8メゾンを束ねるG.H.マーテルの本丸
シャンパーニュ「ヴィクトワール」は、日本ではまだ、知る人ぞ知る、という存在だけれど、シャンパーニュの売上で世界6位という大手メゾンだ。
造るのは、ヴィクトワールを含め、8つのシャンパーニュメゾンを傘下に持つG.H.マーテル。これだけの規模をほこりながら家族経営のシャンパーニュ専門会社。ヴィクトワールは、そのオーナー、ラペノー家が1869年から受け継ぐ、G.H.マーテルの原点であり中核。
ヴィクトワールには大手の強みと家族経営の強みの両方が反映されている。
規模の強みが生きるのは、ブドウの入手性。
ヴィクトワールに使われるブドウは、全体で3万4千ヘクタールしかないシャンパーニュ地方の畑のなかの300ヘクタールからやってくる。ラペノー家が所有する200ヘクタールの畑のうちの100ヘクタールと、契約農家の畑の200ヘ
クタール。
豊かなブドウの選択肢は醸造家が思い描くシャンパーニュが安定して造られる、という品質にあらわれる。
ブドウが畑にある段階から、ブドウそれぞれの個性を把握でき、多数のワインから、シャンパーニュを構築するアッサンブラージュの段階でも、ヴィジョンを実現するための選択の自由をもつことができるからだ。
そのヴィジョンは、ラペノー家の4代目にあたる兄弟、ジャン=フランソワとクリストフのふたりが持つ。弟のクリストフは、ヴィクトワールの醸造家だ。
経営者家族がワイン造りに直接かかわることで、時代に左右されない、その家族が受け継いだ世界観をブレずに表現できる。ゆえに、現代の我々の口にあうよう、仕上げられているのは当然として、ヴィクトワールはシャンパーニュの伝統、基本に忠実だ。長年のシャンパーニュ好きなら、ほっとするし、シャンパーニュ入門者ならば、メートル原器となりうるだろう。
ヴィクトワール、英語で言えばヴィクトリーという名前をつけたのは、兄、ジャン=フランソワ。鷹狩を愛する彼は、鷹が勝利のシンボルであることから、自らの作品群に鷹を従えた勝利の女神を描いた。
シャンパーニュの首都、エペルネを本拠地としながら、第二の首都、ランスにも、博物館として現在は公開されている、起元200年にまで遡る世界遺産のセラーを持つのも、我々、日本人からすれば意外ではないだろうか。
もしも、シャンパーニュを訪れる機会があれば、この両方で、ヴィクトワールの試飲もできる。通常ラインナップのほかに、限定品に出会うこともできるかもしれない。
冒頭いったように、世界的に知られながら、シャンパーニュの大消費地、日本であまり知られていないのは、あまり宣伝が好きではない、というラペノー家の控え目な性格によるところもあるらしい。能ある鷹は爪を隠す、というけれど、ヴィクトワールはラペノー家の鷹だ。