いきなり、寿司に甘口ワイン
アナイス(以下アナ) ボルドーワインの今を知ってもらうプロモーションのため、初来日しました! 日本人って、みな優しくて、いい国ね。
ダヴィッド(以下ダヴ) アナイスは20代、僕は30代。若者の視点でボルドーワインを新しい方向に牽引してきた。僕は家業のワイナリーでマーケティングを担当しているから、この機会に日本の市場を理解しておきたい。ということで、僕たちは今、巨大な市場のある築地にいまーす。
アナ え、あなたの理解したい日本の市場はワイン消費者のマーケットってことでしょ。築地市場のことじゃなくて。
ダヴ ノン、ノン、アナイス。日本人がどんな食を好むかわかれば、合わせるワインがイメージできる。これこそ立派な市場調査さ。
アナ マリアージュは本当に大切だものね。食とワインのクオリティを余韻まで吟味して、いくつもの味わい要素を重ねて判断する。その仕組みを知ると、食べる喜びと飲む喜びで満たされ、私たちはもっと幸せになれる!
ダヴ じゃあ早速、築地市場の場外で食べ歩きだよ〜〜。
アナ 食べ歩きって、いろんなメニューを少しずつ食べられるの? ボルドーワインと日本食の相性を考察するには最高の方法だわ。
ダヴ 何からいく?
アナ とても日本的なもの。寿司!
ダヴ なら、マグロの寿司にしよう。僕らがフランスで食べるマグロは、普通グリエか缶詰だけど。
アナ 生で食べることは少ないなぁ。
ダヴ わさびを添えて、醤油をつけて食べると……マグロ自体にも一種の酸味があるんだね。青く苦いわさびのアタックと醤油の塩気が、魚のおいしさを引き立てる。噛み応えのある魚に、ふわっとした寿司飯の対比も興味深いな。これは、僕の造るソーテルヌの出番な気がする。
アナ いきなり、寿司に甘口ワイン?
ダヴ フランス人にとってもこのマリアージュが一般的でないのはわかってるよ。
アナ ボルドーにはバルザック、ルーピアックなど甘口ワインの産地がいくつもあるでしょう。なかでもソーテルヌに限定する理由を教えて。
ダヴ パワフルなマグロの脂身に醤油のコク、わさびの風味が合わさり、複雑味が増す。美しい酸と豊満な甘さで奥行きがあるソーテルヌだからこそ、きちんとバランスが取れるんだ。
アナ ふむふむ。
ダヴ ソーテルヌならフォアグラやロックフォール・チーズと考えがちだけど、そんな高級食材でなく、もっとカジュアルにも楽しめる。長期熟成させず、造ってから5年以内に抜栓してフレッシュなスタイルを楽しむソーテルヌも最近は増えてきたし。
アナ マグロ以外の寿司でも、わさびで複雑味を持たせればソーテルヌに合うものかしら。
ダヴ もちろん。薬味やスパイスの使用は強くオススメするね。わさびの代わりに生姜や胡椒でもいい。スパイスってのは、料理の付加価値を高めるために存在している。ただし、使いすぎには要注意。
シャトー・ラピネス(AOC ソーテルヌ)
寝かさず早めに開けて飲んでも、完成度が高くて喉越し良好な甘口白。いつまでも飲み続けたくなる。「単体の刺身でなく、酢飯、わさび、小人のハーモニーがあるマグロ寿司が、複雑でクセになる甘口ワインにフィット」(ダヴィッドさん)