフルーツみが感じられ、味わいも芳醇、豊かな果実み、口当たり好印象。
一方、右のオールドワールド・シラーはボールに丸みを持ち、さらにリム(口にあたる部分)は、ぎゅっと狭まれた形状。このグラスはフランス、ローヌ地方で著名なワイナリー、ギガル社とのワークショップで生まれたという経緯もあり、シラー/シラーズを飲む際に、その特徴を充分に表現してくれるといいます。
凝縮感のある香りは熟成すら感じさせるようで、コーヒー、キャラメルなど複雑な印象を与えるワインに。同じワインとは思えないほどに違うものになっていることに驚きです!
グラスの大きさ、形態が、ワインの持つ特徴を最高に引き出し、エレガントな香りを鼻孔に、舌から喉へもたらしてくれるのです。
最後のワインはBIN389 2013。
ふたたび形状の異なるグラスで、同じワインBIN389をティスティング。左)ニューワールド・シラーズ 右)カベルネ/メルロー
通称ベビー・グランジと言われ、ペンフォールズのハウススタイルが感じられるワインとされています。グランジ発表から8年の後、1959年初リリース。現在ではよく見られるブレンド、カベルネとシラーで造り上げられた初めての試みとして世界へ発信したワインでもあります。
南オーストラリアの果実味には、アメリカの樽があっていると信じ、フランスの樽よりもアメリカの樽を好んで使用していたマックス。グランジはアメリカの新樽100%使用した革新的なワインでした。(BIN389、通称ベビー・グランジは、グランジに使用した1-2年樽を使用しています。)
マックスは、オーストラリアのワインメイキングにて数々のタブーとされていたことを次々に試しました。
-ぶどう品種のブレンド
-新樽100%
-ろ過清澄なし
この“ろ過清澄なし”ということは、オリが(特に長期熟成後)遺るということを意味し、そのためペンフォールズでは、ワインを開かせる効果も得られるよう、ダブルデカンタをすすめています。
この日も、ユアン氏がその妙を披露してくれました。
デキャンティングにはワインを飲んでいただく方々へのプレゼンテーション効果も!
蛇のような形をしていることから、その名もスネーク。
特殊な形状から注ぎ方も独特。トクトクトクトクーーっという音をたて注がれる様は、特別なワインをいただく際のプレゼンテーションに最適! 写真と文章でお伝えしきれないのが残念です。
それでは、カベルネ/メルロー用のグラスにてテイスティングしましょう。
カベルネ55%、シラーズ45%ブレンドであるBIN389。カベルネの特徴であるカシス感が豊かで、オーストラリアワインの特徴と言われるメンソールやユーカリも感じられ、ブラックフルーツ、チャコール様の濃厚な味わいはまさにペンフォールズらしさが表現されています。フィニッシュに酸、余韻長く、素晴らしい仕上がりです。
一方、シラーズブレンドなので、前述のニューワールド・シラーズのグラスでも試しましょう。シラーズの持つ特徴的なフローラルな香り、タンニンの感じ方は、シラーズのグラスだと舌の前の方でタンニンを感じます。カベルネ/メルローグラスの方が、カベルネらしいカシスの香りが楽しめ、さらにタンニンは舌の後ろから喉の方で感じることができました。
このふたつのグラスの形状はほとんど同じですが、グラスの高さ、ワインから口に入るまでの長さが異なるため、舌から喉への流れ方、ワインが舌にあたる部分も違うので、感じ方も違ってくるというのは当然でしょう。
それにしても、「グラスの違いで、ここまで違うものか・・・」と実感することで、驚いたのと同時に、ワインの奥深さはグラスによっても生まれるものかと感慨深いものがありました。
魅力的なワインが余すことなく表現されるこの驚き体験、普段のワインライフに取り入れたい習慣のひとつですね。