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スティングがワインを造る理由

イルパラジオ|IL Palagio

写真/Komatsu Yuji

だまされた?

アメリカのワイン雑誌「スペクテーター」において、イタリアトップ100に選ばれた赤ワイン、「Sister Moon(シスター・ムーン
)」。このワインの名前がミュージシャン Sting(スティング)の曲名とおなじなのは、このワインが生み出されたトスカーナのワイナリー「イル・パラジオ(IL Palagio)」が、スティングの所有するワイナリーだからだ。

オーガニックや、ビオディナミ農法を取り入れているという、「イル・パラジオ」。実は1500年代中盤から知られる農園の名で、所有者を変えながらも歴代の領主のもと、農業をつづけ、19世紀にはワインのみならず、オリーブオイル、小麦、とうもろこし、桃、アプリコット、チェリーなどを生産していたという。この地方は、「フィレンツェの納屋」とも呼ばれるほど、ゆたかな農業生産力を誇っていたそうだ。

それがどうしてスティングの手に? スティングはその経緯を、「ちょっとおもしろい話なんだ」と笑う。

いまから約20年前(1999年)、スティングと彼の妻トュルーディ・スタイラーがはじめてみたイル・パラジオは、すさんでいた。イル・パラジオを所有する貴族は、イル・パラジオを売りたがっていた。広さ350ヘクタール。敷地内にはうつくしい湖がいくつかあった。スティングはその湖を気に入った。そして、「ここのワインだ」といって出されたワインが、うまかった。

それでスティングはイル・パラジオの購入を決めた。

ところが、スティングのイル・パラジオ購入から2年後。イル・パラジオの醸造家 パオロ・カルチョルニャが生み出したワインは、うまくなかった。「なぜだ。2年前のあのときのワインはあんなにおいしかったじゃないか」スティングがパオロにそう問うと、「そのワインは、イル・パラジオのワインじゃなかったんだ。今回、あなたが飲んだものが正真正銘のイル・パラジオのワインだ」とパオロはこたえた。

スティングの闘志に火がついた。

かまうものか

スティングはカリフォルニアに向かった。つてをたよって、ビオディナミのブドウ栽培コンサルタント アラン・ヨークに会い、指導を願った。イル・パラジオは広大な農地だ。しかも、荒れすさんでいる。産物はブドウだけではない。ブドウの樹だって植えなおさなくてはならない。大掛かりな作業になる。そう、アランが警告すると、スティングは「かまうものか」。

スティングによるイル・パラジオの立て直しは、ブドウ農園以外の農園、そして建物にもおよんだ。建物は歴史に敬意をはらい、農園は自然に敬意をはらい、化学的なものは使わず、根気を要する作業がつづいた。最初の10年、スティングはイル・パラジオに、家族とともに住んでいた。だからイル・パラジオにはスタジオがあって、スティングはいまでもここでレコーディングをするし、セラーでギターを練習することもある。

いまは、ずっと住んでいるわけではないけれど、それでも毎年、近所の人を招いてのコンサートは欠かしていないそうだ。スティングによると、「近所付き合いは大切」らしい。

絶品のオリーブオイルやはちみつ、野菜、くだもの、そして、ワインが、イル・パラジオから生み出されるようになった。イル・パラジオにかつての美しさと生命がもどった。

イル・パラジオ|IL Palagio

音楽はスピリッツ、ワインはミステリー

スティングにとって、ワインとは、シグニチャーだという。土地のシグニチャーだ。音楽でいえば、声といえるとも。スティングにしか歌えない歌があるように、イル・パラジオでしか造れないワインがある。ただし「音楽はスピリチュアル、物語はミステリアス。ワインは物語に似ている。ワインも物語も発展していくんだ」とも。

スティングのワインづくりはこれからも発展していくにちがいない。

スティングとイル・パラジオ|Sting and IL Palagio

写真/Komatsu Yuji

イル・パラジオIL Palagio

イル・パラジオのワインたち。左から、Beppe Rosato(ベッペ・ロサート ロゼ)、Message In A Bottle Bianco(メッセージ・イン・ア・ボトル 白)、Message In A Bottle(メッセージ・イン・ア・ボトル 赤)、When We Dance(ウェン・ウィ・ダンス 赤)、Casino delle Vie(カジノ・デッレ・ヴィ 赤)、Sister Moon(シスター・ムーン 赤)。写真のボトルにはいずれも、この日スティングが書いたサインが入っている

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