ケイマス・スタイル
ワインのスタイルをあらわす表現に、「ケイマス・スタイル」という言葉があるという。これはナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンの代表的存在と評されている「ケイマス・ヴィンヤーズ」のワインのようだ、という意味だ。そのケイマス・ヴィンヤーズのワインメーカーが、チャック・ワグナー。今回、彼を囲んでのテイスティングランチが開催された。
1941年、チャック・ワグナーの父親、チャーリーが、ナパ・ヴァレーの中央あたり、バレーフロア(平野部)とよばれる、ラザフォードに買った土地で、ブドウを育てはじめたことに、ケイマス・ヴィンヤーズは起源がある。
この時点ではまだ、ナパといえばカベルネ・ソーヴィニヨン、などという認識はどこにもなく、チャーリー・ワグナーがカベルネ・ソーヴィニヨンを育て始めたのは1966年のことだというけれど、その当時でもまだ、カベルネ・ソーヴィニヨンはナパでは珍しかった、とその息子、チャックは言う。
チャーリー・ワグナーがワイナリーの設立を検討したのは、1971年。評判のチャーリーのブドウを、自分たちでワインにしよう、という構想だった。チャーリー、その妻ローナー、当時19歳のチャックは、家族会議の結果、ワイナリー設立を決断。1972年、ラザフォードのかつての呼び名にちなんだ「ケイマス」をワイナリー名に採用して「ケイマス・ヴィンヤーズ」を立ち上げた。このときもまだ、ケイマスの主力はカベルネ・ソーヴィニヨンではなかった。スタートしたころは、ケイマスはとても小さなワイナリーだった。そしてナパにはまだ10社程度しかワイナリーはなかったそうだ。
写真はワグナー氏とは関係なく、ナパの風景。ワインの生産者たちが主導的な役割を担い、1968年に農業保護区となったナパ・ヴァレーは、景観、産業が保護されている。現在では400社を越えるワイナリーがあり、広大なブドウ畑があちこちにある。車内でワインを楽しみながら、ワイン産地であるナパを巡る、右写真のワイントレインのように、ワインは文化として根付き、ワイン目当てで訪れる観光客も多い
チャックのワイン造りのメートル原器は、この72年の次の年、73年のヴィンテージにあるという。1973年は、ブドウの収量を少なくした。するとそのブドウでできるワインはとてもいいワインだった。それで、ブドウの数を追わないほうが、ワインの品質は高くなるのだ、ということも経験したそうだ。ケイマス・スタイルの原点は1973年にあるのかもしれない。
「現在、ケイマスはナパの16のAVA中、8つのAVAの畑のブドウをつかって、栽培ブロック、熟度などに留意して、70のロットのカベルネ・ソーヴィニヨンのワインを造ります。そして収穫の2ヶ月後にテイスティングをおこない、タンニン、熟成のポテンシャルなど、重要と考える要素に従い、3段階に格付けをします。トップの評価だったワインのグループを「ケイマス・スペシャル・セレクション・カベルネ・ソーヴィニヨン」に、セカンド・セレクションのグループを「ケイマス・カベルネ・ソーヴィニヨン」に向け、残りはバルクとしてほかのワイナリーに販売します。ブレンドの比率は、大体、25%程度が山側の地域の畑で育てられたカベルネ・ソーヴィニヨン、75%程度がヴァレー・フロアのカベルネ・ソーヴィニヨンになります。ほかのワイナリーがどうやっているかは知りませんが、私はこれが、いまベストなワインの造り方だと考えています」
1984年にチャーリーからケイマスを引き継いだチャックのワイン造りは、その豊富な経験に基づく。彼がこれぞ、と考えるワインの姿にはブレがなく、複数の畑のカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドすることで、安定してその理想を体現した高品質のワインを造りつづけることができる。「ケイマス・スタイル」はそんな名人芸だ。