有形文化財とモーガンの幸福なペアリング
イギリスの伝統的スポーツカー、モーガン4/4は、1936年に発表された当時とほぼ同じ基本設計のまま、ほぼ同じようにハンド・メイドされている。人件費のかたまりのようなクルマだけれど、日本での価格は消費税込みで781万円と法外に高くはない。
11月某日の朝、筆者はこの4/4を東京・大田区にあるモーガンの輸入元から拝借に行った。
なんてカッコイイんだ!
そう思って近寄って眺めていると、モーガン・カーズ・ジャパンのブランドマネージャーのジャスティン・ガーディナーさんが姿を現した。「ワイン・カントリーに行くんですって? 最高ですよ、きっと。これはもういらないですね」と言って、ジャスティンさん、幌を降ろし始めた。オープンのまま勝沼まで走っていくのは……ちょっとツライかも。と内心思ったけれど、そこは日本男児、あいまいな笑みを浮かべながら、幌のスタッドを一緒に外した。
モーガンは幌を降ろしたオープン状態が正しい姿の「ロードスター」だから、ジャスティンさんが幌を開けたのは正しい。まして、空は晴れわたり、陽射しはポカポカで、空気がちょっとひんやりしているところがまた気持ちイイ、秋の好日である。ホントにサイコーだった。
外見はクラシック・カーそのもので、運転がむずかしげだけれど、エンジンは現代のフォードの1・6リッターで、5速のマニュアル・ギアボックスはマツダ・ロードスター用を使っているから、驚くほど扱いやすい。ステアリングは軽いし、乗り心地もソフトで快適、と表現できる。
フォードの4気筒は112psに過ぎない。けれど、車重がカタログ値で795kg、車検証の値でも830kgと、ものすごく軽い。軽いと動きが軽やかになる。人間だって重いコートを脱ぐと身軽になるでしょう。でまた、フツウのパワーだから、ひとにやさしい感じがする。
高速巡航も写真の状態、サイド・スクリーンを立てていれば、リアからの風の巻き込みはほぼ皆無で、折りたたんだ幌がバタつくこともない。
富士五湖道路に入ると、明瞭に気温が下がり、ちょっぴり寒くなる。それもまた楽しからずや。地形や気候、テロワールが実感できるのだ、モーガンは。
くらむぼんワインは仕込みのさなかで大忙しだった。代表取締役社長で栽培醸造責任者の野沢たかひこさんのご好意で、中庭で写真を撮らせてもらった。最近、甲州市の有形文化財に登録された築130年の母屋とモーガンの組み合わせは、西と東の幸福なペアリングのようにも筆者には思われた。
ワインが単に酔っ払うためのドリンクではないのと同様、自動車もまた単なる移動の道具ではない。モーガンはその代表ともいうべき存在である。なにしろ、80数年もの長き熟成が楽しめる。そして、こんにちもゆっくりと進化し続けているのだ。