次ステージの品種に果敢なる挑戦
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大越
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こちらに伺うのは、今回が初めて。ただ、ご縁はありまして、まだソムリエとして働いていた2009年に、実は「グランポレール 北海道余市ピノ・ノワール07」を飲んでいます。
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工藤
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それは、試験的にリリースした初年度のピノ・ノワールですね。現行ヴィンテージは13年です。
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大越
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飲み比べますと、07年より13年の方が抽出の度合いは優しく、香りも複雑な印象を持ちました。醸造時、除梗は100%されているのですか?
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工藤
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はい、私たちはブドウのピュアな味わいを出すことをこだわりにしています。なので、梗は取り除き、果実も軽く砕く程度。皮に傷がつくくらい、です。でも、07年と作りは変えていないから、変化があったとすれば樹齢によるものかも。樹が熟して、持っている力が強くなってきたと思われます。
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大越
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樹齢でしたか。同じエスプリで造り続けて頂くからこそ、そう言った違いも感じ取れるんですね。産地の違い、方向性の違いなどもよく把握できるという一例です。とはいえ、基本的には常に新しい造りに挑戦されているとか?
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工藤
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はい。除梗すべきかホールパンチがいいのか、プレスはどの程度か、醸しの期間はどれくらいか、樽メーカーや酵母を変えるべきか、などなど。ピノ・ノワールについては冷涼な北海道余市のほか、長野でも面白いものができるのでは、と試しているところです。
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大越
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世界的に見ますと、普通はまずシャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンから着手しますよね。
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工藤
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日本各地で試験栽培をしていますと、シャルドネ、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨンはどこに植えてもそれなりのものになります。ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブラン、シラーはその次に来る品種。どこに植えてもいい結果が出る品種ではありませんので。
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大越
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長野県池田町の自社畑でソーヴィニヨン・ブランとシラーを栽培されていますが、どうしてこの2品種に挑戦を?
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工藤
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ただ自分がやりたかったから……あ、いえ、日本ワインの可能性を広げるための模索です(笑)。
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大越
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土地ごとのポテンシャルを知った上で、次に何ができるか、と模索の時期に入ったと。
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工藤
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そうですそうです、対外的にはそういう理由で(笑)。
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大越
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でも実際、柑橘の香りとともに洋梨のような熟したニュアンスが出る、興味深いソーヴィニヨン・ブランが完成しています。こちらの樹齢は?
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工藤
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2011年、2012年に植えたので、樹齢は2〜3年。畑の標高は580mで、小石が多く水はけの良い斜面です。涼しいので、もっとグラッシーになるかと予想していたんですけど、意外と違うスタイルになりました。
産地と品種のセレクトに先見の明あり
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大越
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長野にあるもうひとつの自社畑「古里ぶどう園」では、王道のシャルドネとカベルネ・ソーヴィニヨン、メルローを植えていらっしゃるわけですが。実際にワインを試飲してみますと、白も赤も凝縮感があります。
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工藤
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安曇野池田より長野古里のほうが標高は200m以上低く、シャルドネは厚みや甘さがよく出ます。カベルネ・ソーヴィニヨンは、比較的タンニンの柔らかいワインに仕上がります。がっしり濃厚な赤を求めるお客様には向きませんが、これはこれで長野らしいのかと。
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大越
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工藤さんにとって、いいワインだと判断するポイントは主にどこでしょう?
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工藤
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香り、ですね。ワインを寝かせるとすぐ消えてしまうチオール系の香りばかりを追い求めてはいないのですが。
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大越
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ということは、どちらかといえば早飲みよりも熟成タイプのワインを目指していらっしゃるのですね。「山梨 甲州樽発酵」からは、香りと味の強さがしっかりと感じ取れました。またフレッシュ感と果実のボリューム感とを併せ持ち、味に起伏があります。
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工藤
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前述しましたソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネも同様ですが、この甲州も収穫期を2回に分けています。1回目は香りと酸を残したブドウ、2回目は厚みのある味わいのブドウ。それをブレンドするのです。
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大越
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ああ、だからどれも味にコントラストが。いいですね! とくに甲州はどうしてもまとまりのありすぎるワインが多くて、最初にスパークリングやニュートラルな甲州を飲んだ後、このタイプの甲州なら「2杯目の甲州」としてもおいしく飲める。重宝します。
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工藤
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今は地球温暖化が叫ばれ、山梨よりも冷涼な長野のほうがワイン産地として評価されがち。しかし、その地に適した品種をちゃんと選べばいいだけです。グランポレールの場合、山梨では甲州よ甲斐ノワールにフォーカスしています。スタイルも手法も確立されているわけではないので、やれる余地があるし、まだまだやれる。山梨よりさらに温暖な岡山なら、マスカット・オブ・アレキサンドリアやマスカット・ベーリーAを。酸が穏やかな代わりに、果実味はとても豊かなブドウが収穫できます。
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大越
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シラーは、冷涼な安曇野池田で栽培されていらっしゃいますね。ヨーロッパでのシラーは暖かい産地の品種とされがちですが、本当は酸があってこそのシラー。チリの意欲的な生産者は、カサブランカ・ヴァレーなどの冷涼な産地を選び、ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブラン、シラーを同じ場所で栽培しているんですよ。
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工藤
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それは、うちの安曇野の畑と一緒。
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大越
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酸の保持への考え方も含め、工藤さんたちの哲学はいい意味でヨーロッパ的でないのかも。涼しいエリアのシラー、これからがますます楽しみです。
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工藤
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安曇野池田の収量は、2019年には現状の倍に増える予定。今はまだ余裕のある熟成セラーも、その頃には多くの樽で埋まるはず。期待していてください。
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大越
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ここ数年、世界のトレンドとして、イタリアやギリシャの地場品種が注目されています。地場品種の少ないエリアでは、国際品種で国の個性<をどう出すかが重要。近年は新産地として話題のスポットも増えています。例えば、ソーヴィニヨン・ブランでは、フランスのロワール地方やボルドー地方、ニュージーランドのマールボロ地方などが名産地として挙げられますが、チリや南アフリカ、北イタリア、南オーストラリアなども注目の産地です……となると今後は日本も。今日のワイナリー訪問で、そんな可能性が見えてきました。
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工藤
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世界で評価されるようになると嬉しいですね。
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大越
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今回、以前に飲んだ07年と13年のピノ・ノワールとを比較してその変化に驚いたわけですが、こうなったら数年後にまた飲み比べに伺わねば! 本日はありがとうございました。
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大越基裕さん
ワインテイスター
ディヴァン・クロ代表取締役 -
工藤雅義さん
サッポロビール(株) 製造部
グランポレール勝沼ワイナリー 工場長
グランポレールを飲みに行こう
グランポレール安曇野池田・長野古里ぶどう園のワインを味わえる、テイスティング&マリアージュイベントを開催します。
対談をしていただいた大越さんと工藤工場長によるトークイベントもあります。記事に書けなかった裏話やエピソードなども聞けるかも。どうぞ、お誘い合わせの上ご参加ください。
イベントの詳細及びお申込みは、こちら
http://www.sp-mall.jp/shop/e/eS4gpti/