ビーチと東南アジア料理
「告白すると、私自身、長いこと、オーストラリアワインを飲まない時期がありました。ワインを研鑽するにはヨーロッパのワインを飲まなくちゃいけない、と頭が凝り固まっていた。でも、いまのオーストラリアワインの多様性、創造性に気づいてから、また愛するようになったのです」
「オーストラリアン・ファインワインとモダン・タイ料理とのハーモニーを探求する」と題されたセミナー&ディナーは、まずマイク・ベニーのセミナーから始まった。場所は、恵比寿ガーデンプレイスタワー39階に、8月下旬にオープンしたばかりのレストラン「Longrain(ロングレイン)」である。シドニー発のモダン・タイ料理、という不思議なコンセプトのお店だ。WINE-WHAT!?でも紹介しているので、ぜひご確認ください。
それにしても、オーストラリアワインのセミナーでなぜタイ・キュイジーヌ? まあ、聞いてください。話はちょっと長いけど。
オーストラリアには60を超える公認産地がある。ワインの歴史は170年。世界のほかのワイン産地と比べるとそれほど長いものではないけれど、つねに小さな生産者が自分たちの小さな畑でブドウを栽培することで、クリエイティヴィティを発揮してきた。今回に試飲用に用意した6種類のワインで、オーストラリアワインの歴史と未来を感じてもらえるはずです。マイクはときおり、ビールか白ワインで喉をうるおしながら来場者にそう語りかけた。
「いまのオーストラリアワインの世界で起きていることは多くが若い世代のつくり手たちによって牽引されている。彼らはチャレンジングで、オーストラリアの文化をワインで表すというナチュラルなヴィジョンがある。ちょっと前のオーストラリアワインのイメージは“ビッグな赤ワイン”だった。それはでも、“自分らしさ”が分かっていなかったからなんだ。でも、オーストラリアではほとんどの人が沿岸部に住んでいて、ビーチ、海が近くにある。食べものは東南アジアの影響が強い。アウトドアが大好きで、夜中でもビーチに行ってワインを夜通し飲んだりする。そういうライフスタイルがオーストラリアなんだ。
つまり、オーストラリアといえば、“ビッグでボールド(大胆)なワイン”だと思われているけれど、そういうワインはオーストラリアのカルチャーと実はマッチしていない。
ようやく生まれて来た現代的なオーストラリアワインは、オーストラリアのライフスタイルや食文化をさらに高める調味料的な役割を担っている。これまではプロセス重視だったけれど、いまは原産地が重要視されている。そして、その多様性が知られれば知られるほど、オーストラリアらしさ、というものが理解される。オーストラリアワインは何が面白いのかともし聞かれたら、たとえば、今まで日の目を見なかった風変わりな品種を使ったり、ブレンドの妙であったり、冷涼な産地にシフトしていたりすることです。純粋さ、フィネス(繊細さ)、飲みやすさ、いかに食事とあいやすいか、フードフレンドリーであるかが重要視されている。
そういったことで、オーストラリアワインは世界でますます需要が高まると思います。本日は6種類のワイン、オーストラリアワインの古いのと新しいのを対比させることで、いまの姿を浮かびあがらせたい。話はともかくとして、一番大事なことはエンジョイしてもらうことです」
そういってマイクはちょっとはにかみながら微笑んだ。