ブルゴーニュのドメーヌのように
ドメーヌ アンリ・ルパートのワインは傑出している。
ルクセンブルクのワイナリーとしては大きいけれど、そうはいっても合計19haのブドウ畑で、ピノを中心とした品種を育てる栽培醸造家アンリ・ルパートさんは、あたかもブルゴーニュのドメーヌのように、栽培から醸造までを徹底的に管理し、ひたすらにテロワールに向き合った高品質ワインをうみだすための仕事をしている。
「残念ながら、ここの土壌にはシスト(石灰質)がない。しかしそれもルクセンブルクのテロワールの個性だ」と語り、土壌、畑の向きなどに応じて、栽培区画を細かくわけ、ときに20hl/ha代、あるいはそれ以下になるほどに、収量を制限して、凝縮し、熟したブドウを収穫する。
畑はほぼ、フランスとの国境のシェンゲン地区にある。醸造所の目の前の、急峻な斜面においても、丘の上と下とでは違うテロワールだとして、育てるブドウも、ピノ・ノワール、ピノ・グリ、ピノ・ブランと変えている。収穫されたブドウは、大切にプレスしたあとに、直下に位置するタンクに入って醸造。熟成はタンクと樽を使い分ける。
「2017年は、冷涼で好きなヴィンテージです」と、出してくれた、まだできたばかりのピノ・グリは、雑味のない澄み切った酸に、洋梨のような香りがある。
これは高級なワインだ、と一口飲んで感じる。
また、限定的にしか売られていないそうなのだけれど、ルクセンブルクワインの常識を覆す、リースリングとオーセロワとのアッサンブラージュというワインも印象的だった。それは、軽やかなルクセンブルクのワインのなかでは、骨格のしっかりとしたワインで、レモンとトロピカルフルーツが組み合わさったような味わい。「ソーヴィニヨン・ブランっぽくないですか?」とアンリさんにいわれて、なるほど。
ピノ・ノワールも素晴らしくエレガントだ。果実はおそらくとても熟しているのだろう。それでも重厚にはならないのは、ルクセンブルクという冷涼な土地ならではの個性だとおもわれる。
アンリさんは家系でいえば、8世代目のブドウ栽培家にあたるという。
とはいえ「父の時代は畑は3ha程度。第二次世界大戦までは、ルクセンブルクでは3haは巨大といえるほどに、小さな栽培農家だらけだったんです。そして共同の醸造所でワインを造っていました」。
現在のアンリ・ルパートは、つまり、アンリさんが一代にて築き上げたもの。世界的にみれば、ファインワイン造り方とは、まさにアンリさんがしているような仕事を指す。
しかし、ルクセンブルクワインのごく一部しか知らない筆者だけれど、この地においてその姿勢は、際立って孤高にして求道的に見える。