
写真:篠原宏明 Flower styling by Tsuyoshi Hirasawa
歳月への敬意
60年もの歳月を生きてきた。その人生ってどんなものだろう?
そう考えただけで、あなたの胸には人生の先輩への敬意が生まれる。自分もこれから歩むであろう、想像もつかない時間を彼らは生きてきた。還暦を迎えた父や、あるいは父と同年代の先輩への贈り物は歳月への敬意を基準にして選びたい。
そこで、古木から生まれたワインというアイディアが浮かぶ。樹齢60年を数えるブドウの木は、当たり前だが、先輩たちと同じ時間を過ごしてきている。そんな木は世界を見わたしてもそう多くはない。
ワインを生む木はおおむね120年生きる。20年もすると成長のピークを迎え、少しずつ実る果実を減らしていく。それは決して衰えたわけではない。大地に根をより深く、より広くはり、それぞれの果実が太陽の恵みをより多く浴びることで、エネルギーを果実の中でじっくり育む。生み出す量は減っても質はどんどん高まっていくのだ。
人間も一緒ではないだろうか。
若いころの体力や向こう見ずは年を重ねることでなくなっていくが、経験を積んだ者だけにしか生み出せない安定感や円熟味が加わってくる。
その思いをこめて選んだのが「オールド・ヴァイン 1958 クリオージャ 2015」だ。
名醸造地として近年注目されているアルゼンチンのカルチャキ・ヴァレー、海抜1,700~2,000mを超えるテロワールに本拠地を構える「ボデガ・エル・エステコ」が大切に丹念に育てた樹齢60年の木から生まれたワインである。
雨が少なく健やかな風がそよぐなか、存分に太陽と大地のエネルギーを吸収したクリオージャ種のブドウを丁寧な手作業により収穫、選定する。それをタマゴ型のセメントタンクにて発酵、11カ月澱と共に熟成し無濾過のまま瓶詰めされる。古木からブドウに伝わる恵みをそのまま存分に味わえる、それがこのワインの魅力だ。
贈るだけではなく、父、あるいは還暦を迎えた贈り相手と共にグラスを傾ける機会をつくりたい。少し冷やしめ、11℃ぐらいから始めよう。
抜栓し、グラスに注ぐ。初めに感じられるフレッシュでチャーミングなアロマと丸みのある飲み口を楽しんだら、しばしご歓談。その間にワインに少しずつ、テロワールの恵みと古樹の複雑さが現れてくる。渋みや苦みは過剰ではなく、しなやかで柔らかい。スパイスやハーブの健やかさを感じられれば、じわじわと鮮やかで瑞々しい酸が顔を出す頃合いだ。
重厚さよりもむしろ甘やかさや新鮮さが現れる不思議も味わえる。最初はチェリーの若々しさ、次第にストロベリーの深い甘酸っぱさ。思わずビートルズの永遠の名曲、1967年にリリースされた「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」が、あの頃のサウンドのまま、しかし、今のポール・マッカートニーの歌声とブレンドされて聞こえてくる。
歌詞になぞらえれば、人生はままならないし、手放したくなる現実もある。けれどもその中で賢明に、なにかを守りながら生きてきた。だからこれからの人生、もっと明るく、楽しく。そう、人生の先輩に贈る言葉は「おつかれさま」ではなく、「これからこそあなたの輝く人生」。
還暦のクリオージャと72歳のマルベック
写真:Goto Shikano
オールド・ヴァイン 1958 クリオージャ 2015(左)と同1946 マルベック 2015(右)
ともにアルゼンチン/カルチャキ・ヴァレー
希望小売価格:2,500円(税別)
「亀の甲より年の功」であることは「ボデガ・エル・エステコ」のもうひとつのオールド・ヴァイン「オールド・ヴァイン 1946 マルベック 2015」が証明する。
こちらは同じ場所に370本だけ残されたマルベック種の72歳の古木だ。収穫や醸造、熟成は「オールド・ヴァイン 1958 クリオージャ 2015」と同様に行われる。「1958」よりひとまわり古い分、少し濃厚さがあるが、その濃厚さを構成するのはベリー系のフレッシュな果実やコンフィチュールで、酸と甘みのバランスがいい。
渋みや苦みはシルキーでまろやか。多彩な要素が明るい表情の中に溶け込んで会話を邪魔しない。
薄切りにした鴨肉に緑を添えて、きれいな岩塩をふりかけた一皿があれば、尊敬すべき先輩に、「あのときは、ホントのところどうだったんですかか」なんて、聞きたくても聞けなかった質問を投げかけられるかもしれない。
米寿のバロッサ・シラーズ
写真:Goto Shikano
ラングメイル オルファンバンク シラーズ
オーストラリア/バロッサ・ヴァレー
希望小売価格:7,500円(税別)
長寿大国ニッポン。さらに樹齢をあげてみよう。
今度は太平洋を越えてオーストラリア、バロッサ・ヴァレー。「ラングメイル オルファンバンク シラーズ」。樹齢は平均88歳、米寿というおめでたさ。フレンチオークで2年熟成されてからリリースされるが、ジューシーなラズベリーやプラムの風味が依然として広がる。ダークチョコレートの苦みや杉の清涼、ホワイトペッパーのアクセントは奔放ではなく、スマートなエレガンスさのなかで美しくまとまっている。さながら仕立てのよいスーツを着こなした紳士のごとく。
人生100年時代。
古木から生まれるワインが教えてくれるのは、年齢を重ねても枯れることなく、フレッシュさを保ち続けるものがあるというシンプルな事実である。先を歩く人たちに、これまでの感謝とこれからへのエールを込めて贈りたい。
【問い合わせ先】スマイル tel.03-6731-2400
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