栽培農家たちが愛でるのは手間のかかるカリニャン種
ピレネーの山間にあるキュキュニャニャン村は、ワインと城塞観光で成り立っている。
近くには、将来ユネスコ世界遺産に認定されると予想されるケリビュス城やペルペルテューズ城。どちらもキリスト教で異端とされ迫害されたカタリ派に縁ある城である。
ワインツーリズムを主目的とした観光客が訪問し始めたのは、ここ数年。教会もパン屋も1軒ずつしかない小さな村だが、生産者協同組合の施設「カヴォー・ド・キュキュニャン」が、ワインツーリズムの拠点だ。
この施設内で居合わせた栽培農家のミシェル・ルズペキさんに、最近の栽培事情を聞いてみた。
「『もっと収穫時期を遅く』『ロゼ用ブドウを増やせ』など、醸造家の指示は常に厳しい」と苦笑いしながら、「栽培家がコントロールしやすい品種はたくさんある。でも、ローカルなカリニャン種は守りたいね。病気に弱いけど、大昔から残ってきたのはこの地に適しているから。ブドウと人間、生物同士の関係性を畑で感じられる品種なんだ」
続けて、妻のパスカルさんが「栽培農家として、とくにブドウの花が咲く5、6月は感動のシーズン。周囲に野草のエニシダ、スイカズラも咲いている畑の真ん中で、いつも深呼吸するの」
一緒に談話していたミシェル・ラリゴラさんは、「カリニャンは古樹が残されている分、昔の規格のままだから畝幅がせまくて機械が入らないし、歩きづらいのにすべて手作業になる。と言いつつ、好きな品種を挙げるなら、私もカリニャン」
近隣には鉱山跡があり、栽培農家のラリゴラさんは鉱山研究会の会長も務めている。
「鉱山で採掘された鉄が武器になり、金銀は貨幣になり、地域が自立する力となります。ここには自然環境と人がリンクするオリジナリティがあるでしょ。城だけでなくワイン、鉱山もセットで世界遺産にしてほしいですね」