シャンパーニュ最大規模のメゾン モエ・エ・シャンドンで15年間も醸造最高責任者の大任を務めるブノワ・ゴエズは、「何よりもチーム。モエ・エ・シャンドンのような巨大な組織では私一人では何もできません。また個人はブレます。チームになることでしっかりします」
「私個人をいえば幸運でしょうか。私はフランスでは珍しい、ワインを造っていない地方の出身です。20歳でモンペリエの高等学校で作物栽培学を学びました」この高等学校というのはフランスのエリート養成専門大学のような機関を指す。「学校でワイン醸造とブドウ栽培を学ぶ友人や教授の影響で、ワインに惹かれました。なぜなら、科学、技術に感性をバランスさせるものだから。また、文化的で社交的なものだと知ったのです」
その後、世界のワイナリーで修行を積んで、南仏で転職を考えていたころ、たまたまワインメーカーを探していた、モエ・エ・シャンドンに1999年、参加。2005年に醸造最高責任者になったのも「たまたま、そこにいたから」だと語る。
「いるべきときにいるべき場所にいることが一つ。それから、勉強だけではダメで、経験を積むこと。旅をして、いろいろな価値観や味を知ること。理屈や情報量だけでいいなら、高度なA Iがもっとよいシャンパーニュを造るかもしれません」
そういうブノワ・ゴエズの時代はテクノロジーの時代だ。入社当時は1日1回、目視で検査していた発酵槽は、いまや密閉され、5秒に一度、各種データを取る。過去から、未来を予想することもできるという。しかしそれは「道具に過ぎない」「たとえば、あなたは視力が1.5だから、という理由で誰かを愛しますか? 飲んで楽しい。まずはそこから。完璧なシャンパーニュがあったとしたら、冷徹でつまらない。魂なくして偉大なシャンパーニュは生まれない。だから、ちょっとしたほころびを私は愛します」