35歳以下のソムリエコンクール
ボルドー&ボルドー・シュペリュール(BBS)ワイン生産者組合が主催するこのソムリエコンクールは2017年から始まった。参加資格を45歳以下のソムリエとしていたのが特徴だけれど、第3回の今年から「35歳以下」に変更され、若手ソムリエを支援するという当初の目的がよりはっきり打ち出された。準決勝が設けられたのも、今回からだ。
6月11日(火)に予選がフランス大使館で行われ、46名の応募者が筆記とテイスティングなどに挑んだ。このなかから11名のセミファイナリストが選出され、7月5日(金)に同じ敷地内にあるフランス大使公邸で非公開の準決勝に臨んだ。
審査員長の森 覚氏によると、ひとつめの部屋での課題は、4分間で7名のお客さまにクレマン・ド・ボルドーをサービスするというもの。その際、ボトルのスパークリングをつぎきる。テーブルには日本ソムリエ協会の田崎真也会長ほか副会長、専務理事の顔写真が席に置かれており、いわゆるプロトコル(儀礼)を遵守する。早く終わるほど加点になるタイム・トライアルで、速い選手は3分弱でこれを終了したという。
課題その2は、ロゼのボルドークレレを日本に輸入したいと考えているひとに3分間でアドバイスする。
もうひとつの部屋では、料理と白ワインのペアリング問題が出題された。
ソーヴィニヨン・ブラン主体の白ワインと、カベルネ・ソーヴィニヨン主体の赤ワインをブラインドでテイスティングし、いなり寿しにこのふたつのワインのどちらが合うかを4分間でコメントする。
さらに、クイズ形式の画像問題が12問用意されていたという。
以上が同日の午前中のあらましである。午後3時。緑の庭に面した大広間で、森審査委員長が名前と所属する店名を読みあげ、セミファイナリスト11名が壇上に並ぶ。揃ったところで、森審査委員長から、まったくもったいぶることなく、準決勝の成績の第3位から決勝に進む3名が発表された。
3位 吉田雄太(BEIGE Alain Ducasse TOKYO)
2位 野村大智(Gran Hours)
1位 近藤佑哉(銀座レカン)
パワポでプレゼンしてください
このあと、ファイナリスト3名は控え室に移動し、残りの8名のセミファイナリストたちはイスに座って決勝戦を見物する。決勝戦は3位の吉田雄太選手から5つの課題にひとりずつ、イッキに挑む。
課題1はこちらである。
課題1
プレゼンテーション
あなたが所属するホテルまたはレストランでBordeaux & Bordeaux Supérieurワインフェアを開催することになりました。上司またはオーナーに対してどのような内容にするか、具体的にパワーポイントを使用してプレゼンテーションしてください。
言語:日本語
時間:6分
てことは、課題1はあらかじめ出されていた、宿題みたいなものだったことになる。
吉田選手は、2020年のオリンピック・イヤーに、昼と夜の2部制とし、昼の部では試飲主体で銀座界隈の20~30代の女性をターゲットする、と提案。なぜ女性をターゲットにするのかといえば、1988年と2017年の飲酒率を比べると……とデータを用いて論理的なプレゼンを展開した。
実際の決勝戦では、ひとりの選手が5つの課題をそのまま連続して、次々にこなさなければならないわけだけれど、ここでは3選手の印象をまとめて記すと、2位の野村大智選手の勤め先は福岡の結婚式場&レストランで、地元福岡を意識したプレゼンテーションが興味深かった。課題1のプレゼン相手は自分の上司かオーナーなのだから、当たり前といえば当たり前だけれど。
ただ、ものすごく残念なことに、吉田選手も野村選手も、早口すぎてよく聞き取れなかった。単なる見物客の感想ながら、もったいなかった。
その点、近藤佑哉選手は、おそらくそうとう練習したのでしょう、ボルドー&ボルドー・シュペリュールワインは日本ではまだ知られていない。だからこそ可能性がある、ということを歯切れよく語った。
ご参考までに、このほかの課題は次のようなものだった。
課題2
テイスティング
このワインをプロフェッショナルとしてテイスティングしフルコメントをお願いします。
言語:日本語もしくは英語
時間:3分
課題3
今、テイスティングしたワインをケースで購入しようとしている方に対してアドバイスをお願いします。
言語:日本語
時間:2分
課題4
4種類のワインをテイスティングして、フラッシュコメントと共に日本料理のコースメニューを提案してください。順番を変えても問題ありません。
言語:日本語
時間:3分
課題5
赤ワインを飲みたいという6名のお客様にサービスを行ってください。
言語:英語
時間:5分
課題5では、サービスをしているときに、「2015年と2016年は、ともにグレート・ヴィンテージだと聞きました。どう違うのでしょうか?」という、日本語でだって正確に答えるのがむずかしそうな質問がお客さま役から出されたりした。手が止まってしまうと時間切れになったりするので、手を動かしながら、愛想よく返答しなければならない。それも審査員の前で。
審査員長の森 覚氏は、全日本ソムリエコンクール2008年のチャンピオン。審査員の岩田 渉氏は全日本ソムリエコンクール2017年のチャンピオン。井黒卓氏は、本コンクール第1回の、塚元 晃氏は第2回の優勝者である。
選手たちの緊張とプレッシャーたるや、いかばかり……。
一番若いかたは27歳
表彰式は17時40分から始まった。
森審査委員長が次のような総評を語った。
「今年で3回目のボルドー&ボルドー・シュペリュールワイン ソムリエコンクール。ソムリエコンクールを目指すひとにこのような場を設けていただくことは本当にありがたい。
みなさまもお気づきの通り、かなりレベルの高いコンクールになってきている。
35歳以下という年齢制限を設けているが、決勝に残った3名は年齢が上のかたでも32歳、一番若いかたは27歳です。20代からこのようなコンクールの決勝に残る方々がいらっしゃるということで、ソムリエ協会としても嬉しく思っています。
本コンクールと他のコンクールとの大きな違いは、最初のプレゼンテーションだと思います。日々の仕事の中で、パワーポイントを使ったり、上司や社内トレーニングなどで、説明する人も多いと思います。ボルドー&ボルドー・シュペリュールワインをいかに楽しそうに伝えるか。そのなかに具体的な数字やTPOを盛り込んでいただく。
決勝に出られたかたは、それぞれ素晴らしいパワーポイントをつくっていただいのですが、それをいかに伝えるかが重要だと思っています。それはまだまだ改良の余地、進歩の余地がある。
伝える側が楽しそうに、(聞いている側が)ハッピーになるような伝え方をぜひともしていただきたい。世界大会に出ると、海外のかたのほうが伝える力が高いと感じます。
決勝の課題4では和食と合わせる提案をしていただきました。これは、もともと、和食の構成自体を理解されていないかたが多いのかなと思っていたからです。コース設定が理解できていないと美味しそうに聞こえないし、オススメをするにあたって、順番とそれに合わせた料理の内容が、もう少し具体的にわかりやすく伝えられれば、と思いました。
テイスティング、サービスは本当にレベルの高い内容でした。35歳以下のコンクールでこれだけレベルが高いのですから、(優勝を逃したかたは)今年の反省を生かして、来年、頑張っていただければと思います。
もっともっとボルドー&ボルドー・シュペリュールワインは楽しむ余地がある。もっともっと研鑽を積んで、またここでお会いできれば、と思います」
いよいよ、結果発表である。3名のファイナリストが壇上に並ぶ。BBSワイン生産者代表、特別審査委員のエミリー・ドゥアンスさんが優勝者名を読み上げる。
「ゆーや・こんどう」
ということで、決勝の結果は準決勝の成績順となった。優勝した近藤佑哉氏は1年間、ボルドー&ボルドー・シュペリュールのアンバサダーとして日本での活動が期待される。
その近藤選手と準優勝の野村大智選手には副賞としてボルドー研修旅行が贈られる。
U35の若手ソムリエのみなさん、チャンスはあなたにもある! がんばってください。