ブルジョワの畑
こんにち、日本では、ブルジョワとかブルジョワジーという言葉がつかわれることもすくなくなったけれど、ブルジョワというのは、もともとは、農地で働く農民ではなく、地主や領主といった貴族でもない、街で商売を営む人たちをさした。日本風にいうなら士農工商の工商にあたるのがブルジョワだ。
12世紀、まだイギリス領だったむかしから、海路の便がよく、品物は陸路で国内にとどけるより、船にのせて国外にとどけるほうが楽、という貿易都市ボルドーでは、15世紀にはブルジョワが貿易で富を築いて、地元の上質なブドウ畑の所有者となることがあって、そういうブドウ畑をブルジョワのブドウ畑、つまり「クリュ・ブルジョワ」と呼んだのが、現在までつづく、「クリュ・ブルジョワ」の原点。
以来、フランス革命を筆頭に、激動の歴史のなかで、影響力をもちつづけたボルドーのワイナリー集団「クリュ・ブルジョワ」だけれど、品質の保証としての機能はいささか混乱していた。これが現在の公的な品質保証となったのは、2009年に「クリュ・ブルジョワ・デュ・メドック」認定制度がフランスで公的に承認されて以来のことだ。
この承認にもとづき、2008年ヴィンテージを対象として2010年から「公式セレクション」をスタートした「クリュ・ブルジョワ」。以来、毎年9月に「公式セレクション」が発表されつづけ、2016年の今年は、2013年ヴィンテージを対象とした第6回目が発表された。
8アペラシオン 251シャトー 2000万本
「クリュ・ブルジョワ・デュ・メドック」認定2013年ヴィンテージの総生産本数はぴったり2000万本。これはメドック全体の生産量の約26%に相当する。メドック、オー・メドック、リストラック・メドック、ムーリス、マルゴー、サン・ジュリアン、ポイヤック、サン・テステフの8つのAOCの全251シャトーからのワインが、「クリュ・ブルジョワ・デュ・メドック」の審査を通過し、認定を受けた。
「クリュ・ブルジョワ」メンバーは、「クリュ・ブルジョワ」の審査が「世界一厳格」と胸をはる。生産段階での調査から、エキスパート6名によるブラインドでの試飲・採点までをクリアして、QRコードつきの公式ステッカーがボトルに貼付されるのだ。これは、ワイン1本1本ごとにちがう識別番号をもっている。スマートフォン等でQRコードをスキャンすれば、「クリュ・ブルジョワ」公式サイトで、そのワインを生産したシャトーにかんする情報にアクセスできる。
日本への期待
ちなみに、上述の公式サイトは現在、日本語対応をはたしていない。しかし、日本は、ボルドーワインにとっては7番目の市場となるそうだけれど、「クリュ・ブルジョワ」にとっては、アジア最重要市場と目されている。
なぜか。「クリュ・ブルジョワ」のメンバーのひとりで、シャトー・カステラ(Chateau Castera)のジャン・ピエール・ダルミュゼ(Jean-Pierre DARMUZEY)氏によると、「クリュ・ブルジョワ」の輸出量全体にしめる日本向け割合がおおい、というのは事実にしても、それだけが理由ではない。日本は文化的に成熟していて、ワインについてもわかっているから、と氏はいう。ワインとのつきあいも長く、価値あるものを価値あるものとして、受け入れてくれるのが日本だ、というのだ。
「わたしは、毎年、小説を書いている、といえるかもしれない。私のワインは、私の小説なんだ。私は私のワインをみて、その年になにがあったかを語ることができる。ヴィンテージごとに、ちがう話があって、私のワインは、毎年、別の作品なんだ。生産国やブドウの品種だけで、ワインを注文するような文化の場所もある。私は、そうではなくて、私のワインの物語をたのしんでくれるであろう人たちに、私のワインをおくりたい。私や、クリュ・ブルジョワの生産者にとって日本が大事なのはそういう理由なんだ」
クリュ・ブルジョワ 公式サイト http://www.crus-bourgeois.com/