マコネみたいになる?
シャブリはブルゴーニュ地方北部、ヨンヌ県のワイン産地。シャルドネ100パーセントから造られる、クリスピーで生き生きとした白ワインで知られる。
2020年はとても早熟な年で、収穫は8月25日に始まったそうだ。
「30年前ならシャブリで8月収穫など、想像もつきませんでした」とベリコー氏。
フランスの全ワイン産地の中でも北部に位置するシャブリは、通常生育が遅い。しかしながら、地球温暖化の影響によってここ数年8月に収穫が始まる年が増えている。25日開始はシャブリ史上最も早い収穫と言う。
早熟ということは、暑い年だったのかと尋ねると、ベリコー氏は「むしろ乾燥した年」と答えた。6月から8月にかけて降雨量が極端に少なく、それが原因でブドウの成熟にばらつきが生じたと言う。
「したがって、区画ごとに収穫日を調整する必要がありました」
このまま温暖化が進むとやがてシャブリのワインは、ブルゴーニュ地方南部マコネのようなワインになる日が来るのではないかと、まさにマコネ出身のベリ
コー氏に尋ねると、「いいえ、そんなことはありません」と一蹴。「ブドウの樹の適応能力はとても高く、温暖化の中にあっても果汁のバランスを崩すことはありません。フレッシュな酸味というシャブリの特徴は保たれます。決してシャブリのワインがマコネのようなスタイルになることはありません」と笑って答えた。
温暖化によって懸念されるのは、むしろ霜害とベリコー氏は言う。春が温暖だと芽吹きが早まり、霜害のリスクが高まる。シャブリでは2016年と2017年に大きな被害を被った。2020年も霜害を受けた区画があるそうだ。
新型コロナウイルスの感染が広がる中、シャブリではどのように収穫が行われたのか。収穫は戸外での作業のため十分ソーシャルディスタンスをとることは問題なし。その一方、収穫人にはマスク着用が義務付けられ、ハサミはひとり1丁専用とし、貸し借りは禁じたと言う。
4種のシャブリをテイスティング
試飲はまずプティ・シャブリから。他のアペラシオンとの違いは土壌であり、シャブリ以上がキメリジアンの粘土石灰質なのに対し、プティ・シャブリはポートランディアンの石灰質土壌。味わいの違いは複雑さにあり、プティ・シャブリのほうがシンプルとのこと。ヴィンテージは2018年だったが、乾燥した暑い年で、生き生きとした酸味を保ちつつも豊かで包容力のある味わい。
次はシャブリ。キメリジアン土壌はエグゾジラ・ヴィルギュラと呼ばれる古代の牡蠣の化石を含んだ粘土石火質。これがワインに独特のミネラル感を生む。
3番目はシャブリ・プルミエ・クリュ・モンマン。産地を南北に流れるスラン川の左岸に位置する1級畑だ。2017年ヴィンテージで、「バランスのとれた年」とベリコー氏。ただのシャブリと比べ、複雑味とミネラル感がぐっと増す。
最後にシャブリ・グラン・クリュ・ヴァルミュール。シャブリには7つの特級畑がある。2018年ということもあり、凝縮感に富み、肉感的。しかしながらピュアな酸味とミネラルは健在。
シャブリはやはり、最もテロワールを如実に表すワインである。
この日にテイスティングしたワインは左から
プティ・シャブリ2018 ドメーヌ・ビヨー・シモン
ニュイ・サン・ジョルジュの大手メゾン、フェヴレの傘下にある。
シャブリ 2018 クロード・エ・ジャン・ルイ・シュヴァリエ
白い花、白桃のアロマが印象的。シャブリはどんなに暑い年でも、黄色い果実を連想するような風味にはならない。
シャブリ・プルミエ・クリュ・モンマン2017 ドメーヌ・ラロッシュ
ベリコー氏のドメーヌのもの。ラロッシュはこの1級畑に1.5haを所有する。またラロッシュは環境保全型農業の認証HVEのレベル3を取得しているほか、ヴィーガン認証も取得済み。キメリジアン土壌のシャルドネにしばしば見られる火打ち石の香りが感じられた。
シャブリ・グラン・クリュ・ヴァルミュール 2018 ジャン・クロード・エ・ロマン・ベッサン
7つの特級畑はスラン川右岸の南向き斜面に並ぶ。ヴァルミュールは東から3 番目、有名なレ・クロに隣接する。