責任 × 道楽
社長の反骨、社員の誇り。老舗だからこそ育める塩尻の未来。
ワインとジュース
「塩尻にきちんとしたものを残したい。ワインもそう。自分の会社のことだけじゃないんです。当社のようなこの地の老舗が支えなきゃいけないと思っています」
と力強く語るのはアルプス社長の矢ケ崎学さん。1927年創業。ワインとジュースの両輪で、本社、工場、営業所などあわせて約140人の社員を擁する全国的にも規模の大きいワインメイカーだ。
その規模感をネガティブに捉える日本ワインのマニアもいるかもしれないが、そこで興味を失ってしまうのは本当に、本当にもったいない(そもそも、そんなことでなにかを決め付けること自体に疑問なのだが……)。
矢ケ崎さんもどこかでこういう視線に対して残念な思いがあるようだ。
「うちのワインはきれいすぎるというかクリーンすぎるとか言われることもあるんです。それは徹底した品質管理の結果なんですけどね。でも、それがつまらなく感じられるんですかね(苦笑)」
残念ながら現在の日本ワインの世界で、行き過ぎたクラフト原理主義みたいたものがあるようにも感じる。自然派で、少量で。
でもそれだけでワイン文化は成立するのだろうか?
そもそもそこでいう自然派の定義ってなんだろう?
少量生産で、産業として成立し、その地域を支え、その土地で永続的にワイン造りができる環境を育むことができるのだろうか。
ある一定の規模があるからこそ、日本の厳格な食品製造の基準にのっとった品質管理のもとで、安定的にブドウを栽培し、ワインを造り、送り出せる。そして、その利益をまた地元に還元することもできる。
アルプスをはじめとする老舗、大手はその役割を体現している。それは今後花開くであろうワインメイカーをサポートしていくことにもつながる。 そこが理解されていないのは残念だが、矢ケ崎さんは、そんな僕の思いを、軽やかな笑顔で受けとめて言う。
「だからこういう面白いワインを造りたくなるんですよ」
『ミュゼ・ド・ヴァン』シリーズ
差し出されたのは、長野そして塩尻のテロワールを追求、表現した『ミュゼ・ド・ヴァン』シリーズ。屋台骨を支える業務用や機能性ワインがあって、その一方で徹底的に土地と造りにこだわったワインに挑む。
「ビジネスとしては全社の中では小さいものだけれど、やはり、皆さんに美味しいって言ってもらえるワインを造る、それは私たちにとっても必要ですから」
道楽ですよ、と笑う矢ケ崎さんだが、反骨心、でも、それを飄々とやっているように見せる遊び心がいい。そして塩尻への愛がめいっぱい注がれているシリーズだということは本気の生産設備を見ても、畑を歩いても、味わってみても、伝わってくる。
アルプスでワインとして使われるブドウは多彩。トライ&エラーを含めて17~18種を使用している。
大きく分けるとメルローやシャルドネ、カベルネ・フラン、シラーといった欧州品種、コンコードやナイアガラといった塩尻で古くから親しまれてきたアメリカ系品種。そして国産品種のブラッククイーンという3分野だ。
「コンコード、ナイアガラなどは生産組合を通して、そのほかは農業法人を設立。桔梗ヶ原を中心に耕作放棄地を取得して自社で手掛けています」とのことだが、ここにも、伝統を地域と共に一緒に守り、その上で新たな挑戦で地域を盛り上げていくという狙いが見える。
「塩尻のワインツーリズムについても、本気で取り組んでいきます。この地に来ていただいて感じられることもあるでしょう。そのためにも我々のような会社が支えていかなければいけないんです」
責任感、だからこその「道楽」。
なんて粋なことをしてくれるんだ。
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