ヴァルドッビアーデレ・プロセッコ・スーペリオーレDOCG
イタリアを代表するスパークリングワイン、プロセッコを生産している丘陵地帯が“文化的な景観”というカテゴリーでユネスコの世界遺産に登録されたのは2019年7月7日のこと。
アンドレオーラ社はその世界遺産の丘陵地帯に畑を持っている。
創業は1984年。丁寧なワインづくりをしている、ということで、ジャパンソルトはアンドレオーラ社から全部で6種類のプロセッコを輸入する。ただし、2種類は本年秋の発売で、今回は「ヴェルヴ」と「ディルポ」の2つのラインの、それぞれ「エクストラドライ」と「ブリュット」、都合4種類が供された。
ヴェルブは「プロセッコ DOC トレヴィーゾ」、ディルポは「プロセッコ スーペリオーレ DOCG」なので、格付けとしては後者のディルポがプロセッコの最上級ということになる。
プロセッコ スーペリオーレDOCGには「リヴェ(Rive)」と「カルティッツェ(Cartizze)」という単一畑名の表記も認められており、アンドレオーラ社にも「リヴェ・セレクション」なる最高級ラインがある。今回は登場しないので、これ以上は触れないけれど、とてもおいしいらしい。
最初の1杯は、「ディルポ ブリュット ヴァルドッビアーデネ プロセッコ スーペリオーレ DOCG」である。アンドレオーラの代表的なワインのひとつで、ガンべロ・ロッソでトレ・ビッキエリという高い評価を得ている。ディルポ(Dirupo)とは、イタリア語で「崖」の意で、DOCGエリアの西、急傾斜のブドウ畑130カ所以上から収穫、ブレンドしてつくられる、という。
早速お料理の説明からまいりましょう。まずは目の前のアンティパスト。リストランテ・ステファノ神楽坂のオーナーシェフ、ファストロ・ステファノさんがこう語った。
「今日は、生ハムと水牛のモッツァレラ。このプロセッコに、生ハムと塩辛さとモッツァレラの柔らかさいモッツァレラの味は合わせるのにバッチリ。
ナスはフリットして、なかにフレッシュトマトとパプリカ。パプリカは火が入っているから甘みが出ている。バジルの香りを入れて夏の雰囲気を出せるようなイメージ。
ナスのソースもあります。ドルチェヴィータ(ジャパンソルトが神楽坂に出しているアンテナショップ)のエキストラバージンオイルを使っています。
イワシのフリットで、クリスピーさを味わってもらおうと。そこにレモンをかけると、プロセッコのグレラのレモンの香りと合わさって、そこもひとつ、面白く、楽しめると思います」
続いて、ワインについて、ジョルジョ・マゼッリスさんは以下のように説明した。
「色は淡い黄色。気泡は注いで数分経っているけれど、まだ続いている。酸と気泡のバランスがすごく取れている。グレラ品種の代表的な味、フルーツの香りがして、青リングの味わいがするということは、飲んでいただければわかると思います」
まさにさわやかな青リンゴである。酸味はあるけれど、ちょっぴり甘みもある。
それから産地について、ジョルジョさんはこう語った。
「私たちのプロセッコがつくられている原産地は今年の七夕に世界遺産に登録されています。景色もそうですが、歴史の長いワイン造りの産地というのも理由になっている。土着のブドウ品種がグレラで、弊社もワインはグレラでつくっています。ブレンドもありますが、それも土着品種を使っています。
世界遺産に登録されたもうひとつの理由はブドウの木の育て方が独特ということがあります。もちろん人間はブドウを植え方を地形によって決める。そうやってブドウを植えたことで、自然の景観が変わる。相互関係が原産地の大事なところです。
面白いことに、世界遺産に登録されたのは海抜350メートル以上のところだけです。いま飲んでいただいたディルポは350メートル以上の場所になります。
弊社の収穫は手摘みです。手摘みの作業になると、ブドウ自体の状況が自分の目で確認できる。それがポイントです。なので、それを心がけています。
産地として、豊かな地形に恵まれています。ヴェネチアは50キロぐらいの距離で、アドリア海の影響があります。アルプス山脈のドロミテの麓にありますので、海と山、ふたつの影響が混ざっているような、独特の地域になります。
土壌の豊かさによって、ミネラル感の多いワインになっています」
プロセッコ DOC トレヴィーゾ
前菜の後、リゾットが出てきた。ワインは、「ヴェルヴ」のエクストラドライ、つまりブリュットよりちょっと甘いほうである。
リゾットにはプロセッコが混ぜてあって、相性よくしてある。アルボーリオ種のお米の甘みとプロセッコの甘みを楽しむという趣向である。
「プロセッコとリゾットはいい組み合わせとして知られている。リゾットをつくる際にプロセッコも少し入れる。
『ヴェルヴ』はDOCのラインナップのひとつで、250〜300メートルで栽培されたブドウを使っている。先ほどのディルポ・ブリュットと比べると、デリケートなニュアンスがこちらにはあって、リゾットとのペアリングとしては一番いい」
とジョルジョさんがコメントした。
次に、パスタとしてチーズ入りのニョッキがサーブされた。ズッキーニのソースに、スモークしただけのカジキマグロが最後に加えられている。
記者はニョッキの食感がたいへん好きでありまして、これのペアリングとして「ディルポ」のエクストラドライがグラスに注がれて運ばれてきた。
最初のディルポがブリュットで、残糖が12g/Lなのに対して、こちらは17g/Lである。ではあるけれど、つい最前の「ヴェルヴ」のエクストラドライが残糖16g/Lで、どちらも甘いことは同じだ。違いは海抜300メートルの崖で育ったか、海抜250メートルのトレヴィーゾという地域の畑で取れたかである。
すいません。ソムリエの舌を持っていない記者にはその違いは正直申し上げて、よくわからないのですけれど、説明書きには次のようにある。
居候3杯目にはそっと出し
という川柳がありますが、アルコール度数11%程度のプロセッコとはいえ、3杯目にはそろそろいい心持ちになってまいりまして、ま、この川柳の意味とは関係ないけど、最後の肉料理にいきましょう。こちらは生ハムを巻いた豚フィレ肉のローストと、「ヴェルヴ」のブリュットである。
豚フィレ肉の下のポレンタ(粗挽きのトウモロコシの粉の粥)にゴルゴンゾーラがチョロッと入っている。「一応、秘密ですけど、そのゴルゴンゾーラに(プロセッコを)合わせる」とシェフのステファノさんは語ったけれど、これまた繊細なお話で、記者としては生ハムの塩っぽさで豚フィレ肉にアクセントをつけていることのほうが印象に残った。あくまで個人の感想です。
ドルチェをいただきつつ、次のような質問をジョルジョさんに投げてみた。それは、イタリアを代表するスパークリングワイン、プロセッコが生まれたのはいつか? 発明したひとの名前は残っているのか? という、ごく初歩的なプロセッコの歴史についてだった。
「シャルマ方式でつくられるプロセッコが出てきたのは1950年以降のことです。その前は、氷を使って温度を下げて、効率的ではない方法でつくられていました。プロセッコ自体は比較的若いワインです。発明した人はわかりません」
わからないけれど、ジョルジュさんはこう続けた。シャルマ方式は、マルティノッティ方式ともいい、シャルマはフランス人で、マルティノッティはイタリア人。じつはこの方式は、マルティノッティが先に発見した、という説もある、と。
よく知られているように、というか、ご存じのかたはご存じのように、プロセッコは、瓶内二次発酵のシャンパーニュ方式ではなくて、密閉タンク方式(別名シャルマ方式)で一挙に行い、しかるのちに瓶詰めする。もちろんシャンパーニュ方式のほうが手間がかかる。それはもうそれぞれの価格にしっかり反映されている。
「その前は、氷を使って温度を下げて」というのは、発酵の途中でタンクから出して氷で冷やし、発酵を停止し、それから瓶詰めする。その際、加糖しない。しなくても、途中で停止した発酵が瓶の中で再び始まる。こうやってつくっていた最古の製造方式を指しているわけだけれど、これをプロセッコ誕生以前にこの地方の人たちが行なっていたのかどうかは聞きそびれた。
だれが飲んでも違いはわかる
ジョルジョさんには調子に乗ってこんな質問もした。
Q 昔は、シャンパーニュとして売っていたのですか?
A だれが飲んでもその違いはわかると思います。
Q 値段以外でプロセッコがシャンパーニュより優れているところはありますか?
A 競争相手ではありません。比べるのは、赤ワインと白ワインを比べるようなものです。
ステファノ・シェフには、帰り際、プロセッコに最初から最後まで料理を合わせてつくるのは珍しいことですか? と質問した。
「ぜんぜん。ヴェネトではいつもやっていました。キッチンでプロセッコ飲みながら、料理してましたから」
あとで、ステファノ神楽坂のホームページを調べたら、シェフのふるさとは、ヴァルドッビアーデネ、プロセッコの原産地だった。
つまり、シャンパーニュがお祝いのお酒だとしたら、プロセッコはイタリアらしく、もっと日常の生活に密着した、気軽に楽しむためのお酒なのである。
じつのところ、記者は、「シャンパーニュです」といわれて出されたら信じちゃったと思う。という疑念から、先のような質問をしたのだった……。
でもって、シャンパーニュよりも懐にやさしくて、シャンパーニュみたいな見た目とスッキリさわやかになるということで、世界的な人気を得ているに違いない。
なお、今回のペアリングディナーに供された4種類のプロセッコは、ジャパンソルトのアンテナショップである「イルグルスト ドルチェ ヴィータ」オンラインショップで先行予約が始まっている。入荷は8月末の予定。
プロセッコについては、WINE-WHAT!?通巻30号で現地取材をしておりますので、ぜひご購読ください。