そもそも、地理的表示って何?
地理的表示の考え方は、ヨーロッパで発達し、WTO(世界貿易機関)のTRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)に、地理的表示の考え方が定義されたことによって、日本でも取り入れられることになる。
TRIPS協定が発効された1995年に、壱岐(長崎県壱岐市/焼酎)、球磨(熊本県球磨郡及び人吉市/焼酎)、琉球(沖縄県/泡盛)が、その指定を受けたのが最初だ。その後、薩摩(鹿児島県/焼酎)、白山(石川県白山市/清酒)、山梨(山梨県/ぶどう酒)、山形(山形県/清酒)へと広がる。
面白いのは、日本酒(日本国/清酒)も地理的表示の一つとして指定されていること。つまりは日本の国産米を使い、日本で製造された清酒しか、日本酒と名乗れない、という世界に向けてのメッセージを発信したわけだ。日本酒の品質と価値を保護に、日本国としても本腰を入れ始めた証とも言える。
地理的表示に指定されることは、世界的な認知や評価が進むことにつながる。実際、山梨県産業技術センターワイン技術部主幹研究員の恩田匠博士に聞いた話によると、山梨県が国税庁から地理的表示の指定を受けた翌日、こちらからは何の連絡もしていないのに、以前研修に行ったフランスのシャンパーニュ委員会から「おめでとう」とメールが来たという。山梨が日本有数のワイン産地であることさえも知らず、研修をなかなか許してもらえなかった相手なので、このメールにはとても驚いたそうだ。
その後、この制度は食品にも広げられ、但馬牛、夕張メロン、鹿児島黒酢、三輪素麺、下関ふくなど各地の名だたる名産品59品目が指定を受けている。もっとも、こちらは農林水産省の管轄なのだそうで、国際基準に準拠して始めた酒類の地理的表示とは、多少異なる部分もあるようだ。
日本で唯一、ワインの地理的表示を許された県
2018年3月末現在、ワインで地理的表示の指定を受けているのは山梨県だけだ。山梨県は、日本のワインの発祥の地であり、現在では国内の約2割のワインを生産している。確かに、日本のワイン産業をリードしてきた地域だと言える。
約80社のワイナリーが集積し、行政のバックアップも充実している。山梨大学には日本唯一のワイン専門の研究機関「ワイン科学研究センター」もある。天候や地形などがブドウ栽培やワイン造りに向いているというだけでなく、ここには人材と技術も集まってきているのだ。大手ワインメーカーの多くがこの地に醸造所や自社畑を持っているのは、まさにそんな環境を求めてのことだろう。
そう考えると、山梨県が、日本で最初にワインで地理的表示指定を受けたのも、当然のことと思えてくる。地域を挙げて美味しいワイン造りに取り組む環境が、出来上がっているのだから。
間違いのないワインを飲みたいなら
しかし、山梨県産のブドウを使い、山梨県で醸造されたワインがすべて「地理的表示」ワインを名乗れるわけではない。ブドウの品種や品質、醸造方法などに厳しい基準がある。それらをすべてクリアしないと、地理的表示はできない。さらに出来上がったワインの品質審査もある。ブラインドテイスティングをして、審査員に認められないとダメなのだ。
つまり、美味しくなければ地理的表示はできない。山梨県の地理的表示は、ある一定の品質基準に達していることの証なのだ。
地理的表示が認められたワインには「GI Yamanashi」という表記が、ラベルにされている。絶対に間違いたくない時には、この文字を探すことをお勧めする。このサインは美味しいワイン選びのひとつの基準になる。もちろん、このサインがない美味しい山梨ワインも沢山あるのだが、知識の少ないワイン初心者にとっては、安心して買える心強い味方になると思う。
地理的表示の真価は進化する
もちろん、美味しい日本ワインの産地は山梨に限らない。日本各地で美味しいワインは造られ、世界的な評価を受けているワインも数多い。
現在、長野や北海道など、いくつかのエリアがワインの地理的表示の認可に向けて動いていると聞く。そうすれば、ますます美味しいワインを探す基準としての地理的表示の価値は高まる。日本ワインの世界的な認知と評価も高まるはずだ。
今後、地理的表示ワインが増え、ボルドーとブルゴーニュのようないいライバル関係を築くことで、美味しい日本ワインがますます増えることを期待したい。