
「これがヤラ・ヴァレーだ!」と説明してくれる「メイヤー」のティモさん
ヤラ・ヴァレーは広い
「ヤラ・ヴァレーのことはどれくらい知ってるか?」というメイヤーの主、ティモさんの質問に対し「ほとんど何も」と答えた私たちのために、ティモさんさんはまずヤラ・ヴァレー全体について話しはじめた。
ハンター・ヴァレーにアッパーとローワーがあったように、ヤラ・ヴァレーも谷を横切る川の上流と下流で気候や土壌が大きく異なり、アッパー・ヤラとヴァレー・フロアに区別される。
アッパー・ヤラは、山からの冷たい空気が流れ込み冷涼なため、スパークリング用のシャルドネやピノ・ノワールが多い。かたやヴァレー・フロアは乾燥して暑く、カベルネやシラーズ、さらにイタリア品種など、晩熟品種が多く植わる。ただし、最近は温暖化の影響で、おなじ品種でもさらに標高の高い土地に植えたり、スパークリング用品種はもっと冷涼なタスマニアに移るなど、状況も変化してきているという。
フード・フレンドリーなワイン
説明を聞いていると、近くにあるワイナリー「マック・フォーブズ」からマック・フォーブズ本人が合流した。
「目指すのは、フード・フレンドリーなワイン」とマック・フォーブズ
マック・フォーブズは、「フード・フレンドリー」なヤラ・ヴァレーのワインを世界に発信する造り手。「“意識しなくてもおいしい”と感じるワインはフレッシュなワイン」と、フレッシュさと飲みやすさを何より重視している。少年のような雰囲気と甘いマスクに胸を高鳴らせていると、いきなり靴を脱ぎ裸足になった。
さすがヤラ・ヴァレー育ち(自由な人だなぁ)……と思ったら、これからメイヤーの畑にいくにあたっての病害対策だった。ヤラ・ヴァレーではフィロキセラのリスクがあるため、2、3日以内に他の畑からきた人は、靴を変えないといけないという。
フィロキセラ対策としての裸足
メイヤーの哲学
メイヤーの畑はオーガニック栽培で、除草剤はいっさい使わない。
ピノ・ノワールの畑では、8種類のクローンをランダムに植える。それぞれ特徴の違うクローンから育ったぶどうを一緒に収穫すれば、全体としてバランスがとれ、複雑さも出るという。
畑に残っていたカビに侵されたぶどうの葉、影響のないものはそのまま残しておく
「Money cannot buy this(お金を出しても買えないよ)」と出してくれたワインは、白ワインも含めて蔵にある全ての樽をブレンドしたもの。2/3が全房発酵、ノンフィルターなので少し濁っている。
単一ワインとしてリリースできないぶどうはブレンドに回す比率が高くなり、年によってブレンド比率は変わる。2014年はカベルネが主張したかと思えば、2016年はピノノワールが強くなったりと、垂直試飲すればその年の特徴がわかるのだ。
金色のろう付けもすべて手作業で行っている
想像以上に神秘的なワインだった。一口飲んだだけではわからない。もっと知りたくて杯を重ねれば、時間をともにさらに変化していくに違いない。これは1本じっくり時間をかけて飲まないといけないワインだ。
ティモさん本人はフレンドリーで茶目っ気のある人なので、ワインも開放的なものをつい想像したが、逆であることに驚いた。ワインには造り手の個性が出るというから、ティモさんはああ見えて、実はすごく繊細で哲学的なんじゃないだろうか……。実際、2015年のシャルドネは、ワインにするには納得できる品質ではないと判断し、ブランデーにしてしまった。そのエピソードに、ティモさんの職人気質と譲らない哲学を感じた。
ブランデーとして生まれ変わる2015年のシャルドネ