なぜ白ワイングラスは赤ワイングラスより小さいのか
5月28日火曜日11:00きっかりにモトックス東京オフィスの会議室に姿を現したジャンシス・ロビンソンは、自身が手がけたワイングラスの開発の経緯をユーモアたっぷりに語った。
「一昨年の夏、この若い男性、リチャード・ブレンドン Richard Brendon、10代に見えますけど、30歳なんです。彼はすでに白磁器やウィスキーグラスのデザインにおいて高く評価されているプロダクト・デザイナーで、次はワイングラスのコレクションをつくりたいと思った。で、それなら私、ジャンシス・ロビンソンに会いに行くべきだ、とみんなに言われたんです。
私自身は自分の名を冠したワイン・グラスをつくりたいとかデザインしたいとか考えたことは一度もありませんでした。
でも、リチャードが会いにきて、彼の作品を知り、そのクオリティの高さに強い印象を受けました。そして、私は自分が43年間、ワインについて書き、多くのワインをテイスティングしてきたなかで、自分の理想とするワイングラスのアイディアが浮かんできたのです。
まず、なぜいつも白ワイングラスは赤ワイングラスより小さいのか、という疑問が浮かびました。白は赤より複雑ではないことはないし、ましてや白は赤より少なく飲みたいわけでもないのに。
多くの生産者、トップ・シャンパーニュやスパークリングワイン、私が好きなシェリー、ポート、スウィートワインの生産者も、狭くて窮屈なグラスではなくて、適切なグラスで試してほしい、みんなそう言っていました。
おそらくリチャードが想像していたのは、さまざまな異なるカタチのグラスだったでしょうけれど、私が提案したのは、たった1種類のグラスでした。
彼は、私の話を聞いてすぐにそのコンセプトを理解し、そうして、このカタチに落ち着いたのです。
ワイン・グラスは先端がすぼまっていなければなりません。それは香りをグラスの中にとどめるためです。液面より口がすぼまっていなければならないのは、グラスのなかでワインをスワールしたときにワインが飛び出ないようにするためです。
もちろん、ワインをたたえるボール状の部分の直径は、それなりのサイズが欲しいところです。でも、広すぎるのも考えものです。テーブルとか食器棚のスペースには限りがあるからです。
同時に、ボール部分は、少し丸みを帯びた素敵な、クラシカルな形状にしたい。
グラスのなかのワインの多い少ないに限らず、グラスのトップの開口部は、アロマをためておけるほど小さいべきですが、平均的な鼻のサイズより小さいべきではありません」
なるほどなぁ。
ワインのことを知らないひとにもわかりやすい説明で、笑いもあって、合点もいく。
ジャンシス・ロビンソンは「ワイン業界の女王」と呼ばれるほど偉大なジャーナリストなのに、権威主義とは無縁で、ものごとをシンプルに、かつステキに考え、それを表現できるだけでなくて、実行できるひとなのだった。彼女はさらにこう続けた。
食器洗浄器に対応している!
「もっとも大事なポイントは、グラスの口に触れる部分、ここが絹のようにものすごく薄く、グラスの感触を感じないような、ワインが直接口に流れ込んでくるような形状でなければならないことです。
この薄いグラスを実現するためには、すべて手吹きで製作する必要がありました。つくってもらったスロベニアの工房では手吹きでも不可能でした。そこで、特別なトレーニングをし、製作チームの人数を増やしました。
私の43年間の経験から、食器洗浄器に対応していることが絶対に“マスト”でした。ワイン・グラスは手で洗うと割れてしまうことが多いからです。さまざまなグラス洗浄器でテストした結果、グラスのステム(足)の部分が割れやすいので、ステムの長さと強度が重要でした。
2017年の秋に、私の考えるパーフェクトな理想のグラス形状を私が絵に書きまして、それをリチャードに渡して、そこからプロトタイプを次々につくって、12月に完璧なワイン・グラスができて、リチャードが修正をちょっと加えました。グラスのステムの底の直径を、ボールの部分の直径とまったく同じにするというもので、グラスの安定性は重要だけれど、ステムの底が大きすぎると、棚の場所をとるからです」
白も赤も、シャンパーニュもシェリーやポート・ワインまで1種類のグラスで飲んじゃう、という革命的なワイン・グラスがかくして完成し、12月にはジャンシス・ロビンソン.comのチームメンバーとテストした。みんなが気に入ってくれて、2018年にインポーター探しに移った。全世界に送り出す前に、2カ月間、ハロッズで限定先行販売し、その間に2つ嬉しいメールをもらった、と笑みを浮かべながら言った。
「ひとつめは、ニューヨークのワイン・インポーターのスカーニック・ワインのマイケルからで、最初にこのグラスの話をしたとき、彼はたったひとつの形状のワイン・グラスであらゆるワインを飲むという私のアイディアに懐疑的でした。実際にサンプルを彼に送ったあと、彼はこう書いてきたのです。『アメリカの高名なライターやソムリエ、ワイン・ピープルと、本当にさまざまなワインで試した結果、僕はこのグラスをサクセスフルだと認めざるを得ない。僕の最初のオーダーです。2コンテナ、お願いします』と。
もうひとつは、3歳の頃からの私のおさななじみから届いたものです。彼女はワイン業界のひとではなくて、普通のイギリス人のように毎日ワインを楽しんでいるんですけれど、彼女の息子が彼女の誕生日に私のグラスをいくつかをプレゼントしたのです。彼女は普段、そんなになにかをいうようなひとではないのですけれど、『信じられないわ! あなたのグラスだと、いつものワイン、ピノ・ノワールが見違えるように美味しくなったのよ』と。これは私にとってとっても嬉しいことです」
ジャンシス・ロビンソンは普通のひとにこそ、このグラスを使ってほしい、と言った。
リチャード・ブレンドンはこのワイングラスのステムのないバージョンをつくり、さらにヤングワイン用とオールドワイン用のデキャンタを加えた。オールドワイン用デキャンタとまったく同じデザインで、栓のないバージョンをウォーターカラフェとしたのも彼のアイディアらしい。
ワイングラス以外のジャンシス・ロビンソン グラス・コレクションは、次の4つのアイテムからなる。
大橋健一MWと大越基裕ソムリエも大絶賛!
モトックスが輸入元になったのは、ジャンシス・ロビンソンとは旧知の大橋健一MW(マスター・オブ・ワイン)が選んだからだった。大橋MWは『世界のワイン図鑑 The World Atlas of Wine』で日本のコラムを担当して以来、ジャンシスとは繋がりができていた。
「ジャンシス・ロビンソンは憧れの憧れで、雲の上の遠い存在であったのと同時に、徐々に関係ができてきて、去年の春先にグラスウェアの開発がすんで、イギリス・マーケットでは去年6月に発売するんだけれど、日本でのプロモーションを手伝ってくれないかと言われた。なにかしら応援させていただきたいとは思ったけれど、自分はソムリエではないし、果たしてMWがグラスのマーケティングだったり、ソムリエを前に説明しきれるか、と考えていた。
その直後にロンドンに行く機会があり、そのとき、ソムリエの大越(基裕)さんと一緒だった。で、大越さんは自分のお店(ベトナム料理アンディ)で、たった1種類のグラスを使いながら、いろいろ試していたという実績がある。実際に使っているほうが説得力がある。大越さん以上に適任はいない。それで、プロモーションは日本のトップソムリエのひとりである大越さんにお願いすることになった」
大橋MWが考えた末にモトックスを選んだのは、売れるワインを売れるところに売るのではなくて、自分が売りたいと信じたワインを世のなかに広げていこうとする熱意があるからだという。
インポーターは大企業ではなくて、ファミリー企業がいい、とジャンシス・ロビンソン自身も思っていたら、モトックスはピッタリだった。
大橋MWはさらにこう続けた。
「私も大越さんも1年前からジャンシスのワイングラスを使い続けている。大越さんはお店でも使っている。実際にいろんなワインをテイスティングして、半年ぐらい経ったときに、本当に優秀なグラスだということで、マーケティングとかお金とかそういうことよりも、使わせていただいて、絶対に勧められる。
一番重要なのはグラスのクオリティだと思います。そこは私と大越さんとで使わせていただいて、これは本当に素晴らしいグラスだと認識させていただいた上で、今日に至った次第です」
そう熱く語った。
大橋MWのあと、プロモーションを担当することになった大越ソムリエが7つのメリットについて語った。それについては、こちらジャンシス・ロビンソン グラスコレクション スペシャルサイトを参照されたい。
ジャンシス・ロビンソンのワイングラスは、手に持ってみると驚くほど軽く、口が当たる部分はものすごく薄い。これで自動洗浄機対応だなんて、信じがたい(どなたか、お試しになったら、WINE WHAT onlineまでご一報いただけますと幸いです)。頑丈さはともかくとして、フツウのワイングラスだと、クチビルとワインとのあいだにガラス板が1枚ある感じだけれど、これはもう、まるでつけてないみたいなフレッシュな感覚が味わえる。
ぜひ一度、お試しください。おそらくワイン界のこれからのスタンダードになる、革命的ワイングラスである!